カレン・ザ・トランスポーター ♯11
ZGOOOOOOOOOMMMMM!!!
アイアンゴーレムの拳が、さっきまで私が立っていた地面にめり込む。
河原の小石が、砂が巻き上げられ視界の悪くなった隙をついて、その伸び切った腕の中心、肘へとバルガスが飛び蹴りを叩き込む!
人であれば肘関節を押さえて悶絶必死な外道攻撃ではあるが、何せ相手は魔法で動く人形である、損傷は発生すれど痛みなんてもんは感じない。
ギックリ腰も肉離れも月のモノさえも無縁なのだ。
ほんのちょっとだけ羨ましい。
赤い眼光がバルガスを照らすと、祈るように組んだ両手を大きく振り上げハンマーのように地面へ叩きつける!
バルガスはバックステップで回避、右膝裏に私がドロップキック!
文字通りがらんどうの鎧を殴ったような反響音。
関節を攻撃することの痛みはないだろうが、二足歩行種の鎧を模したものであれば可動域はそれに準じたものになっているはず。
不意の衝撃を受けた右膝は予期せず折り曲げられ片膝状態へ。
すかさず立てたほうの膝にバルガスが飛び乗り垂直ジャンプ、両手の根をゴーレムの脳天に振り下ろす!
同じような反響音。
兜に凹みが生じるが行動停止にはほど遠い!
オッサンと私は再びゴーレムから距離を取って並び、構える。
「おいどうするんだ このままでは王女に取り入って汚職を揉み消すという私の野望が!」
「…あんた恥も外聞もないのか!」
しかし真面目な話、確かに攻め手に詰まってきた感は否めない。
頭突きをガードした左腕の痛みも増すばかり。
さあ考えるんだカレン。
――あのあと両者が合意するまでに時間は全くかからなかった。
【まずはあのゴーレムを潰す、話はそれからだ】
基本方針が固まって、表向き連携のようなものが成り立ってもこのザマである。
思案を巡らしていると前方から振動を感じた。
ゴーレムが突進してきたのだ。
その手は拳ではなく開かれている、掴むための形だ。
標的はバルガスだった。
後ろに飛びのき間一髪かわす。
が、ゴーレムの指先が襟口にひっかかり、ビリビリとその高級そうなスーツが裂けていく。
うわー、私じゃなくて本当によかった。
と思ったのも束の間。
私は生涯忘れることはないであろうとんでもないものを眼に刻むことになる。
上着を引き裂かれて上半身の裸体を晒したバルガス。
細身ながら鍛え上げられた肉体だ。
そしてここからが問題なのだが、その…なんだ。
乳首を隠すように、肩紐で吊り下げられた三角形の布が貼りついている。
一目でわかる。シルクの高級なやつだ。
「あんた…それ…」
私の指摘にオッサンは慌てて腕を胸の前で✖字に組む。
そういう隠し方をするな気持ち悪い。 あと内股やめろ。
ゴーレムは再び掴みかかりを試みるが後ろに大きく飛びのき回避。
距離が離れすぎたと感じたのか、洞窟の入り口へ後ずさりしていく。
「まさか、あのカタログの書き込みって…マジであんたの趣味…」
「人のものを勝手に見たのか!なんて行儀のなっていない女だ!」
ひとさまのトランクをかっぱらった男が何かを言っている。
「危険な場所への任務だ、これくらいの役得があって然るべしだろう!しかもオーダーメイドだぞ!そもそも人がどんな下着を身に着けようが自由ではないか!自由バンザイ!」
何を言っているかわからないし、そもそもお前じゃなくて王女様のオーダーメイドだし、何よりそれは盗品だコンチクショウ!
「まあ君も大人になれば胸当ての良さがわかるだろうがね!」
カチッ
怒りが頭を冴え渡らせた。
表情には出さぬように、ゴーレムを見据えたままオッサンへ語り掛ける。
「ねえ、良い考えがあるんだけど」
【続く】