子どもたちの目の輝きを取り戻すために。支援の現場から見えた、社会の役割<特別対談 千原せいじ×橋本英郎>
ボランティアやチャリティ活動においてはさまざまな形がある中で、子どもの支援を行なう団体や活動家は多くいます。今回は、共に子どもへの支援活動を行うお二人を招いてお話をいただきました。
10年以上前から現役の傍ら、慈善団体と共同でチャリティイベントを主催する元サッカー日本代表の橋本英郎さん。お笑いタレントながら2018年に一般社団法人ギブアウェイを設立し、アフリカでの慈善活動を中心に行う千原せいじさん。
歩んできた道のりや現状の活動範囲も違うお二人が、なぜ、子どもへの支援を行うのか。活動の背景や重要性、そして、アスリート・タレントが社会課題にたいしてどう貢献できるかについて語っていただきました。
子どもたちが育つ過程を支援する
ーまず、子どもの支援を始めたきっかけと、現在の活動について教えてください。
千原せいじ(以下:千原):僕はアフリカの子どもの教育を支援するボランティア活動に協力しています。なぜ子どもたちが対象なのかというと、さまざまな国で「大人になると、環境を変えても考え方を変えることは難しい」と感じたからです。
僕が見てきた地域では、先進国の人間を「リッチマン」、自分たちを「プアマン」と表現します。「富める者は貧しき者に与えよ」という概念が間違った受け止め方をされていて「リッチマンからプアマンにモノを差し出すのは当たり前だ」という考えが根強く残っているんです。
その認識を持っている大人には、何を施しても意味がないと感じました。負の連鎖を断ち切るために、子供たちの教育を支援しています。
まだまだ微々たる支援ですが、例えば、昨年はガーナの学校に図書館を建設するプロジェクトに協力しました。蔵書はこちらから押し付けるのではなく、子どもたちに読みたい本を選んでもらうスタイルを目指しています。
橋本英郎(以下:橋本):僕は娘が生まれて、子どもや子育てに対する考え方が変わりました。娘が成長していく中で、風邪を引いたり、ソファから落ちて頭を打って嘔吐してしまったり、怖いことが何回かあったんです。インターネットで対処法を調べても明確な答えも出てこず、「何をしたらいいんだろう」と、強い不安を感じる日々を送っていました。
幸い、娘は後遺症もなくそのまま成長することができました。ですが、いろいろ調べる中で不幸にも治らず病院から退院できない子たちが多くいることを知ったんです。
–ご自身が子育てで不安に襲われたことが、直接のきっかけになったんですね。
橋本:そうですね。ちょうどガンバ大阪に所属していた頃だったのですが、ここでもこうした支援活動の意義を感じる経験がありました。
大阪にある日本クリニクラウン協会さんへお話を伺ったときのことです。この団体は、ピエロの格好をして入院生活を送る子どもたちを周り、笑顔を届ける団体です。
ピエロに触れ合える時間は月1回、30分程度。それでも、実際にピエロを見た子どもたちはすごく笑顔になり、親御さんもリラックスしているように見えました。
お子さんは病院のベッドの上で過ごし、お父さんお母さんも部屋から出られない。そうした日常に、少しの時間でも非日常の空間を作って笑顔を届ける。素晴らしい活動だと思いましたね。現在、個人でも支援をしていますし、イベントで集まったお金を寄付する活動も行なっています。
―そんな支援の形があるとは知りませんでした。
橋本:『パッチ・アダムス トゥルー・ストーリー』という映画にもなったんですが、ヨーロッパでは赤い鼻をつけたピエロが病院をまわるのはスタンダードになっています。ただ、まだ日本では浸透していないので、自分にも何かできないかと思って支援をさせていただいています。
日本国内では、まだボランティアが理解を得られていない
ー日本でボランティア団体や活動を深く知る機会は、なかなか多くないように思います。
千原:日本人は、ボランティアを勘違いしてるところがあって、“無報酬で活動すること” をボランティアだと思っているんですよね。でも、それでは継続的に活動はできません。
自身の団体を通じてさまざまな支援を行うとともに、ボランティアの正しいあり方も日本国内で啓蒙していきたいなと思ってるんです。
例えば、我々がアフリカでの活動のサポートをさせていただいている方が日本に帰ってきたとき、とある教育関係者に「私の勤めている学校でその体験をぜひ子供たちに聞かせてあげてくれませんか」と言われたそうなんです。それに対してその方が「承知しました。講演にお伺いする交通費・滞在費はご負担いただけますか?」と聞いたところ、「ボランティア活動をなさっているんですよね? 無償でお願いします」と言われた、と。教育現場にいる人ですら、ボランティアをそういうものだと思っているんですよ。
ー橋本さんは団体に寄付したり、実際に現地で活動を見る中で、印象的なエピソードはありますか?
