ゲリラ監査役 青海苔のりこ EX 中編
都内某所、『ライフソフトヘッズ出版』に乗り込んできた奇怪な単眼の怪人は、社員に向けてこう挨拶した。
「ドーモ、オレイマイリです」
「だだだ誰ですかあなたは!けけ警察を呼びますよ!」
社員の一人がオレイマイリに指を突きつけ告げるが、何せ紙袋に単眼が張り付いた顔である、表情の変化というのはまったくわからない。
「ここは俺にまかせてください!」
他の社員を制して単眼男の前に立ちはだかったのはイノオニ主任!
身長180センチ、体重45キロの偉丈夫だ!
学生時代にはロボコンで全国大会に出場もしている!
「オラァー!!」
イノオニが真横のカウンターから花瓶を手に取り投擲!
狙いは正確! まっすぐ単眼男の頭部めがけて一直線!
しかし単眼男は大きく上体を後ろへ反らす!
ブリッジ回避!? いや違う!
そのまま勢いをつけて体を起こして迎撃のヘッドバット!
GSYAAAAANN!!!
粉々になったのはオレイマイリの頭部ではなく花瓶のほうだ!
「何ィーーー!!」
イノオニが驚きの声を上げた際にオレイマイリは一気に距離を詰める!
鼻と鼻とがくっつきそうな距離! 片方に鼻はないけども!
イノオニが再度声を上げることは許されなかった。
単眼怪人の右膝が鳩尾にめり込んでいたからだ。
下腹部に激しい打撃を受けたイノオニはそのまま前方に半回転!
フロアに激しく背中を打ち付ける!失神!
「主任!この野郎ぉー!」
普段陰口ばかり叩いている癖にイノオニを気遣いながらオレイマイリへ突進するのは英語版の担当者ブラッドジャック!
血を見ないと生きていけないとか言いながら毎日トマトジュースを飲む健康志向英国人だ!うなぎゼリーも難なく食べる!
「こいつを喰らいなフリークスぁー!!」
片時も手離さぬトレードマークの真紅鋼鉄チェーンを振り上げ、単眼怪人の肩口から胸板へ鞭めいて殴打!手ごたえあり!
だがオレイマイリは微動だにせず!
無言のままブラッドジャックの喉元を右手で掴み、そのまま片腕だけで抱え上げる!
重力により気道圧迫!苦しげに呻く!
「おいジャックを下ろせ!もうすぐ警察もくるぞ!」
少し離れたデスクで電話連絡をしていた社員が単眼男に警告する。
オレイマイリはそちらを一瞥すると、黙って頷いてブラッドジャックを掲げていた右腕を真下へと振り下ろした!
真っ逆さまに落とされるブラッドジャック!
フロアに後頭部強打!脳震盪!
「あわわわわ......」理屈の通じぬ暴力に怯える社員たち!
それもそのはず、彼らにはこんなことをされる謂れはないのだから!
ポーン
そのときフロアエレベーターホールから到着音!そして怒声!
「「「「警察だ!」」」」
通報を受けた警官4名ほどがエレベーターで上がってきたのだ!
ドアが開き全員が一気に13階フロアへとなだれ込もうとする!
その瞬間に彼らの視界をあるものが塞いだ。
オレイマイリが投げはなった個人ロッカーだ。
床と平行になるように真横にして投げられたロッカーはリンボーダンスの失敗めいて前方警官2名の顔面を直撃! あとに続いた2名もその転倒に巻き込まれて大きく後方へ吹き飛ばされ、まだドアの開いていたエレベーター内へと叩き返された!
『下へ参ります』
ダウン状態の警官4名を詰め込んだエレベーターはそのまま下階へ!
「そんな...」
惨劇を目の当たりにした女性社員は口元を両手で隠したまま声も出ないでいる。
「あ、あんたの要求はなんなんだ!」
象形文字担当のプッチョミライオス4世が震え声で目の前の怪人に問うが、その返答は勇敢なエジプト人社員の喉元にチョップを打ち込むという最悪のものであった。
「パピルスッ!!!」
喉をつぶされたせいであろうか、奇妙な悲鳴を上げ昏倒!
オレイマイリはもはや完全に恐怖に屈した社員たちをぎろりとその単眼で睨みつけると、合掌し全身に力を籠め始める。
汚いドブ川のような紫がかった黒色のオーラが全身から放たれ、充血した単眼がさらに紅く光を帯びてゆく。
これこそがこの怪人の必殺奥義『サカウラミ怪光線』だ。
なにかよくないことが行われようとしている。
本能で感じながらも、社員たちは恐怖のために一歩もそこを動けない!
ついに真紅の光は瞳孔へと収束し、一条のレーザー光線となって社員たちに襲い掛かった!
KA-TOOOOOOOOOON!!!!
激しい爆発音!
ガラスの吹き飛ばされた窓から入り込む雨風が黒煙を晴らしてゆく。
「!?」
紙袋に張り付いた単眼が見開かれる。
その視線の先には、社員たちを庇うように立つ一人の女性の姿があった。
女性は、何らの感情を顔に出さぬまま、オレイマイリに向けてゆっくりと頭を下げた。
「こんばんは。監査役の青海苔のりこです」
【後編につづく】