
カレン・ザ・トランスポーター #6
「あのトランクは諦めない。よって貴方たちの身に危険が及ぶ」
宣言と同時に結界を展開。風が球状のドームとなって私の周囲に張り巡らされる。
とはいえ、防衛手段としては矢を防ぐことができるくらいで、訓練された戦士の打撃や斬撃を防げるものではない。
「ライエル小隊長!この子供、精霊使い(シャーマン)です!」
「作戦中は本名で呼ぶなと言ったろうトーマス!子供だからと言って油断するんじゃないぞ!」
ははーん、さては君たち、馬鹿だな?
さて、逃げ出して振り切るのは簡単だ。しかし、この2人は既にトランクを持っている私に対して「”あの”トランクを諦めろ」と告げたのだ。
トランクが入れ違ったことを知っている、つまりあの紳士の関係者であることは疑いようがない。
多少遠くに逃げられたとしても、ここで得られる情報には代え難い。
そして何より、私を子供呼ばわりした罪は一級殺人罪に匹敵する。
2人組はじりじりと間合いを詰める。
そこいらの山賊や野盗の類とは技量が違うのはひと目でわかる。
一介の運び屋である私如きがまともにやり合えばただでは済まないだろう。
じゃあどうするか、馬鹿を相手にするときは頭を使うのが一番良い。
私は結界を解除した。
2人は少し怪訝な顔をしたものの、警戒を緩める気配はない。
「観念したか。さあトランクを渡してもらおう」ヒゲが言う。
私は何かに気づいたように2人の背後、少し遠方を見やる。
「えっ、衛視さーーん! 助けてー! 山賊でーーーーす!!!」
視線を外さぬまま大きく手を振る。
「ハッ、そんな古い手に・・・」
ゴスッ!!!
私を見据えたままのトーマス、若い方の男だ、そのトーマスの真横で鈍い音がした。
真に受けて振り向いたヒゲの男、ライエルだったか、そのライエルの後頭部に私がブン投げたトランクが直撃したのだ。
ヒゲ男は言葉も発せぬままうつ伏せに倒れ伏す。
「ライエル小隊長ォォォォォォォッ!!!」
トーマスが駆け寄り、泣きながら手首をとって脈を測ったりしている。
卑怯な手がどうだとか騎士の誇りがどうだとか叫んでもいる。
「任務は僕が立派に成し遂げて見せます!おのれ逆ぞk…」
涙と鼻水まみれで向き直ったトーマスの視界に入ったのは、真っ直ぐに飛んできた私の右ひざだった。
【続く】