CULLEN THE TRANSPORTER EXTRA STAGE #3
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つまり、新規アカウントを作成する際に何かしらの超自然的な力がはたらいて精神の一部をこっちの世界に移動させ、それをアバターを稼働させるためのエンジンだか燃料だかにしている、ということなのだろう。
それにしてもメールアドレスだけで実際の保有者を特定して、あまつさえ精神にまで干渉するなんて、どういうトンデモシステムをしていやがるんだ。
これだからファンタジーって奴は...
「ところで、精神の一部を利用するという話だけど、元の世界にいる僕たちには何も影響が出ないのかな?僕たちの常識で考えるとだいぶ負担が大きそうに思えるのだけれども」
王子が当然の疑問を挟む。
自らを『運び屋』と称し、俺たちを元の世界に送り届けると宣ったエルフの少女は、その問いに軽く頷いた後、口中に放り込んでいたマカダミアナッツの化け物みたいな木の実をばきりと噛み砕き飲み込むと、今までで一番真剣な表情でこちらを見つめた。
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元の世界の自分たちは今どうなっているのか?
そうだよねぇ、そりゃあそうだよねぇ。
私はグラスの水をぐいっと飲み干すと、いかにも『これからすごく大事な話をしますよ』という雰囲気を出すために身を乗り出し、ちょっと意識して低く重くした声でその疑問に答える。
「正当な召喚方法であれば、いわゆる『元の世界』にいるあなたたちに精神の主導権があって、あくまで...うーん...私も詳しい仕組みは知らないんだけど、よーするに”元の世界から使い魔に命令を出してる”状態に近いらしいんだけど、この説明でわかる?」
A・Kはフォークでグールアロワナの切り身を無造作に突き刺し、なんだこりゃというような顔をして口中に放り込むと頬杖をつき少し斜め上を見やり、視線を戻さずに何度か頷いた。
「おおむねオッケーだ。こっちに来るのはプレイヤーキャラクターであってプレイヤー自身ではないということだよな?」
ぷれいやー? きゃらくたー?
「いや、こちらの話だ。気にしないでくれたまえお嬢さん」
隣の王子様とやらが割って入る。
額と額がぶつかりそうになり慌てて身を引く。
ぱ.....パーソナルスペースってやつを守ってほしいものね!
.........コホン。
自身を落ち着かせるためにわざとらしい咳払いをひとつ。
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「だがさっきアンタは”正当な召喚方法であれば”と言った。俺たちはどっかのファック野郎にメアd...じゃなかった真名とやらを悪用されたせいで巻き込まれちまったんで、正当な召喚じゃないって解釈で合ってるか?」
俺が確認を求めるとカレンは小さく、だがしっかりと首を縦に振る。
「そう。貴方たちは依り代が無い状態で喚ばれちゃったんで、冒険者として成り立つための魂を多く消費している状態。ここもよくわかっていないんだけど、正当な召喚で喚ばれた冒険者はその容姿、能力、性別、体格、果ては種族までも自由に選んでこっちの世界に顕現できるそうなの。でも...」
「僕たちはそのプロセスを経ていないので、元の世界の容姿のままでこちらにお呼ばれしている、というワケだね」
王子が席から立ちあがり、くるっと回って謎のポーズを決める。
確かに俺と王子の人相や体格などには特に変化がない。
チッ、俺だってもう少しカスタマイズしたいパーツはあるんだ。
「理解が早くて助かるわ」
カレンは王子を一瞥すると話を続ける。
「でも、さっき話したとおりこれはイレギュラーな事態であって、元の世界の貴方たちに何らかの異常が出る可能性だってあるの。だからこの世界では”ドッペル”、つまり他人の真名を利用した召喚を厳しく禁じ...」
CRAAAAAAAAAASHHHHHHHH!!!!!!
窓ガラスをぶち破って店内に突入してきたのは、黒ずくめの衣装で全身を覆い、鋭利な細身のシミターを携えた5名ほどの人影。
他のテーブルには目もくれず全員がこちらにまっしぐらだ。
咄嗟に身構える俺の右手の甲に何か冷たい感触。
「今は十分なものがないの。これを使って頂戴。急いで!」
いつの間に取り出したのか、カレンが小型の手甲を俺に押し付けていた。
すぐ後ろでは、同じように彼女から受け取ったのか、王子がショートボウを構え既に狙いを定めている。
「ドッペルを禁じている理由はもうひとつあるの!」
テーブルを蹴飛ばし広い場所を確保しながらカレンが叫ぶ。
「どちらかの冒険者が倒されないと、元の世界に帰れないのよ!」
【第3話終わり。第4話へ続く】