
カレン・ザ・トランスポーター #22
私がぶち撒けたのは鉄製の球体。
大きさは小指の先ほど。
その数およそ3000。
──重装備の戦士を倒す方法はいくつかある。
ひとつ、大質量の物体を叩きつけるべし。
これは非力なエルフには到底無理な話。却下。
ひとつ、鎧の隙間を狙って刃を突き立てるべし。
そもそも接近戦の技量が必要になるし、鎧の隙間といったところで、一撃で仕留められるような箇所はそれこそ首筋くらいしかない。却下。
ひとつ、稲妻や火炎などの攻撃魔法を唱えるべし。
私は魔法使いじゃない。却下。
さて、どれもこれも私には不向きだという悲しい現実を認識させられるが、最初のひとつ、質量を補う方法がある。
速度と、物量だ。
結界に包まれ、物凄い勢いで風と共に前方に発射される3000個の鉄球。
泉を守る重戦士はタワーシールドを構えて身を屈め、射線から全身を隠してこれを凌がんとする。盾からはみ出ている個所などひとつもない。
ガン!初弾がヒット!
堅牢な盾に凹みが生ずる!
ガン!ガン!ガンガンガガガガガガガガガガン!
石造りの建物を突然の雹が襲ったときのような、耳をつんざく衝突音。
凹みが段々大きく、深くなっていく。
だが耐える!盾を構えたまま動かない!
──傭兵の鑑だ。
もらったぶんのお金に見合うだけは働かなきゃいけない。
それ以上になったらやらないか、やったあとで請求すればいい。
このへんをわからずに仕事を受けるやつが多すぎる。
最後の一球が弾かれ、衝突音が止むと、地獄の吹雪を耐え忍んだ重戦士は前方を確認しようと盾の裏から頭を出す。
その視界を、私の両足裏が塞いでいた。
思い切り曲げた両膝を、インパクトの次の瞬間まっすぐ伸ばす。
相手の顔面を足場にして真横に跳ぶイメージ。
これが母から伝授された「ドロップキックのコツ」というやつだ。
私を産んでからはだいぶ飛距離が減ったらしいが、それでも記憶の中の父がすっ飛んでいた距離は5mを下回ることはなかったはずだ。
全身から力を抜いた一瞬への一撃。
重戦士は上体を大きく後ろに反らせて吹っ飛ぶと、後頭部を地面に痛打。
甲冑を含めた自身の体重がそのまま凶器となった衝撃は、彼の意識を奪うには十分すぎるものであった。
なんのことはない。あの大きすぎる盾では、鉄球の嵐のすぐ後ろを追いかけて向かってくる私を認識できなかったというだけの話だ。
空中で姿勢を制御して片膝をつくように着地。
そのままオッサンの戦況を確認する。
「ぬははははは!」
最後の一人がメイスを脇腹に受け、両膝をついて嘔吐した。
うわー、キツそう...
「ぬはははは!これでこの泉は我々ドルエン教団のものであるな!」
倒れた傭兵たちを前に高笑い。
(ん?んんんー??)
散らばった鉄球を集めて麻袋に戻しながら、私は眉間にしわを寄せて尋ねる。
「ちょっとオッサン!ここの泉は無くすって言ったでしょ!人の話聞いてた!?」
オッサンは顔に貼りついた満面の笑みを崩さぬまま、盾を構えメイスを持ち直す。
「ぬははははは。聞いておったとも、”お互いに利用しあう”ということであったろう?実際ここまで何も問題は”なかった”ではないか!」
巨漢の神官戦士。その全身が、淡い黄金色に輝き始めた。