
カレン・ザ・トランスポーター #28
前 回
王都ヴァレリア。
鎧鳥通りのちょうど中央にある装具店『白銀の城』が目印。
すぐ横の路地に入ると目の前に『百合と薔薇亭』の看板が目に入る。
黒字にピンクで書かれたやけに丸々しい文字のせいで、視界に入ったが最後、嫌でも脳が認識する。
建物脇にある階段を降りた先は見るからに重厚な鉄製の扉で閉ざされており、とてもではないが『都会の隠れ家的一軒 こういう店を知っておくと貴方もひとつ上のオトナになれる』みたいなところでない。
「攻め」
「…受け」
どこの誰が決めたんだという合言葉の確認が済むと、扉の向こう側で錠前が外れる音が2回。
扉の向こうには10m×10mくらいの仕切りのない部屋。
扉の周りに誰もいないことから、おそらく合言葉に反応するように魔術的な仕掛けがなされているのだろうか。
木製の床にレンガの壁。少し高さがあるカウンターがすぐ目の間に。
その向こう、カウンターを挟んで来訪者と相対するように置かれたテーブルとイスが一組。
おそらくこの席に座る人物が話を聞いてくれるのだろうが、どうも今は席を外しているようだ。
テーブルの上に積まれた羊皮紙の山は角がキレイに揃えられた状態で、この席を持ち主の人物像が何となく見えるような気がした。
どこまでが酒場でどこまでがギルドなんだかわかりゃしない冒険者ギルドに比べると、そのギャップにちょっと戸惑いを覚えるところだ。
受付席のさらに奥にはもう一回り大きなテーブルがあり、見たこともないような服を身にまとい、長くて細いスカーフのようなものを首に巻いた男性が、黒曜石の板のようなものを指でつつきながら何かぶつぶつと口を動かしていた。
声をかけようとも思ったが、眉間に皺が浮かびいかにも神経質そうな人だったので内心ちょっとビビってしまい、おとなしく受付な人を待つことにする。
カウンターに頬杖をつき、あたりを何気なく見回す。
向こう側にも3つほど扉があるが、入り口ほど厳重ではなさそうな木製の扉で、魔力なども感じられない。
顔を横に向ける。
思ったより多くの利用者がいるのだろうか、丸太を横に倒して脚を付けただけの簡素なベンチも置かれていて......
「…あれ?」
思わずに声に出してしまったが、そのベンチに一人の女の子が座っていた。
耳が長い、エルフだろうか。
レンジャーのような身なりからするとウッドエルフだろう。
「ハァーーーーーー」
声にも音にもならないような深い深いため息をつきながら、ただただ下を向いている。
何か大事なものでも無くしちゃったのだろうか。
まだ子供なのにかわいそう。
そう思ったとき
「カレンちゃーーーん!ちょうどいいのがあったわよ~ぅ!」
綺麗な声だった。
真横のベンチに座った女の子がびくっと体を震わせたことに気づかないほど、とても綺麗な声だった。
【続く】