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ゲリラ監査役 青海苔のりこ #3

 とある地方都市。築870年の木造アパートの一室。
 中年男性の怒鳴り声が部屋の外にまで響いている。

 「パトカーがコンビニ止まっとたんやけどどういうこっちゃワレええええええええ!!??」
 「水分補給や食事のためでもあり、休憩は法令でも認められておりまして...」
 「はああああ!?誰の税金で食わせてもらってると思っとるんじゃボケエエエエエエエ!!24時間休まず働けやぁぁぁぁぁ!」

電話口で怒鳴った男は、すぐさま次の番号にコールする。

 「お前んとこの救急車、真昼間に公園に駐車しとったけど、サボりちゃうんかアレ?ええんかコラ!市民の命預かっとるのと違うんかゴラァ!」
 「当時は緊急出動時でもなく、隊員のトイレ休憩のため公園に立ち寄ったものでありますので、どうかご理解のほどを...」
 「はああああ!?トイレ入っとる際に119のコールがあったらどないすんじゃいボケエエエエエエエ!!誰の金で飯食っとるんじゃお前らボケエエエエ!!」

 電話を切った男はまた次の番号をコール。

 「ワシら勤め人は昼休みくらいしか市役所に行けんのじゃ!市民の税金で成り立っとるんじゃろがい!24時間窓口は開けとかんかい!しばくぞボケが!ゴミカスごく潰し!」
 「ですから人員の都合等もありますので、お昼の時間は市役所の受付窓口をお休みさせていただいております、何卒ご理解を...」


 男は電話を切るとふーっと大きくため息をついて、手元のワンカップをぐいっと呷る。
 「ホンマむかつくわー。税金払うとる市民様を何だと思ってんねん!」
 再度ワンカップを口に運ぶ。
 「あーもう今日は寝たろか。明日またかけたるからな!」

 独り言を口にして男は万年床に横たわるとやがて深い眠りについた。

 RIRIRIRIRIRIRIRIRIRIRIRI!!!!
 深夜2時。
 男の部屋の電話が鳴った。

 「なんじゃこんな時間にコラァ!!」
 ベルの音に起こされた男は反射的に受話器を取る。
 相手の声はカニ漁が盛んなベーリング海のように冷たく聞こえた。
 
 「ヤスブシン建設のものですが」
 ───ヤスブシン建設。男の勤務先だ。

 「暮無さまのお宅でいらっしゃいますか」
 ───暮無。男の名前だ。

 「あぁ?アンタ会社の人?こんな時間に何よ!?明日にしてよ!」
 「はい、私はヤスブシン建設の監査役、青海苔のりこです。折り入ってお話が」
 「こんな夜中に非常識だろ!明日にしろ言うとるじゃろがい!」
 「そうはいきません」
 「なんでじゃ!?」
 「社員であれば会社からいついかなるとき連絡があっても応答できるようにしていただかないと困ります」
 「社員にもプライベートがあるっちゅうてんのや!ボケ!」
 「警察官や救急隊員、市の職員にもありますね」
 「おうコラわかったぞ、きさんワイの電話にムカついた誰かやな!」
 「いいえ違います私はゲリラ監査役青海苔のりこです」
 「ふざけんなよコラ!絶対特定したるからな!税金で食わせてもらっとる身で偉そうにすなこんボケカスがぁ!」
 「......」

 冷たい声の主は返答することなく電話を切った。
 「ケッ!びびりおったわ!明日しばいたるからな!寝よ寝よ」
 
 暮無が再び寝息を立てしばらくした午前3時。

 RIRIRIRIRIRIRIRIRIRIRRIRI!!!
 また電話が鳴る!

 「おうコラええ加減にせえよボケナスが!訴えたるぞカス!」
 暮無の反応も早い。
 「こんなことしてどうなるかわかっとんのか、クビじゃクビ!」
 捲し立てる!
 「……」
 電話は切れた。

 完全に頭に血が昇った暮無であったが、それでも平静さを取り戻し、いびきを立て始めた午前3時20分。

 RIRIRIRIRIRIRIRIRIRIRIR!!!
 まただ。

 「おうふざけんなボケぇ!」
 怒鳴って電話を切る。

 午前3時30分。

 RIRIRIRIRIRIRIRIRIRI!!!!
 「青海苔ですが」
 「殺すぞ!!」

 午前3時40分。
 「社員なんですから連絡がすぐつくように」
 ガチャン

 暮無は電話線を引っこ抜いた。
 
 午前4時。
 RIRIRIRIRIRIRIRIRIRI!!!!
 呼び鈴が聞こえて思わず受話器を取る。
 ツー、ツー、ツー
 当然着信などない。
 暮無は受話器を外しておくことにした。

 午前4時5分。
 RIRIRIRIRIRIRIR!!!!
 呼び鈴が聞こえたような気がした。
 電話機を床に叩きつけ、コードを切り刻み滅茶苦茶に破壊する。

 午前4時15分。
 RIRIRIRIRIRIRIRIRI!!!!
 まだ暮無の耳には呼び鈴が聞こえてくる。

 午前4時20分。

 午前4時25分。

 ───────────────

 翌日、無断欠勤した暮無の様子を見に行った同僚が見たものは、ボロボロの受話器を手にして、うつろな目でいずこかへクレームを続ける暮無の姿であった。

 【おわり】
 

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