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イッキューパイセン 年越しSP

 大晦日。夜四ツ過ぎ。
 パイセンの寺には多くの参拝客があった。
 除夜の鐘。
 梵鐘を108回撞くことを108発の正拳突きになぞらえ、3世36類、計108の煩悩を打ち砕くのだ。
 ゴーーン。
 ゴーーン。

 参道には数多くの屋台が並び、薄すぎるシロップにムカついた幼女がテキ屋の脛を蹴りあげたり、金魚すくいの屋台をサハギン警官が焼き払ったりして盛況を博していた。

 そのとき鐘の待機列方面からどよめきと悲鳴!
 型抜きの成功を巡って店主と口論をしていたパイセンが駆け付けると、列の最後尾で派手なスーツ姿の男数名が参拝客と揉め事を起こしていた。
 
 「破ーッ!」「グワーッ!」

 とりあえず一番声のでかいピンクの水玉スーツ男をアルゼンチンバックブリーカーで黙らせた上でパイセンが事情を聞いたところ、スーツ姿の男たちはヤクザ・オブ・ジモティーで「ウチの兄貴に108回目を突かせろ」とゴネているというのだ。
 「よしわかった、特別に配慮してやろう。お前で108回目ということにしてやる。御仏に感謝するんだな」
 パイセンはそういってヤクザを宥め、揉めていた参拝客に何事かをささやくと、108枚目の整理券を受け取り、兄貴と呼ばれていたスケルトンスーツの男に手渡した。
 
 ゴーーン。
  107回目の鐘が鳴らされ、列の最後で満面の笑みを浮かべ待機していた”兄貴”が撞木の紐を持ったそのときだ!
 「破ーッ!」
 「破ーッ!」
 「破ーッ!」
 突如出現した門徒たちが連れの若衆ヤクザたちを当て身で気絶させる!
 「おいイッキューてめえコレはどういうことだ組が黙っt…グボォ!?」 兄貴の抗議の声は強烈なボディーブローに中断させられる。

 「!? おいおい、なんだこりゃ放しやがれこんなことしてただで済むと思ってんのかコラーッ!」
 兄貴が目を覚ましたとき、彼の体は簀巻きめいてぐるぐる巻きに縛られ、地面と平行になるようにまっすぐ宙に吊るされていた。
 その眼前には、鐘だ。
 「おいどういうことだって聞いてんだコラーッ!」
 兄貴はすぐ側で腕組みをし佇むパイセンに喚き立てる。
 パイセンは無言のまま、兄貴から吊り下げられた紐を大きく振りかぶった。兄貴の体が後ろに持って行かれ顔面が鐘から遠ざかる。
 「話が違うじゃねーかコラー! 俺に108回目を突かせる約束だろ!坊主が約束破っていいのかよ!」
 パイセンは表情を変えず、体勢も崩さず、視線は鐘を見据えたまま答える。
 「俺はな、『お前で108回目にする』と言ったんだよ」
 「ヤ、ヤメロー!」

 ゴーーーーーーーーン

 鐘の音が新年の夜に厳かに鳴り響いた。 

【おわり】

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