無機物3

無機物マン#3

 事件を受けて無機物バトル協会は早速犯人の捜索にあたった。
 本来、無機物マンとなるのは登録を受けた格闘家に限られており、その中にジークンドーを操るものはいなかった。
 一命を取り留めた彼の言によれば、襲撃者はヌンチャク人間であり、当然それも登録外の存在であった。
 となれば公認ではない「野良無機物マン」ということになる。
 暗黒非合法に誕生した野良無機物マンはその力を活かして殺人・強盗などの犯罪に利用されることが多く、その場合は協会のエージェントが「後始末」にあたることになる。
 かつて「アフリカゾウの死体人間」の群れが銀座の宝石店を荒らした際には協会最強のエージェントが「T-REXの化石人間」と化して屍山血河を築いた。
 しかし以降ヌンチャク人間の出現情報はなく、協会も捜査の停滞を感じていた矢先に、新たな事件が起こる。

 ロンドン、ウェンブリースタジアム特設リング。
 「グギャーッ!アシッアシノウラッ!ツッチフマズー!」
 ダウンしたレゴブロック人間に対し迂闊にもストンピングを放ってしまったビーチボール人間が足裏を押さえ悶え苦しむ。
 「レーゴッゴッゴ、まんまと引っ掛かったな」
 不敵に笑うレゴブロック人間。しかしそのときだ!

チャララッチャッチャー チャララッチャッチャー

 王者の魂を感じさせるようなメロディーが会場に響き渡り、1人の無機物マンが花道に姿を現した。
 葉巻人間だ。リングに向かってゆっくりと歩いてくる。
 少し細身だが葉巻に手足が生えている定番のパターン。
 だが特筆すべきはその巨大さだ。2mを楽に超えるだろう長身。その威容を認識した客席のどよめきがより大きくなる。
 警備員がすぐに駆け寄り制止せんとするが、瞬く間に弾き飛ばされ、投げ飛ばされて無力化された。
 「貴様なんのつもりだ!」
 レゴブロック人間はリングから降り謎の葉巻人間と対峙する。
 ビーチボール人間はまだ足裏を押さえ苦しんでいる。しょうのない奴だ。
 
 「なんとか言ったらどうだコラ!」
 レゴブロック人間の右ストレート!
 しかし葉巻人間はこれをいなした左手でレゴの後頭部を抱え込み、右手の手刀を勢いよく頭頂部へと振り下ろす!
 「脳天唐竹割り…」
 観客の老人がつぶやく。
 軽い脳震盪を起こしたレゴ人間に対し、葉巻人間は右足をゆっくり、しかし大きく高く振り上げ、足裏で押し出すように胸板を蹴り飛ばした。
 35cm近い巨大な足でのフロントキック。レゴ人間は大きくよろめきリング四隅に設置された鉄柱に激突、失神!
 ビーチボール人間はまだ足裏を押さえ苦しんでいる。しょうのない奴だ。
 葉巻人間はレゴ人間を一瞥し、ゆっくりと会場を見渡しながら引き揚げていく。
 やがてその体が光に包まれ、一本の高級葉巻となってぽとりと花道中央に落ちた。憑依した魂が抜けたのであろう。
 花道付近の観客は、彼が消える際にぽつりと呟いた一言を確かに聞いていた。
 「寛ちゃんはまだ、こっちにいるのかな」

【続く】

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