noriko6へっだ

ゲリラ監査役青海苔のりこ #6

 どこまでも続くかと思えるサバンナの大地。
 人工物などどこにも見当たらず。
 ただただ、夜の静寂を月明かりだけが照らしている。

 ここはアフリカ中央部。
 4か国にまたがる巨大な自然世界遺産【フンフムゾ国立公園】

 ガサガサッ
 丈の低い草をかきわけながら慎重に姿を現したのは4人ほどの人影。
 その組み合わせ、風体は明らかに異様なものであった。

 見るからに鍛え上げられた体格の男性が3名。白人が2名にヒスパニック系が1名。全員30歳前後。
 上下の迷彩服に暗視スコープ、狩猟用のライフルを携えている。
 
 残り1名は50歳過ぎと思われる黒人男性。
 こちらはうって変わってTシャツにジーンズというラフな格好。
 〈みんなでフンフムゾ!〉のロゴが入ったお土産Tシャツは薄汚れて襟はよれよれ、袖や裾にもほつれが見える。地元民であろう。
 どう見てもオフィシャルのパトロール隊ではないことは明らかだ。

 「おい、いつになったら着くんだ!」
 赤髪モヒカンの白人が声を荒げ、ライフルの銃床で黒人男性の背中をかるく小突く。

 「痛っ!やめてくださいよ旦那!もうすぐですから」
 黒人男性はそう言って300mほど先の岩場を指さした。

 「おいマイク!!大きな声を出すんじゃねえって何度言ったらわかんだこの野郎!!テメェの大声で獲物が逃げでもしてみろ!!皮全部剥ぎ取ってライオンの巣に捨てていくぞ!わかってんのかクソがァ!!」
 マイクを怒鳴りつけたのは頬と右臀部に大きな傷のある白人。こちらは金髪クルーカット。2m近い長身を筋肉の鎧が覆ったり覆ってなかったりする偉丈夫だ!
 額と左臀部にある超大きな傷が歴戦の兵であることを感じさせる。

 「オッケーわかったよビリー!気を付けるぜ!!!」
 マイクと呼ばれた男は大声で返事をする!
 ビジネスの受け答えはハッキリと大きな声で!基本だ!
 ビリーも思わずサムズアップ!
 やりとりを見るにこのビリーという男が集団のリーダーなのだろう。
 
 「まぁまぁ2人とも落ち着いて。仕事(ビズ)はクールに済ませるのが一番さ、興奮しちまうと大抵のことはうまくいかねぇもんだイャッホゥヒッフー!!」
 バタフライナイフを舐めながら冷静に2人をたしなめたのはドレッドヘアーのヒスパニック男。
 舐めながら叫んでるもんで舌が血まみれだ!
 なぜサバイバルナイフではないのか!?その答えは2日前に遡る...

 
 遡ってもどうせロクなことではない...やめよう。
 ほどなくして目的地の岩場にたどり着いた一行は物陰から反対側にある水場の様子をうかがう。
 そこにいたのは...アフリカゾウの群れだ!

 「おぉ...マジじゃねえか...」
 マイクが感心したように口笛を吹く真似をする。
 「こんだけいりゃあしばらくは遊んで暮らせるぜ」
 ヒスパニック男がナイフを舐める。遊ぶより医者に行け。
 「まったくだ。密輸入業者さまさまってな」
 ビリーがライフルに弾を込め、スマホの電源を切る。

 なんということであろうか!
 彼らは象牙を求める密猟者であったのだ!

 「ね?ね?言ったとおりでしょ」
 黒人男性が手もみしながらビリーを見つめる。

 「あぁ。それじゃ約束の報酬だ」
 ビリーは視線を合わせる。
 黒人男性にではない。
 その背後にいるヒスパニック男にだ。

 サクッ

 胸に熱を感じた黒人男性が見たものは、自分の胸から生えているバタフライナイフの刃先であった。
 
 どさり

 黒人男性は一言も発せず前のめりに倒れると、数度痙攣したのちに動かなくなった。
 
 「小遣い目的で悪さすると酷ぇ目に遭うってこった」
 そう言ってビリーが死体を見下ろすと、ヒスパニック男がすかさず突っ込みを入れる。
 「俺たちだって同じようなもんでしょうに」
 「違ぇねえ」

 マイクも笑う。

 「さて、それじゃあ本番といこうか」
 ビリーの合図で3人がライフルを構える。
 おお、サバンナの神よ! あなたの子を救いたまえ!

 BLAM!! BLAM!! BLAM!!

 3つの殺意がアフリカゾウの脳天を撃ち抜くかに思えたそのとき!

 GYUUUUUUUUUUUUUUUUUNNNNNNNNNNNN!!

 突如水場から飛び出した謎の物体がゾウと密猟者の間に割って入り銃弾を弾く!
 異変を察知したゾウたちは逃走!

 「な...なんだありゃあ」
 密猟者たちが見たのは、水面から伸びた2本の白くて長い円錐上の物体だ。それはまるで、彼らが求めてやまない象牙そのもののようにも思えた。

 「ゾウ...? ゾウなのか?」
 ビリーの疑問。
 「あんな浅い所に潜れるゾウはいねぇ。子供だとしたら牙が長すぎるしあんなに真っすぐには伸びねぇ」
 ヒスパニックの冷静な指摘。
 「撃ってみようぜぇ」
 マイクがライフル発射! 脳を母の胎内に置いてきたのか!

