カレン・ザ・トランスポーター #14
「で、これを何処の誰に届けるんだあんた?」
「導きの森の木こり用の奴よ」
私は本来の目的を秘して衛視たちに伝える。
「わざわざ王都からこんなにも…『導きの森』の木こりたちは最近羽振りが良いって話だったが?」
「そんなこと言われても知らないわよ」
――嘘である。
私は知っている。
木こりたちが羽振りが良いと言われる理由も。
この斧が「木こりに渡すものではない」ことも。
「まあそれはそれとして、あんたが王都の正式な運び屋で、荷も違法なものではないことがちゃんと確認できた。邪魔をしたな、協力に感謝する」
隊長がお決まりのような言葉を並べ合図すると、衛視たちはぞろぞろと部屋から出て行った。
ドアの向こうから見物していた他の宿泊客も、つまらなそうに帰っていく。
騒動が落ち着くのを待っていたのか、宿屋のおっちゃんが温かいスープとパンを運んできてくれたので、心の中で小さくガッツポーズをする。
心の中なのだから派手にやってもよさそうなものだが、心の中で派手にやると心の外に小さくはみ出るかもしれないので私はそうしている。
ちなみにはみ出たことは無いのだけれども。
「いやー、お客さん災難だったねぇ」
先ほど不慮の事故により空になったグラスに水を注ぎながら話しかけてくる。
「でもさぁ、せっかくお客さんがこんだけ斧持ってきてくれても、あいつら使わないと思うよぉ?」
「そうなの?」
知らない体でやりとりしたばかりなのでそう答える。
あ、このトウモロコシのスープ美味しい。
「なんか皆派手で高そうなもん着てさぁ。まぁ金落としてってくれるのはいいんだけども、材木も薪も入ってこないんで今は遠くから取り寄せてるんだよ。いやんなっちゃうねぇ」
「なんでそんなにお金があるの?言っちゃ悪いけど木こりしてたんでしょ?」
当然の疑問を尋ねてますという顔をしてパンをひと齧り。
「いや、理由は誰も言わないんだよねぇそれがさぁ」
「悪いことでもやってんじゃあないのぉ?」
―――これも嘘。
私は木こりたちが何をしているかを知っている。
だからこそ”これら”を運びに来たのだ。
「埋まってたお宝でも見つけたんなら、少しお裾分けしてほしいもんだなぁ。おっといけない。ではごゆっくり」
「どーも」
おっちゃんが部屋から出てドアが閉められたのを確認すると、私は内ポケットを探って1通の手紙があることを確認する。
封筒には運び屋の公式な荷であることを示す印。
そう、これが本来私が運ぶべき品だ。
改めて周囲を確認すると、パンをちぎってスープに浸し、スプーンを使ってぐちゃぐちゃに崩す。
ひたひたになったパンをスプーンで啜り、口元を拭いた後深く息を吐く。
同時に、テーブルの上に置いた手紙が視界に入り、私は思わず独り言を呟いた。
「文字通りの『神頼み』ってのをやることになるとはねー」