戸平川絶対防衛線 ~伝説の7日間~
鮮やかな紅葉が山々を朱色に染める。
霜降を迎え、人々は厳しい冬に備え始める。
エゾ・ランドのほぼ中央にある開拓都市サップーロ。
グリズリー・コロシアムの向かい側に立つ市議会棟議場では、市長をはじめとし、市議、猟友会、環境保護団体、自衛隊、傭兵団、シャーマンなど錚々たる顔ぶれがまさしく百家争鳴の様相にあった。
「害獣だという証拠がどこにあるんですか!」
環境保護団体代表が市長に声を荒げる。
「で...ですが放置というわけにもいかず...」
しどろもどろの市長。その額には玉のような汗。
「全て儂らに任せればいい」
猟友会から一人の老人が立ち上がって言った。
すっかり薄くなった頭頂部、眉間から左顎下に走る古傷。
手には年代物のボルトアクションライフル、レミントンM700。
議場には持ち込み禁止。
彼こそは日隈宇津造。
気配、呼吸、心音、その全てを殺し獲物を待ち伏せ、確実に仕留めることから『死人の宇津造』と呼ばれた伝説のハンターだ。
「しかし、今回ばっかりは勝手が違いすぎませんかね死人の旦那。そのご自慢のライフルで1匹1匹仕留めてたんじゃ埒が開かねぇぞ」
カナダの傭兵サイボーグ、ツンドラマンが口を挟む。
10本全ての指がモリ・ジャベリン発射カタパルトに改造済!
もちろん議場には持ち込み禁止。
そのとき、静かに祈りを続けていたシャーマンがカッと目を開いた。
同時に議場の扉から慌ただしく駆け込んでくる市職員!
「大変です!たった今遡上が確認されました!」
全出席者が椅子から腰を浮かす。
サップーロ市、戸平川。
5年前、市のキャンペーンとして行われた「カムバックサーモン運動」による鮭の稚魚100万匹の放流。
100万匹は厳しい規律を敷き1個の軍団と化して各地の魚介勢力を圧倒。
北太平洋、オホーツク海等を瞬く間に制圧し、今まさに産卵のため、故郷に里帰りを果たしたのであった。
生き残るのは鮭か。人類か────。
【DAY1-2へ続く】