アーリー・アフタヌーン・ウィズ・ブルー・ブルー・スカイ #2
ジェニーは走った。
12歳の少女とはいえ、相手はゆっくりと歩いてくる仔牛である。
距離はどんどんと離れていった。
しかし、どれだけ走ろうとも彼女の耳にはハッキリと”あの音”が聞こえてくる。
ゴトゴト
振り返らずに走る。市場を目指して走る。
BANG!
背後から銃声。
ゴトゴト
あの音も聞こえる。銃声はもう聞こえない。
「おーいジェニー、どうしたんだいそんなに慌てて」
一人の中年男性が庭木の手入れをしながら彼女に声をかけた。
知り合いのトウモロコシ農家であるボブおじさんだ。
ジェニーは踵を返すと息を切らしながら必死に説明する。
「急いで市場に行かなきゃいけないの!”ドナドナ”って言えばわかるってお爺ちゃんが…!」
ジェニーの言葉にボブの顔面から血の気が引いていく。
「なんだって!? じゃあおじさんが馬で行ってこよう!家の中で待っていなさい、絶対に外に出るんじゃないよ?」
「…わかったわ」
言われたとおりにジェニーがボブの家の中で待っていると、外から馬の嘶き、そしてゴスッという鈍い音が続けて聞こえてきた。
彼女は慌てて馬小屋に向かう。
そこには繋がれたまま真っ直ぐにジェニーを見据える馬。
その瞳はインクの雫のようにどこまでも真っ黒で、全く感情をうかがい知ることはできなかった。
そして馬の足元にはボブが倒れていた。鼻と口から血を流して。
考えるより先にジェニーは馬小屋を飛び出し、再び市場へ走る。
「蹴られたんだわ…でも、どうして!?」
ゴトゴト
今までより音が大きくなった気がした。
【続く】
※ #1はこちらから 。