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イッキューパイセン #4

【掌中の蟷螂】  
 城下町を望む天守閣。
  広間には晩夏の涼風が流れ込んでいる。
 十数名の家臣が居並ぶ中で領主に謁見するのは一人の僧侶であった。
 漆黒の袈裟に金糸で刺繍された「お前が来い」「不信任決議案」「無礼にはBLADE」「国破れて山河あり」などの経文が周囲を否応なく威圧する。

 「よ、よくぞ参ったなイッキューよ」
 イッキューと呼ばれた僧侶は知っている。
 この呼び出しが単に領主の自尊心を満足させるための知恵比べの場に過ぎないことを。
 「さて、この度は其方に是非言い当ててもらいたいものがある」 
 領主はまるで握り飯を作るときのように丸めた手のひら同士を重ね合わせたままパイセンに告げた。 

 「この掌中には蟷螂が一匹入っておる。その蟷螂が生きているのか死んでおるのかを見事当ててもらいたい」
 いつものくだらない話だ。
 周囲の侍衆はニヤニヤと下品な笑みを浮かべている。
 おそらく答えを知っているのだろう。 

 「破ーッ!!」「グワーッ!!」
 とりあえず手近な3名ほどの目じりに肘打ちを入れて出血させると、パイセンは座禅を組み目を閉じたまま答えた。
 「生きているぞ」
 「ほう」
 領主の目が細まり、腕に力が込められようとしたのをパイセンは見逃さなかった。
 「破イヤーッ!」「グワーッ!」
 高速で繰り出されたパイセンのサマーソルトキックが領主の手首を直撃!
 その手から蟷螂が一匹こぼれ落ち、窓から夕暮れの空へ飛び去っていく!
 「俺が”生きている”と答えれば掌中で蟷螂を圧死させるつもりだったのだろうが、読みが甘かったな」
 「グワーッ!グワーッ!」
 領主は痛みに耐えきれずのたうち回る!
 「ひとつ教えておいてやろう。僧侶の座禅は単なる座法ではない。溜めコマンドを兼ねているのだ」
 「そして」数歩後退しながら言葉を続けるパイセンの両腕に光が宿る。
 「ブッダはおっしゃった。『生き物を大事にしない奴は死ぬべきだ』と」 交差した腕から放たれるソニックブームが家臣団をなぎ倒した。

 【おわり】

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