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「強み」とは何か。ドラッカー視点で考えてみる。

■ドウキコラム

「自分の強みを活かそう!」「自社の強みを伸ばそう」「強みを活かして勝負」などなど、何かモヤモヤしていて解決策を求める人たちのカンフル剤のように使われる「強み」。
かくいう私も起業セミナーで使っています。

自分なりに理解していたつもりだったのですが、慣れって怖いですね。先日、「強みってなんですかね?」と質問されたのですが、明確に定義せず所与のものとして「強み」という言葉を使っていることに気が付きました。

言葉としての「強み」は、
 ①強いこと。強さの度合。
 ②頼りになるすぐれた点。長所(a strong point, a strength)。 利点(an advantage)。となります。
どちらも比較対象がいて、①は程度を、②は優れた点やメリットの有無が必要です。

「強みって何ですかね?」と疑問を投げかけてくれた方は、「強みとは一つではなく、その場面で発揮されると有利な自分が持っているリソース」とご自身なりの捉え方を教えてくださいました。

そこには、2つのキーワードがあります。(Ⅰ)「その場面で発揮される」と(Ⅱ)「リソース(資源)」です。
まず、(Ⅰ)「その場面で発揮される」ですが、
一般的に使われている「強み」は、自分視点で「私が考える強みは…」と続くわけです。いわゆる「長所」ですね。とくに競争が求められる分野では、「強みを明確に」することが求められます。思いつくだけで、経営活動、起業、就活、スポーツ、選挙、お見合いなどなど、多岐にわたります。

そこで自分視点で「長所」をいくら挙げていっても、受け取る側(ビジネスであれば顧客、就活であれば就職先など)からすれば、
「長所がいっぱいあってよかったね。だから何なの?コチラになんの得がある。あなたは私に何をもたらしてくれるの?」ということになります。

知人のキャリアカウンセラーさんは、「人事や就活支援してた時、面接で強みやら弱みやらを聞くのは、その人物が自分を客観的に分析して、更にそれを簡潔な言葉で分かりやすく伝えられるかどうかを見ていたんだけど、多くの人は、強みやら弱みやらの、内容そのものがジャッジされていると勘違いしてました」と、教えてくれました。
なので、就活における「強み」事例なんかがWEB上にアップされていますが、あれらを参考にしていたらアウトです。

ドラッカーは昨今の「強み」ブームよりはるか昔から、「強み」について言及しています。

 人類の歴史において、ほとんどの人たちにとっては、自己の強みを知ったところで意味がなかった。生まれながらにして、地位も仕事も決まっていた。農民の子は農民となり、職人の子は職人になった。ところが今日では、選択の自由がある。したがって、自己の適所がどこであるかを知るために、自己の強みを知ることが必要になっている。 
ードラッカーHBR掲載論文 ”自己探求の時代”より

なるほど。今日、なぜ「強み」が求められているのか、それを明確に説明してくれています。
そして、組織または個人が外部(社会)から求められるような事業を行うためには「3つの事業の定義」があるとし、その3番目に「自らの強みと弱み」を挙げています。

 第1に、環境としての市場である。顧客や競争相手の価値観と行動である。
 第2に、自らの目的、使命である。
 第3が、自らの強みと弱みである。
 これらが、私が事業の定義と呼ぶものを構成する。 
ードラッカー『チェンジリーダーの条件』より

ちなみに、ドラッカーは「事業」をビジネスだけに限定していません。非営利活動も含まれています。事業を定義する、というのは、「企業の方向付け」(小宮一慶氏)と言い換えることもできます。
社会から求められる企業にならなければ、社会に「貢献」することができず、長く継続することもかないません。そのために、この3つを定義する必要があるとドラッカーは説きます。

さて、この「強み」をドラッカーはどう位置付けているのでしょうか?

「強み」とは、「他社より魅力的か」、その魅力は「付加価値を生むか」、ということです。
顧客は、商品やサービスそのものにお金を払うのではなく、問題解決の手段に対してお金を払います。他のものより解決手段が魅力であればあるほど、付加価値が高まり、顧客から選ばれることになります。魅力とは、「独自化」と「差別化」です。(藤屋伸二氏)

「差別化」は、「他社でもできるが、自社の方が上手にできる」ものであり、「独自化」は、「他社にできないことが、自社にはできる」ものです。ー藤屋伸二『図解で学ぶ ドラッカー入門』より

著名ブロガーChikirinさんは「自分の強みを活かして勝負する、なんてアホらしい!『自分の』と言っている時点で、あきらかに『供給者視点』であって『消費者視点』ではない」と、言っています。「これが欲しかった!!みたいなもの作ってくれれば、それでいいんです」とまで言っています。

一見、ドラッカーの言っていることが時代遅れで、アホらしいように読めますが、実はドラッカーもChikirinさんも同じことを言っています。
つまり、「顧客」を中心に考える、ということです。

変なセミナーって、「強み発見」だけを強調するんですよね。

それも大事ですけど、ドラッカーの前提を見落としています。この「強み」は、まず(1)外部環境である「市場」(顧客や競争相手)から出発し、(2)自らのミッションを定めたうえでの、(3)内部環境分析(強みと弱み)、なのです。

なので、自分発信で答えありきの「強み」では不十分で、顧客にとっての「効用」を「どのように」提供できるのかという分析が必要になってきます。

次に、この顧客にとっての効用をどのように「提供できるのか」、という問いは、(Ⅱ)「リソース(資源)」が関わってきます。ヒト、モノ、カネ、情報を効率よく分配し、顧客にとって魅力的な効用、成果を提供できるか、という資源の最適配分の問題です。

ドラッカーは、
 第1は、明らかになった強みに集中することである。
 第2は、その強みをさらに伸ばすことである。
 第3は、無知の元凶ともいうべき知的な傲慢を正すことである。 
ードラッカー『明日を支配するもの』より

といい、明確にした「強み」に基づいて、行動、時間とエネルギーの使い方、仕事の仕方、価値観までも集中して伸ばすことを説きます。
この「強み」をどう生かすか、それより何より「強みを正しく知るには」ということについても、ドラッカーが繰り返し述べているのです。
が、しかし、このまま書き続けていると論文になりそうなので、とりあえずこれで終わります。

F.クロフォード&R.マシューズ著『競争優位を実現するファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略』が、「強み」を中心とした最適資源配分について、有効な考え方を示しています。ご興味ある方はご一読を。もちろんドラッカーでもOK!

【 まとめ 】
*「長所」と混同して使われている
*そのため自分視点のみの「強み」発見を強いられているケースがある
*ドラッカーさんは顧客視点からの「強み」を重要視
*お客さまが評価しない、他社と比べて選択してくれない「強み」は「強み」ではなく自己満足
*「強み」はただ持っていればいいだけではなく、変化する場面や環境に対応し適応できなければ意味がない
*変化する場面や環境を読み取り理解する能力がないと「強み」は発揮できない
*仕事や成果に結びつかない「強み」は「強み」ではない

なんやかんやで、結論。
 自らの「強み」を正しく理解するのは難しい。
 「強み」は、外部の視点(=顧客)とその成果の関係で捉えていなければ、強みを活かしているとはいえない。
 「強み」は実践によって明確になり、磨かれていく。
 必要な時に必要なリソース(資源)、ノウハウを提供できなければ「強み」とは言えない。

グダグダ、長々とお付き合いくださってありがとうございました。

【女性の起業コンシェルジュ】 ディークオリティー代表 道喜道恵
 一般社団法人ハーサイズ 代表理事
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