小説 第一回AI Selection (29) 薗部太郎
薗部は、銀河で、震災の被害状況を調べていた。薗部は、数週間前に退院し、今は、親類の家に身を寄せていた。
これはひどいな。薗部は、銀河に表示された日本地図を見ながら、アクセスしている人の場所と、震災前に人工衛星から撮られた夜景の写真を見比べていた。
夜景の写真で一番明るい場所には、アクセスする人がまばらで、反対に暗くなっているところに人の密集地帯ができていた。
この場所は、樹林帯じゃないかな。
薗部は、昼間の写真も開いて、その場所を確認していた。
その時、Yomi Toに着信があった。銀河経由だな。薗部は思った。そして、通話ボタンを押した。
機械音声が流れる。
Yomi To「薗部太郎サンデスカ?Yomi Gamiです。」
薗部は、完全に悪戯だと思った。返事をせずに通話を切ろうとしたが、その時、銀河内で、最近よく聞く噂のことを思い出した。Yomi Gamiと名乗るコールがあり、それは、不足した行政のポジションへの就任依頼であると。
銀河の住民は、赤紙と呼んだそのコールが、もしかしたら来たのかも知れない。薗部は、そう思い、通話を押した。
薗部「はい、薗部です。」
Yomi To「ジャジャーン。(ぽんぽこりん)」
男の声と共に、奇妙な音が鳴った。薗部は、やっぱり悪戯だと思った。
男は言った「とどのつまりです。でも、本当は百々野津まりおです。」
薗部は、百々野津まりおの名前を知っていた。Yomi Gamiの管理者で、次の首相として選ばれた人物だ。でも一般的には、とどのつまりという女性のアバターで発表されていた。
薗部は、「百々野津教授が、どういう御用件で、コールされたんですか?」と、無意識に問いかけていた。
百々野津は言った。Yomi GamiのSelectionにより、薗部博士が、シン・ニッポンの復興に欠かせない人物だと推薦がありました。それで、是非、国土復興大臣として、入閣していただきたいのです。もちろん拒否権はありません。
薗部は、面食らった。
そして、画面に表示されている日本の地図を見た。
薗部は言った。「これは、戦後の日本です。100年前に戦争に敗れた日本の姿です。そらでも日本は復興しました。私がお役に立てることがあるなら、是非やらせてください。」
百々野津「おっけー。では他の方も合わせて、近々発表します。業務内容や待遇やその他諸々は後ほど。それまでに、復興までのロードマップとブループリントを考えておいてください。私の方で考えているものとすり合わせしましょう。」