CULLEN THE TRANSPORTER EXTRA STAGE #8
前 回
リザードマンを先頭にした「タイタン・ニック乗合馬車組合」の護衛6名ほどが、眼前の騎士団へ突撃を開始し、私は全てが終わった後何をどう話せばいいのかを考え始めた。
とりあえず筋肉痛の荷物(文字通りの)は馬車内に残し、私と王子はその左右を固めながら趨勢を見守ることにした。
リザードマンは他の騎士を掻い潜り騎士団長ポワワ・マーベルへと接近。
垂直跳躍から馬上の彼女めがけファルシオンを振り下ろす!
だが女騎士は一切動ぜず、軍馬の横腹を守る円形の鉄板に手をかけると...
「ふんぬッ!」
気合とともにそれを頭上まで一気に持ち上げ斬撃をガード!
ガキィィィン!!!
金属同士が衝突する不快音が周囲に響き渡る。
「おいおいおい!アレって盾?盾なのか!?
直径が80…いや1メートルくらいあるぞ!?マジかよ!?」
首だけを客車の窓から出したA・Kが何か叫んでいるが正直うるさいし流れ弾に当たると大変なので引っ込んでいてもらいたい。
リザードマンは相手の”盾”を両足で蹴り込んでバック宙!
遠心力の加わった太い尾によるアッパーが襲い掛かる!
「せいやぁッ!!」
女騎士は右手を軍馬の横腹へ!
引き抜かれた同型の鉄板は先程の刃と同じように尾を弾く!
バッシィィィン!!!
これまた強烈な破裂音。
リザードマンは一度呼吸を整えようとバックステップで距離を取る。
そう、これが王都第2騎士団長、ポワワ・マーベルの「大盾二刀流」のスタイルだ。
「この槍を振るうことになる」とか言いながら振り回してるのは2枚の巨大な円盤なわけだけども、あれはきっと騎士の常套句のようなものなのだろう。
それはそれとして、まぁ騎士団長だけあって強いよね。
あのリザードマン、相当にレベルの高い冒険者さんなんだけども。
「貴方たちの態度はよくわかりました!もはや言葉は不要!」
人差し指を真正面に向けてマーベルが吠える。
いや、もうすでに大乱戦なんだけど。
「だから何かの間違いじゃないのー?」
華奢なエルフが当たったら即死しそうな巨大鉄円盤を振り回しながらも、まだ槍の穂先くらいは会話を試みる余地が残っていそうだったので、私は馬車の真横から大声で呼びかけてみる。
「何が間違いだというんですか!」
馬上からの返事。おお、これは少し光明が見えたか!?
「隙ありゃー!!」
「ウ”ラ”ァッ!!」
背後から飛び掛かった護衛を盾裏拳で真横に吹っ飛ばす!
「こちらは王都の運び屋だよ!?その私がつい昨日西の高原で発見してずっとここまで一緒だったんだけど!?証言したっていい!ひょっとしたら王様の暗殺を企んでいたかもしんないけど、どう考えても無理でしょ!」
「私は彼の友人だが、私もずっと行動を共にしていた。彼に王の暗殺を試みる機会などなかったことは保証する。”王になって剣闘士コロッセオを建設して放蕩三昧しよう”とか動機はあったかもしれないが物理的に不可能だろう。何せ我々はこのとおり”召喚”をされたばかりの身でね」
エルフの王子が私の論を補強しに入る。
馬車の中から何か抗議の声が聞こえるが、ヤドクコオロギの鳴き声か何かだと思うことにした。
「詭弁!何かしらの瞬間移動で逃走した可能性が!」
リザードマンの斬撃をガード。
「王都内それ系の魔法禁止でしょ 結界あるし」
飛んできた矢をひょいとかわす。王子が反撃の一矢。命中。
「しかし目撃者がいて...」
また護衛を殴る。あっ、いいトコ入ったかも。
「目撃者って誰?」
王子の矢が当たった騎士が顔を真っ赤にして兜を投げてきた。
「ちょうど現場に居合わせたようだが身元はよくわからん!」
飛来した雷の帯の前に盾をかざす。
「なんでそういうのちゃんとしとかないのぉ!?」
兜を思いっきり蹴飛ばして向こうに返す。
「我が第2騎士団団員が直接話を聞いたのを信用できないと言うのか!」
飛んできた兜を盾で弾く。「俺の兜ォ!」騎士がそれを追う。
「できるわけないでしょーーがぁぁぁ!」
「よし、そこまで言うのであれば証言させよう!ムメモリー!」
「はっ!少々お待ちを!」
ムメモリーと呼ばれた騎士は団長から遠く離れた地点で兜を拾うと、全力ダッシュでその真横に駆け付けた。
「ムメモリー卿、目撃者の証言では、犯人はあのA・Kという冒険者に間違いないのだな?」
マーベルは馬車の窓から首だけ出しているA・Kを指さす。
「あっはいそうです。あの男が”目撃者”です!」
ムメモリーが即答する。
「ん?」 私は首を傾げる。
「おや?」 エルフの王子も。
「いや、目撃者ではなく犯人が...」 マーベルも困惑。
「ええ、ですからあの男から『A・Kという冒険者が逃げて行った』と証言を...貴公!王城内で話したであろう!私だ!ムメモリーだ!」
「...は?」 女騎士団長の眉間に谷のような皺が浮かぶ。
「なーんとなく読めてきたかなぁ?」
王子が番えていた矢を矢筒へ戻す。
お互い一進一退。決め手のないままの膠着状態の戦場に一陣の風。
「急報ー! 急報にございますー!」
東の空を駆けてくるのは一頭のグリフォン。
その背に跨るのはやはり王都の正式な鎧をまとった正規兵だ。
騎士たちはその鞍の色に一斉に注目する。
危急の報を告げる王都のグリフォン隊。
その事態の大小は鞍の色によって判断される。
───橙。国家存亡一歩手前くらいの大事件の色だ。
騎士たちが色めき立つ。
マーベルは素早く団を指揮すると、馬車護衛の一団と距離を取る。
この急報の重要度は冒険者であろうとも十分に理解が行き渡っており、両者の緊張感は一気に薄れていく。
騎士団と馬車護衛の中間地点へゆっくりとグリフォンが着地し、騎乗の騎士は下馬せずに腰筒から書簡を取り出すと声高に読み上げた。
「第2騎士団長ポワワ・マーベル卿!王命である!直ちに王都へ引き返されたい!地下宝物庫が襲撃されました!直ちに追跡・奪還行動へ移行されたし!」
マーベルは立礼をしたまま返答。
「しかと拝命いたしました。しかし王都の警備については栄光ある第2騎士団が...第2...騎士団が...」
女騎士団長の顔がまるでスペクターのように生気を失っていく。
ま、そりゃそうだよね。
「犯行集団の首魁はA・Kと名乗っている模様!繰り返す!直ちに追跡・奪還行動へ移行されたし!」
グリフォンが天高く嘶いた。
【続く】