小説 第一回AI Selection (32) 武田朋美

武田 「まだうちの方には行けないんでしょうか。両親の遺体や遺品を探しに行きたいんです。」

スタッフ「申し訳ありません。住んでいた地域は、全て侵入禁止区域に指定されております。警察関係者、自衛隊、行政の関係者以外は、誰も立ち入りができません。」

武田 「そんなことって。私以外の皆さんもみんな同じ気持ちだと思います。何とかならないのですか?」

スタッフ「私では何ともできないんです。銀河に内閣府への問合せ窓口がありますので、そちらで、問い合わせていただけませんか。」

武田「ここまでやっときたんですよ。知り合いの人に車に乗せてもらって。避難所に帰る足はないんです。歩くと何日かかるか。食べ物も飲み物もないんです。だから。一眼だけでも自宅を、自宅のあったところを見たいんです。
そうしないと、頑張ってきた甲斐もないし、車に乗せてくださった方にも悪いから。」

スタッフ 「私は行った事はないのですが、あそこの山の中腹に見晴らしの良いところがあるようです。そこに行くと、被害のあった地域を見ることが出来ると聞いています。
同じように自宅に戻りたくて、こちらに来られる方は多いんです。その方にも、そちらを案内しています。
少し歩くと時間がかかるようですが、今の時間なら暗くなる前に見ることが出来ると思いますよ。」

武田 「歩くとどのくらいかかるのですか?」

スタッフ 「片道、1時間弱のようです。少し前に、そちらに向かわれたご夫婦がおられましたので、急げば追いつくかも知れません。来た道を30メートルほど戻られてから、左に向かう山道がありますので、そちらに曲がってください。そこからは一本道ようなので、迷う事はないと思います。」

武田 「わかりました。行ってみます。ありがとうございました。」

武田は、避難所から肩身を入れて帰るために持ってきた空のリュックを背負い直し、来た道を戻り始めた。

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