小説 第一回AI Selection (24) 大地絹子

大地が選挙に出たのは、43才の時だった、
その頃、公立の学校で副校長をしていた。大地の父親も教育者であったが、校長を歴任したのに、60代で県議になり、2期の間、地元の教育改革に力を注いだ。

大地が42才の時、その父が他界した。脳卒中で、倒れてから、意識が戻らず、数日で息を引き取った。

父の遺品の中に、日記を見つけたのは、お葬式が終わってひと段落した頃だった。

日記には日々の暮らしの事柄や絹子の結婚や孫についても書いてあった。

絹子は独身だった。結婚を考えた人もいたが、仕事が好きだったこともあり、結婚を優先しなかったこともあり、結局、相手の方から離れていった。

もちろん子供もなかった。

父の日記を読みながら、自分の半生を振り返った。私がやってきたこと、私がやろうとしていたこと、これからやっていくこと。

そんな時に、昔、担任をした田中くんのことを思い出した。卒業後は、連絡を取っておらず、現在、どんな青年に成長したかわからなかったが、妹さん思いの田中くんなら、きっといい青年になっているに違いない。そう思った。さらに、田中くんのような子供たちを救って行きたいと、父の日記を巡りながら、強く思った。

ふと、日記に目を落とすと、父の力強い字で書かれた一文に目が目に止まった。

この少子化の日本にとって、子供たちは、今までにも増して、日本の宝である。それにもかかわらず、多くの子どもたちが、自分のやりたいことを見つけられず、本来の能力を伸ばせてないのではないか。教育にはお金がいる。しかし、ひとりの教師が使えるお金なんて知れている。教育にお金をかけるには、政治を動かすしかない。

現場の声を中央に届ける政治家がいかに少ないことか、子供を育てる前に社会を育てる。そのために、やれることをやろう。

大地は、それを見て震えた。私が父の意思を継ごう。彼女は、胸に誓った。

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