橋本:日本クリニクラウン協会の方と病院に一緒に行ったときに、やっぱり僕のことを知らない子もいました。サッカー選手だから求められるわけではないのだなと。実際、クリニクラウン協会の人たちが来ることのほうがすごく求められていました。サッカー選手という立場ではサッカーが好きな人にしか響かないので、この立場を利用したり、お金を寄付したりする形以外で、より多くの子ども達が喜ぶ方法を探したいと感じました。
ー千原さんは海外でも活動されていますが、印象的だったことを教えてください。
千原:内戦下で育った子どもたちの話なんですが。内戦があった国では「お父さんが殺人しかしたことがない」「少年兵として誘拐され、ゲリラとして育った」という子がざらにいます。そういう子が成長して25,6歳で普通の生活に戻っても、自分の子に教育できることがないんです。
発展途上国に行った日本の若者から「貧しい国の子どもたちの目がキラキラしてました」という言葉をよく聞きますよね。でも、それは場所によるんです。内戦を経験して、ゲリラの経験をはじめ人を殺めてきた親に育てられた子どもの目に輝きはありません。
僕たちのミッションは、その輝きを作ることなんです。そして、そのためには子供への教育が必要だと考えています。「世の中にはこんなに楽しいことがあって、勉強するとこういう生き方ができるんだよ」と教えてあげることが必要なんです。でも、教育の問題は簡単には解決できません。銃の使い方と人の殺し方しか知らない親は、何も教えられない。それは親のせいではなくて、社会や国のせいなんです。
少し話はそれますけど、我々の善意が子供たちの環境を悪い方向に向かわせしまうケースもあるんです。規模の大小を問わず、いろんな企業が「発展途上国の人の生活が潤うように…」とフェアトレードの活動を行なっていていますが、一部地域ではフェアトレードを導入したことによって、子供がより一層厳しい環境で働かされるようになっています。
これまで1日働いて1ドルしかもらえなかった子どもたちが、この制度によって20〜30ドルもらえるようになるわけです。そうなると、父親から「お前ら、働いたら20ドルもらえるんやから働いてこい!」と言われるんです。当然、学校には行けなくなりますし、そのお金も子供の進学には使われません。いろいろな意味で、現場を見ると衝撃を受けます。もちろん、ちゃんと機能しているところもあるはと思いますが、僕はあまり見たことないです。
「きっかけ」から見えるタレントやアスリートのチカラ
ー芸能人やアスリートが活動することについて、お二人の考えをお聞かせください
橋本:僕らの発信は、ボランティアに馴染みのない人たちが活動に触れるきっかけになると思っています。身近にボランティア活動が根付いていない人には、全く触れる機会がありません。アスリートが発信していくことで、活動に触れる機会がない人は「こんな機会があるんや」と気づいてくれると実感しています。
千原:海外での活動を通して、アスリートの方は言葉を越えたコミュニケーションが取れるなと思います。日本語しか話せない僕なんかより、よっぽど早く空間に溶け込める特殊能力だと思うんですよね。僕が取り組んでいるボランティアにアスリートの方が一緒に参加してくれたら、子どもたちはもっと喜んでくれるだろうなと思います。
僕がアフリカで活動をしようと思ったきっかけは番組を通してですが、もし僕が芸能人じゃなかったとしても、同じことをしてたと思います。
ーアスリートやタレントは社会貢献活動に積極的になるべきだと思いますか?
千原:僕はやれる人がやればいいと思ってます。人に押し付けるものでもないし、「やっている人が正しい、やっていない人は間違っている」という問題でもありません。ただ、きっかけがなければ始めるのは難しいとは思います。国内で生活していると「ボランティアをやるぞ」という機会も少ないですからね。
橋本:難しいですけど、活動してほしいとは思います。ただ、競技とボランティアの両立ができる環境も必要で、HEROsはその一つだと思います。自分の競技での成績がまず安定してないと、競技以外の活動に余力がないっていうのをすごく感じているんですよね。それぞれのやりたいことはバラバラだと思いますけど、みんなで助け合って一つになって動けば、パワーが大きくなるのかなと思います。
千原:芸人仲間でもボランティア活動している人はたくさんいますけど、キャラクター的に「活動を公表しないほうがいい」という人もいます。いろんな人に活動をしてほしいとは思いますけど、ボランティアのシステムやルールを知らない人がトラブルを起こしてしまうケースもあるんですよね。ボランティアする側が不勉強ということも多々ありますから。
先程話したように、ボランティアは金銭に余裕がある人が身を削ってやるものだと思われがちですが、それでは長続きしません。
活動は持続させる、続けることに意味があるんです。日本人は一瞬一瞬でしか寄付をしないじゃないですか。例えば100万円をどんと払うというような形ですね。でも、それより毎月1,000円を払ってくれる人がたくさんいる方がいいんです。そういった、ボランティアの正しいあり方を日本国内でもっと啓蒙していきたいですね。
ー千原さんは番組をきっかけに活動をされていますが、芸能人だからこそ気づけることや課題に向き合えることもあるのでしょうか。
千原:僕は番組の企画で様々な国に行かせてもらいましたけど、観光地にいくことは多くありません。あえて観光客の行かないところに行って、その国の人たちと近い距離でコミュニケーションをとる機会をたくさんいただきました。これが(課題が見える)良い機会になったかなと思います。
これは自分が訪れたある村の例なのですが、以前、発展途上国に井戸を掘りにいくという日本のプロジェクトがあったみたいなんです。でも今、その村には井戸は使われてなくて壊れたポンプが転がっている。せっかく井戸にポンプをつけても、ポンプのメンテナンスや修理の仕方を村の人々は教わってないから、設備が壊れてしまったらそれで終了なんです。
子どもたちに綺麗な水を飲んでもらうために井戸を掘っても、ポンプが壊れてしまえば、ポンプから漏れたオイルまみれの汚い水を飲ませることになります。これでは本末転倒ですよね。ポンプを管理できる人間を一人でも置いて、その技術を教えていかないと継続性がない。一つひとつをちゃんと整備していかないといけないと思いますね。
そういう意味では、“人の立場に立ってものを考えられる人”を育てる教育というのが、日本でも必要だと思います。“受ける側”に立ってよく考えることが習慣化していれば、この井戸の失敗はなかったと思うんです。
ー橋本さんは13年間に渡り活動を続けていらっしゃいますが、継続してみて見えたことはありますか?
