DO LIVE
サクラメント市警は善良な一般市民には無害である。
──本当だ。
「ご協力感謝しますベックさん。ではこちら免許証で」
丁寧にこちらへ免許証を返す。
──こちらは嘘だ。
僕はベックという名ではないし、1980年7月12日生まれでもないしカンザスにも住んでいない。
もちろんこんな大型トラックのライセンスなんて持っちゃいない。
「失礼ですが荷台には?」
「牛肉だよ。ファイター・タウンまで」
──これは嘘ではない。僕は牛肉を積んでサンディエゴへ向かっている。
「改めさせてもらっても?」
「ああ、構わないとも」
小走りで車両後部へと回る警官をドアミラー越しに眺める。
ギィィィという錆びた鉄が擦れる音が聞こえ、しばらくの後もう一度。
そしてまた運転席横に戻ってくる。
「どうも。いやー良い肉ですねぇ。週末にBBQがしたくなりましたよ」
まったく同感だ。にこやかに笑顔を返す。
「もう行っても?」
「ええ。良いドライブを」
「ありがとう」
「checkpoint」の看板を抜ける際に赤色灯の明かりが顔を照らす。
路肩で何か喚いているドライバーの姿が目に入る。
間抜けどもが、と思いながらダッシュボードを開け、飲みかけのウイスキーで鎮痛剤を流し込んだ。
陽はすっかり暮れ、19時のラジオがエルクグロウブでの殺人事件を伝えている。その次はキングス勝利のニュースだ。
まだ太平洋は見えない。
サンディエゴまではあと8時間20分。
ステーキハウスのネオン看板が目に入った。
さっきの警官の言葉を思い出す。
牛肉をサンディエゴまで運んでるのは嘘じゃない。
でも運んでるのはそれだけじゃない。
あのイカレ野郎が切り刻んだ妻。
僕が切り刻んだあのイカレ野郎。
「良い肉って言ってくれたなぁ」
ひとり呟く。
前方、再び検問所の誘導灯。
「あと7つ」
僕は笑顔でアクセルを踏む。
【続く】