
カレン・ザ・トランスポーター #12
ブォン!
ゴーレムの腕が河原を大きく薙ぎ払う。
「…いつ行ける?」
「次踏み出したら入り口まで退がるはず。そのとき」
ひそひそと会話を交わす。
私が提案したのは単純明快な作戦だ。
狙うのは奴の胸部を大きく凹ませた風結界による攻撃。
しかし当然向こうもそれは警戒しているはず。
よって、目の前でオッサンが攪乱している隙に背後から叩き込む。
そういう段取りだ。
ズバァァン!!
膝の上に止まった蚊を潰すような平手が地面を打ち据える。
大きく後ろに飛び退いた私たちを追うように、ゴーレムは一歩前に踏み出すが、洞窟から距離が置かれたことに気づくと後ろ歩きで後退を始める。
警備員の鑑だ。
そしてこれは速度を得るための距離がとれたことを意味する。
「…行って!」
オッサンに指示を出すと、素直に棍を構えて突進していった。
真面目なんだか不真面目なんだか。
私は周囲に風の結界を展開させると、痛みをこらえて両手の平を地面につけ、思い切り前屈みの姿勢から地面を蹴りこみ、ゴーレム目掛け加速する。
―――――30m。
――――20m。
―――10m。
真っすぐにゴーレムの正面向けて突き進む。
そこには剛拳を捌き、躱し、奮闘するオッサンの背中。
(…じゃあね)
小さな声で精霊に話しかける。
十分に加速をつけた結界を解き放ち自身は大きく上空に跳びあがる。
勢いがついた結界は解放後もそのまま風の塊として前方へ流れゆく。
私は真下に向けて今度は大声で呼びかけた。
「これにて盟を解く! ―――風よ! そしてオッサンよ!」
結界がオッサンの背中を直撃!そのまま巻き込んでゴーレムの胸部にブチ当たる!もちろん狙いは初撃で凹ませた箇所だ!
「図ったな小娘ぇぇぇぇぇぇっっっ!!」
「ヌグオオオオオオォォォォッツッ!!」
右手の人差し指と中指を伸ばしてこめかみに当て、不良変態公務員と女性を大事にしない鉄クズへと別れを告げる。
「良い旅を!」
『女性用高級下着を身に着けたオッサン』という名の弾丸が渦巻く風と共に鋼鉄製の胴体を穿ち、ゴーレムの胴体から背中へと貫通、文字通りの『風穴』を作り上げた。
核を破砕されても行動できる魔法生物など存在しない。
ゴーレムはゆっくりと前のめりに倒れ伏し行動を停止する。
一方おっさんは勢いのまま岸壁に叩きつけられ、こちらも心肺をていs…ちっ、生きてるか。
私は離れた場所に置かれたトランクを手に取ると、洞窟の中に進んでいった。
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(1枚、2枚…うへへ15枚もあるぅ…)
ティラントから王都へ向かう帰りの乗合馬車の中。
私は王女様から頂いたチップの入った麻袋の中身を眺めてはニヤニヤするという非常に気持ちの悪い行為に終始していた。
金貨が15枚である。
朝とお昼をカボチャのスープとパンだけにしたら3か月間は遊んで暮らせる額だ。
朝は水だけにしたらどうなるんだろう。半年保つかな…うふふふふ。
王女様から「ひとつ足りない」とクレームが付いたが、それは外でのびている執事長の姿を見せたら一発で納得がいってもらった。
「あらあら、ずいぶん楽しそうじゃないお嬢ちゃん」
向かい席からの言葉に慌てて袋の口を閉じる。
「アッ、はいそうですね」
意味不明な返答をしてしまう。
年齢は60過ぎくらいだろうか。
私と同じような軽装で旅慣れた姿の陽気そうなご婦人だ。
この手のタイプは…
「ティラントからの帰り!? 私もそうなのよ~~!!」
あっ、これは長くなる奴だ。
退屈な話と差し込む日差しが眠気を誘う。
オバチャ…ご婦人の声が遠くなっていく。
《私これでも孫が8人もいてね!ほらほら!名物の木彫りコボルドもこんなに買っちゃっ……》
意識が朦朧としてくる。
オバチャンが自慢げに中身を見せてくる麻袋、どこかで見たような…
瞼が重くなっていった。
【この章 おわり】