橋本:ガンバ大阪に所属している時に始めましたが、クラブから許可を得た時に「本当にやる気があるなら最低10年は続けてみなさい」と言われたのがとても印象に残っています。そこからスタートして13年が経ちました。僕の中で活動が普通になっていて、特別なことをしている感覚すら持っていないです。
逆に、コロナ禍になって活動が難しくなったと感じています。人と関わることが前提の支援という中で、人と集まること自体が「密を作ってしまうから、大人数で集まってはいけない」となってしまっていますから。今は発信する形でしか動けていませんでしたが、Withコロナになってきて活動をどんどん増やしていきたいですね。
僕は障がいを持っている子に「何かできることがないかな」と思っているのですが、千原さんは、支援をしたい特定の社会課題はありますか?
千原:子ども虐待に関しては、どうにかしたいとずっと考えています。ただ、調べてみると第三者が入っていく難しさも感じました。逆に私からも聞きたいのですが、橋本さん以外のサッカー選手も、ボランティア活動をされている方も多くいらっしゃるんでしょうか。
橋本:そうですね。それぞれの思いで動いていますね。
千原:僕もガーナでプロサッカー選手をしている友人がいるんです。彼は前述したような良くない環境で育ってしまっている青年たちに、サッカーを通して社会性を教えているんですよね。日本では知名度のない選手ですけど、話題になればいいなと思ってます。
橋本:アスリートがそれぞれ活動や発信をしていても、選手の実力に比例して影響力の大きさに繋がる気がしています。どうやって活動を発信するかは課題ですね。
ー最後に、お二人の今後の展望を教えていただきたいです。
千原:昨年建設した図書館に、子供たちが読みたい本を買い揃えていこうと思っています。こちらで置く本を選ぶだけはではなく、子供たちを本屋に連れて行って、自分で選んでもらおう、と。実は今、図書館では子どもたちが興味をそそられた本を勝手に持って帰っちゃうことがよくあるようなんです。本を盗むのは確かによくないことなんですけど、「本を読みたい」と思うことは嬉しいな、とも思うんです。恐竜の本が人気でよく盗まれるみたいなので、今年は恐竜の本を大量に図書館に導入していきたいですね(笑)。あと、図書館を建てた学校の校舎をもうちょっと大きくする計画があるそうなので、その活動もいろいろな人達の協力を受けながら、実現できれば良いなと思っています。
橋本:僕はHEROsを通じて、いろいろなアスリートと知り合うことが増えました。みんなチャリティー活動を自分たちでやっていますが、1人のパワーが小さくて、なかなか人を巻き込めてない課題もあります。社会貢献に触れる人が増えてほしいし、知ってもらいたいなと思うので、アスリート同士、競技が違っても一緒にできることを見つけたいと思っています。
僕自身、アメリカの俳優さんたちが慈善活動をしたり、エトー(元カメルーン代表のサッカー選手)やドログバ(元コートジボワール代表のサッカー選手)のようなヨーロッパで活躍したアフリカの選手が自国に帰ったときにお金を配っているのを見てきました。そして、それが世界ではスタンダードであり当たり前だと思っていたんです。
プロサッカー選手になったらそういうことをするのが当たり前だと、知らぬ間に心に刻まれていました。
今は子どもでも大人でも色々な情報に触れられる社会なので、こういった活動をどれだけ発信できるかが鍵になるのかなと。その発信を見た人が「あの好きな女優さんがこういう活動やっていたな。自分もやってみよう」と思うかもしれない。こういったきっかけを作ることが出来る時代でもあるので、僕自身もそうですけど、活動を発信することを多くの人に呼びかけていきたいですね。