 ザバァァッ!!

 着弾の直前、何かが水面から飛び出し直撃を回避、ビリーたちの前に着地!
 その姿は...

 「ゾウ...? ゾウなのか...?」
 ビリーがつぶやく。
 「いや、ゾウは二本足で立たねぇ」
 ヒスパニックの冷静な指摘。
 「撃ってみようぜぇ」
 マイクがライフル発射! 謎の影は高速横スライド移動で回避!

 それはまさにゾウ人間と呼ぶべき姿であった。
 密猟者どもにインド神話の知識があったのなら、即座にガネーシャ神を想起したことであろう。
 だが密猟者はバカなのでそういうものを知らない!
 
 頭部以外は褐色の肌をした成人女性のような体つきと体格。
 だがその頭部がゾウそのもの...いや、現代のゾウと異なる点があった。
 茶色の長い体毛に表皮が覆われている。
 これはまさか...






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 「ゲェーッ!マンモスの人間!」
 密猟者驚愕!
 
 そこに立っていたのは、マンモスの頭部の毛皮を頭から被ったOL風の女性!褐色の肌にブロンドの髪、そして人形のような無表情!

 「な...なにもんだテメェ!!」
 ビリーが冷静さを取り戻し誰何の声を上げる。
 「撃ってみようぜぇ」
 空気の読めぬマイクを制止し、マンモス人間の返答を待つヒスパニック。

 一瞬の静寂の後、深夜のサバンナに北極のような冷たい声が響いた。
 「私はゲリラ監査役青海苔のりこです。このたび密猟組織の監査役に就任しました。密猟は不法行為なので監査項目に抵触します。懲罰を受けてもらわねばなりません」

 「は?」
 ビリーは状況が呑み込めない。
 「密猟組織の監査役が密猟取り締まるのおかしいだろ」
 ヒスパニックの冷静な突っ込みだ!

 「ゲリラなので」
 のりこの返答もまたパーフェクト!

 「撃ってみようぜぇ」
 マイクがトリガーに指をかけた瞬間!


 「ぱおーん」
 のりこの力強い雄たけびとともにマンモスの鼻部分がレイピアめいて鋭く硬く伸び、ライフルを直撃、破壊!
 「えっ」
 事態の把握できないマイクにレイピア鼻が追撃!
 右太もも貫通!
 「ギャアーーーッ!!」 のたうち回る!

 「......」
 無言のままヒスパニックがバタフライナイフ二刀流で斬りかかるが、今度はマンモスの牙部分が鋭く伸びて彼を貫かんとする!

 ガッキィィィィィィィン!!!

 ヒスパニックは自身の両肩に迫った恐怖の牙をナイフの刃でガード!
 なんたる密猟者動体視力か!
 しかし次の瞬間!

 ギュイイイイイイインンンン!!!

 なんとマンモス牙が高速回転! 生物の構造とかゲリラなので無視!
 ドリルめいた勢いに耐え切れず2本のナイフが砕ける!
 
 「ウギャアーッ!」
 ドリル牙が両肩を貫通!戦闘続行不可能!


 「畜生!死にやがれーッ!」
 ビリーはライフル乱射!1秒間に16発!

 「ぱおーん」
 マンモス監査役は長い鼻を振り回し飛来するM855弾を全て叩き落す!
 ビリーが驚愕している隙に最接近!
 鼻を胴に巻き付かせると、フォークリフトめいて持ち上げる!

 のりこの身長と鼻の長さが加わりかなりの高さまでビリーの巨体が持ち上がる!
 アンドレ・ザ・ジャイアントの身長よりも高いが東京スカイツリーよりは低い!なんたる高度!

 「ぱおーん」
 おそろしく冷たい声で発せられた処刑宣告が夜のサバンナに響く。
 のりこは片膝を立てると、そこへ持ち上げたビリーの腰部を勢いよく振り落とした!
 マンモスのりこの必殺技、ノーズ・バックブリーカーだ!

 「ア”ーッ!ア”ア”ア”ーッ!!」
 ビリー悶絶! 
 
 のりこは激痛に倒れる密猟者たちを一瞥すると、マンモス蹄でビリーとヒスパニックのライフルを踏みつぶし破壊!

 「では、以降は密猟禁止の密猟組織ということでお願いします」
 ライフルの破壊を確認すると、そう告げてマンモス人間はサバンナの奥へ消えていった。
 もちろん3人はこの矛盾満載勧告に答える余裕すらない!

 「ヒッ...!!」
 救援を要請すべくスマートフォンを操作していたビリーが短い悲鳴を上げた。
 闇の向こうに赤い光点が2つ...4つ...10...20と浮かび上がる。
 ブチハイエナの群れだった。



 そのころ、日本では貿易会社の社長が「明王」を名乗る不審者に惨殺される事件が発生し、捜査の結果、この会社が象牙を密輸していたことが明らかになったのだが、それはまた別の話である...


 【おわり】 

 

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