カレン・ザ・トランスポーター #13
「えーっと…」
街道の宿場町、その宿屋2階、2等客室内。
私の目の前に立っている衛視たちは「こりゃとんでもない外れを引いちまったぞ」という表情を隠そうともしない。
私は私で、ベッドに腰かけたまま足をぶらぶらさせてその様子を何となしに眺めている、そんな夜更け。
決してベッドに腰かけると足がつかないからぶらぶらさせてるとかそういうのではない。そういうのではないんだ。
まぁ、足はつかないんだけども。
彼らと私、両者の間にあるものが今回の依頼の品だ。
床にずらりと並べられた『ソレ』を前に、彼は真面目にひとつひとつ、納品書との照合をおこなっている。
・・・宿の誰かが「怪しい武器商人がいる」と詰め所に通報したらしいのだが、このバカでかい背負い袋の中身を聞かれたとき素直に「あ、斧です」と答えた私も悪かった。
だからこうして夕食も我慢して職務質問及び所持品検査に付き合っているのだ。
公権力に協力する良き市民であり、ウッドエルフのロールモデル(=お手本のこと)でありたい。偉いぞ私。
「隊長!こんな子供が大量の武器を所持しているなんて怪しいですよ!」
そう叫んだのは衛視の中でも一番若そうな奴だった。
装備も明らかに新調されたばかり。
ニコニコと笑顔を浮かべたまま手招きをして呼び込む。
ノコノコと近づいててくる。
「お勤めご苦労様です。お冷やなぞいかがですか?」
「はぁ?職務中だぞ!本職を買収するつもりか貴様!」
「まぁまぁそう仰らずに^^」
「!?」
素早く背後に回ると若い衛視の襟元を開き、そこからグラスの氷水をドバーッと流し込んでやる。
さっき部屋に届いたばかりで冷えっ冷えだぜぃ。
「オヒャャャャゥゥゥイェェェェ!!!オッヒョツメッタポォォウ!」
マンドラゴラ引き抜いたらこんな声するんだろうな、みたいな悲鳴を上げてのたうち回る。
他の衛視たちも彼に非があることは理解しているようで「あーやっぱり面倒なやつだこれ」とより表情が硬くなっていた。
『ウッドエルフは怒らせると背中に氷水を流し込んでくる』
よくわからない汚名と引き換えになったっぽいが、少なくとも私の名誉と誇りは守られた。
ロールモデル?そんなもんで明日のパンが買えると思うなよ。
「で、これを何処の誰に届けるんだあんた?」
気軽に取引の内容に踏み込むあたり、本当に住む世界が違うって感じがする、こういうところ、人間ってやつはドワーフとは別ベクトルで頭に来るなぁ。
「導きの森の木こり用の奴よ」
私はここで初めて、意図的に事実を捻じ曲げて伝えた。
次回に【つづく】