小説 第一回AI Selection (25)武田朋美
そこは広い部屋だった。30台のベッドが二列に並べられていた。武田のベッドは、左の列の端だった。看護師が通るたびに、軽くベッドが揺れた。
彼女の持ち物は何もなかったが、政府から支給された新しい携帯端末には、彼女の認証コードが既に設定されて、銀河にもログインすることが可能だった。
隣には、少し年上の女性が寝ていた。その部屋は女性専用らしく、さまざまな年齢の女性が収容されていた。
武田がそこで3日間過ごした。衰弱はしていたものの大きな怪我もなく、病気もなかったので、その後は、避難所に移された。
その病室で過ごす間、武田は誰とも話さなかった。老婦人から声をかけられたこともあったか、一瞥し、微笑み返した後は、また携帯端末のYomi To から、銀河にアクセスし、友達や家族を探し続けた。
何人か見つけた友達の頭には、輪がのっていた。初めの頃は、その度に悲しみが込み上げて来て、静かに泣いた。が、次第にそれは事務作業のようになっていった。
銀河の中でまだ生きていることがわかった友人が数人いた。簡単な会話をし、現象の話をし、これからの話をした。でもみんなの口から出てくるのは不安と絶望の言葉だけだった。
避難所に移った後、外出もできるようになった。しかし、交通機関は麻痺しており、幹線道路や高速道路は、通行制限があり、自動車で通れる道はごくわずかだった。
山間部に設けられた大規模避難所には、約1000人の人が暮らしていた。残念ながら、その中に友人の姿はなかった。