小説 第一回AI Selection (35)手紙
Yomi Toには、手紙という機能があった。そらは、インターネットに繋がっていなくても、近くにいる3人のYomi Toに手紙のデータを預けることが出来る機能で、これは自動で行われる。預かったYomi Toがオフラインの場合は、同じく近くにいるYomi To 3人にメールを渡すというもので、ひとつのYomi Toが預かれるメールには制限があったので、制限を超えると、また別のYomi Toが預かると言う仕組みである。
最終的に届け先の銀河内のメールボックスにその手紙は届けられるが、届くまでの時間は、まちまちであった。
震災後、数日、インターネットが断続的に使えなくなったため、それぞれのYomi Toは、政権いっぱい他の人の手紙を預かっていた。
大地絹子の元に岸元総理のメールが届いたのは、震災から1ヶ月を過ぎようとする頃だった。
「大地副総理宛 岸より
残念ながら、私は、この震災と運命を共にすることになりました。もし大地副総理がご存命であるなら、この日本を、震災後の日本を、幾たびの震災から復興した日本を、同じく生き残った人々と一緒に立て直してほしい。
きっと大地さんには、起死回生の一打を放つことが出来る。私は信じています。
幸いなことに、Yomi Gamiや銀河も、私の代で国民に普及することが出来た。それがなかった時代とはまた違った形の復興の青写真が私には見えます。それを実現できないのは、悔しくもありますが、それでも後継の方が残ったことに多少の安堵を覚えます。
そのメールを読まれましたら、私の家族や盟友、議員として、総理として支えてくださった皆様。海外の要人に、岸から最大限の感謝とこれからの日本のサポートをお願いしますとお伝えください。
百々野津博士から、地震の可能性について話し合った時から、震災後の対応については話してきました。もし百々野津博士がご存命なら、Yomi Gami主導の復興を実現してください。
今までありがとう。新しい日本に幸あれ。今こそ、起死回生の一打だ。
岸」
大地は何度も読み返し、ありし日の岸元総理のことを思い出していた。