カレン・ザ・トランスポーター #27
前 回
※注意 多少グロテスクでショッキングな描写がございます。
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EREN:スネさん復帰無理ぽいしとりあえずこっちに神ナクかけて
SNEAK:◆【DROWN】中はチャットを行うことができません◆
ANDERSON:神ナクおk
SNEAK:◆【DROWN】中はチャットを行うことができません◆
SNEAK:◆【DROWN】中はチャットを行うことができません◆
AINS:ジャベ撃つから射線NGな
SNEAK:【DROWN】中はチャットを行うことができません
RIVAI:ちょっとこのTかいふくすrわ
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重戦士の援護に入るべく、巨漢のグラップラーが一気に間合いを詰める。
その拳は神官の補助魔法により白い輝きを帯びていた。
後方のウィザードも短い詠唱を終え、中空に巨大な氷の槍を出現させていたが、これを前方へと射出しようとした刹那、集中が途切れる。
左耳の後ろから顔の半分にかけて、高温の液体が飛散したのだ。
まるで熱湯を突然浴びせられたかのような刺激に思わず振り返ると、そこには首から上のない1人の森林自警団が立っていた。
首の断面からは火口の溶岩のようにごぽり、ごぽりと血液が湧きだしていた。シュー、シューという音とともに、首周りの肉が焦げる嫌な臭いが鼻につく。
若い魔術師は首元を手で拭う。
まだ温かみのあるどろりとした感触。
それが血液であることを理解するまでに時間はかからなかった。
首のない死体はそのまま地に両膝をつき、前のめりに倒れる。
1回だけびくんと跳ねた後はそのまま動かなくなった。
巨漢の剛拳が空を切る。
力任せの大振りではない。アリーナで天覧試合を披露する拳闘士レベルの手数とスピード、そして正確さを持つコンビネーション。
だが当たらない。
薄紫の少女は舞うが如くに、いや、実際に舞いながらこの高レベルグラップラーの攻撃をかわし、いなし、防ぎきっている。
彼女は彼の後方、異常事態に戸惑うウィザードを指差しながらまたくすくすと嗤い出し、ぱちんと指を鳴らした。
シューーー シュ-----
風船から空気が抜けるような音とともに、正気を失っていた十数名の森林自警団、その全員の頭部が膨らんでいく。
栗鼠頬の流行り病にかかった程度のむくみから、大きめの西瓜くらいへと膨張してもまだ終わらない。
唇が裂け歯茎が剥き出しになる。
皮膚がひび割れめいて千切れ顔中に鮮血が滲む。
眼窩から眼球がぽろりと零れ落ちる。
髪の毛が抜け落ち顔中の血管が浮かび上がる。
ここまで凄惨な状況にあっても彼らはただただ宙を仰いでいる。
風の吹く雲ひとつない夜空。そこに浮かぶ月を崇めるように。
PANG! PANG! PANG!
限界を迎え、一斉にその頭部が破裂した。
先ほどの1人目と同じく、痙攣しながら両膝を地について、どさりと前にれる。
狼狽しながら魔術師はすぐ前に向き直る。
死んだものを気にしているわけにはいかないからだ。
信頼するに足るパーティの最大火力、グラップラーの拳は依然としてこの化け物に対し決定打、否、有効打すら与えられていないのが現状。
冒険者たるもの、ましてやウィザードたるもの、地獄のような光景を目の当たりにしようとも、冷静でなければならない。
ソロ経験の長い魔法職はよく知っている。パニックになった奴から死ぬ。
杖を構えて詠唱を開始、再度呪文による援護を試みる。
レンジャーの回復を諦めた神官は重戦士をなんとか近接戦闘エリアから引き離して負傷箇所に手をかざす。
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EREN:HPはともかく、右手ダメっぽいわこれロストのバステ直んね
KIRITO:なんで
EREN:カスだから
KIRITO:リムカス効かねーの?
EREN:うn
KIRITO:じゃ武器かえるわ
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ミスリル製のダガー2本を携えた軽戦士がグラップラーの救援に入る。
足元に転がっているのは1本金貨30枚はする最高級ポーション。
あの子が見たらどう思うだろうか。
拳を平手でいなし、ダガーの回転斬りを翼で防ぎながら薄紫の怪物は僅かに口元を歪ませた。
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SYSTEM:【SNEAK】は行動不能となりました。
キャラクターを教会へ移動させ【魂の器】を使用して蘇生の儀式をおこなってください。儀式をおこなえない場合、【魂の器】を使用することでキャラクターの一部を引き継いだ新たなキャラクターをクリエイトすることが可能です。(※アイテムは全て失われます)
RIVAI:マジかスネさん間に合わんかった
ANDERSON:スネさんskypeのほうちょっと静かにして
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ダガーが弾かれ、拳がいなされ、浄化魔法が無駄に神官のマナを減らすこと3回目。
ついにグラップラーの拳が少女の胸部中心を貫いた。
やった。
誰もがそう思った。
グラップラー以外の、誰もが。
胸から背中へと風穴を開けられた化け物は笑みを崩さない。
グラップラーはわかっていた。手ごたえがまるでなかったからだ。
その拳を抜くことができなかったからだ。
渾身の一撃が貫いた箇所。そこには無数の蚊が蠢いていた。
拳、前腕部、上腕部へと蚊は群がり、口吻を突き立てる。
「ッ!!」
通常の蚊とは違う、熱した釘を突き立てられるような激痛に襲われる。
1匹ではない。数百匹、数千匹という数だ。
ダガーの軽戦士が救援に入る。
翼がひるがえり再び林へと弾き飛ばされた。
魔術師の生み出した氷刃が降り注ぐ。
グラップラーの喉元を掴むと、片手で頭上に掲げ肉盾にする。
氷刃は巨漢の背に突き刺さり朱に染めた!
まだ重戦士の回復は終わっていない。
無数の蚊はそのままグラップラーの血液を吸い上げていく。
腹部に血が溜まっていき、巨漢の右腕に群がった塊は黒から赤へと変色していった。
目がくぼみ、頬がこけ、みるみるうちに生気が失われる。
蚊に群がられた右腕は枯れ枝のように痩せ細っていく。
「やっぱり皆このときが一番キレイねぇ~」
少女は巨漢の顎を親指と人差し指で掴んで引き寄せると、軽く口づけを交わし、次の瞬間、首筋を噛みちぎった。
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SYSTEM:【EREN】は行動不能となりました。
キャラクターを教会へ移動させ【魂の器】を使用して蘇生の儀式をおこなってください。儀式をおこなえない場合、【魂の器】を使用することでキャラクターの一部を引き継いだ新たなキャラクターをクリエイトすることが可能です。(※アイテムは全て失われます)
RIVAI:は?
ANDERSON:悪ぃ停電した
【ANDERSON】さんがログアウトしました。
RIVAI:何にげてんだコラ#
AINS:とりあえず俺らも落ちちゃわね?もう無理だって
KIRITO:は?ペナ10Tだぞ?死体の回収できなくなるじゃん
AINS:とりあえず落ちてあとで「ワザそく!」に文句言うしかねーじゃんよ
RIVAI:うっせー雑魚
【AINS】さんがログアウトしました。
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他のパーティに救難信号を発することが可能です。
地点コードを確認の上〔OK〕をクリックしてください。
地点コード ラジャック FR 4LLA
出現エネミー ▼☒滌▨爾 ×1
要救助者数 6
〔OK〕 〔CANCEL〕
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【続く】