カレン・ザ・トランスポーター #2
「太刀」
「猫」
王都ヴァレリアのメインストリートにある酒場『百合と薔薇亭』の地下にある職業斡旋所。私がいつも仕事を受ける場所だ。
意味のわからない合言葉の確認が済むと錠前が外れる音がして、重い鉄製の扉が開く。
一等客室と同程度。10m四方くらいの空間。
ドアを開けてすぐに木製の大きなカウンターがあり、私では背が届かな…ちょっとだけ、ちょっとだけ届かないので踏み台を用意してもらってある。
「よいしょっ...と」
踏み台に乗ってカウンターの向こう側に声をかける。
「あら、カレンさんお帰りなさぁい♪」
砂糖をバケツで投入した水飴のような甘ったるい声。
斡旋所の受付嬢、シャーレ。齢19。
さらさらの銀髪、雪みたいに真っ白な肌。人形のような整った顔と細い手足。あと一部がでかい。許せん。
彼女と私を比較したドワーフ野郎は今療養所のベッドの上だ。
「これ、お給金になりまぁす♪」
銀貨の詰まった袋が丁寧にカウンターに置かれた。
数か月は遊んで暮らせる額だ。
有難く戴こうと伸ばした手の甲をそっと握られる。
まずい。これはまずい。
「実はぁ~カレンさんにしか頼めないお仕事がありましてぇ~♪」
ほらきた。
握った手にもう片方の手を添える。
離れない。もはや人間の力とは思えない。
彼女は私の手を握ったまま、カウンターの奥に視線をやる。
つられて私の視線もそちらへ。
高級そうな革製のトランクだ。
「あれをですねぇ~、ガルム峡谷の奥にある洞穴まで届けてほしいんですぅ~♪」
シャーレはようやく私の手を離してトランクに歩み寄り、カウンターの上に置くと、錠を外して蓋を開き、180°回転させてこちらにその中身を見せつけた。
「…え?」
私は言葉を失った。
トランクの中身が女性用の高級下着で満たされていたからだ。
「ねっ、カレンさんにしか頼めないでしょぉ~?」
【続く】