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『無機物マン』 #6
BACHI-COOOOOOORRRRRRNNNNN!!!
「「「「「Wooooooooo!!!」」」」
右ストレートと左ストレートが衝突。爆発のような衝撃音が会場に走る。
ネバダ州ラスベガス。MGMグランドガーデンアリーナ。
この試合何度目のどよめきだろうか。
コンパス人間をKOした謎の人物は今、無機物マン協会の正式な選手としてリングに上がっている。
今回は互いの合意により、両名ともに「サンドバッグ人間」として登場。
「ボクシングの技術のみで勝敗を決したい」という理由からだ。
赤、蝶のように舞い蜂のように刺すキンシャサの伝説、モハメド。
青、宇宙最強と謳われたボクシング界No1アウトロー、マイク。
死闘はすでに11Rに達していた。
モハメドの鋭い左ジャブ! マイクが避ける!
追撃の左ジャブ! またもマイク避ける!
コンビネーションで右ストレート! マイクはアッパーで軌道を逸らす!
左のボディがマイクのレバーを抉る! マイク倒れずに右ストレート! モハメドはかろうじて右のガードが間に合うが圧力に押し返され両者の距離が再び開く、同時に一歩前に踏み出すがこれは2人ともフェイント!
ほんの一瞬の静寂ののち大歓声。
解説に呼ばれた元WBA王者は2R中盤から「ホーリシッ!」としか叫ばなくなっている。
レフェリーが再開を促す。
同時にマイク突進!テレフォンパンチめいた大振りの右フックだ!
こんなものを喰らうモハメドではない。ダッキング回避!
回避して直ぐに視界に飛び込んだのはマイクの左グローブだ。
予測していたところに逃げやがったとばかりの左アッパー!
だが予測していたのはモハメドも同じ!リンボーダンスめいたスウェーイング回避!マイクの拳が天を指し体勢が大きくよろける、好機!
左のストレートがマイクの顎を捕える。
慌てて両腕を上げ顔面をガードするがその上からお構いなしにモハメドが連打を叩きこむ。
ホーネットの巣を荒らしたものが報いを受けているかのような光景!
連打!連打!会場のどよめきが大きくなっていく。
ついにロープ際。マイクの左膝がガクンと折れた。
レフェリーが確認しようと近づく。
だがまだだ!
マイクはするりとモハメドの右側へとエスケープ。
まだ余力が残っていたか。
モハメドの視線がマイクを追おうとしたそのとき!
パシャッ! カシャッ! カシャツ!
夥しいカメラフラッシュの光だ。
リングサイドのカメラマン達だけではない。
客席でスマートフォンをかざした者が何十、何百と。
モハメドの視界が真っ白になる。ほんの一瞬。しかし十分な一瞬だった。
右のテンプルに痛みが走った。
大型モニターを吊るした天井が見える。
カウント5あたりでレフェリーが試合を止めた。
―――――――――――
「再会を喜びたいところだがまずは約束だ。アンタらがどこからどうやってきたのか。目的は何なのか」
会場救護室。
顎の長い無機物バトル協会長は起き上がろうとするモハメドを手で制しながら語りかけた。
モハメドは協会長の顔を一瞥し口を開く。
「すっかりジジイになったなペリカン野郎、アンタは日本人だから知ってるだろう?マウント・オソレだ」
「青森の恐山か」
「あそこが狙われてる」
「誰に?」
「ユダヤが大っ嫌いなクソ野郎どもにだよ」
【続く】