村田諒太から中高生へ問題提起。出所者の社会復帰をどう考える?
3月20日、ぐんま国際アカデミーで、元ボクシング世界チャンピオンであり、ロンドン五輪金メダリストの村田諒太さんが講演を行いました。「HEROs LAB」のプログラムの一環で行なわれたこの講演のテーマは「犯罪を犯した人の出所後のリアル」。ボクシングの元世界チャンピオンが、なぜ元犯罪者の生活について講演を行うのか? そのきっかけは、村田さんの後輩の存在でした。
村田さんは高校時代に選抜2回、高校総体2回、そして国体1回の優勝を果たし、5冠を達成。その後、東洋大学に入学しました。4年時にはボクシング部でキャプテンを務め、チームを引っ張る立場になります。
しかし卒業後、学生時代の後輩が犯罪を犯し、刑務所に服役するという事件が起きました。村田さんはすでに大学を卒業していましたが、責任を感じた村田さんは服役中の後輩に面会に行ったり、出所後の社会復帰をサポートしたりしていたとのこと。その活動を通じて「一度失敗を犯した人間が社会でやり直す環境が、日本にはまだない」と感じたそうです。
現役高校生達に向けて村田さんが赤裸々に話した講話を、お届けします。
<動画はこちら>
ー本日は高校での講演ということですが、村田さんは学生時代をどのように過ごされていましたか?
正直に言って頭が良くなくて、京都で一番学力の低い高校へ通っていました。「流しそうめんの下のザル」と言われるような高校です。誰もがとり損ねたそうめんを最後に拾う場所、という意味ですね(笑)。ただ学校には「誰でも受け入れて、3年間しっかり教育し、大学生や社会人として通用する人間に育てる」という理念がありました。実際に、卒業生の中には起業して成功した人もいます。
そんな中で僕もボクシングに対しては真摯に取り組んでいました。自分より才能のある選手はまわりにたくさんいましたけど、結果的に彼らより長く現役を続け、ある程度の結果も残すことができました
ー村田さんの経歴を見ると、高校時代に5冠を達成し、順風満帆なボクシング人生だったように見えます。
自分ではそう思っていないですし、その結果に辿り着くまでに紆余曲折ありました。よく「成功の秘訣はなんですか?どうしたら成功者になれますか?」と聞かれますけど、そんなものはないと思います。人によって体もメンタルも、生きている環境も違うから、「これをやればいい」なんてことは言えません。ひとつだけ言えるとしたら、目の前のやるべきことに真面目に取り組み繰り返す、ということだけだと思います。
目の前のやるべきことに一生懸命に取り組んで、それをクリアしたら何か違う視点で物事を見ることができて、また次のやるべきことに一生懸命に取り組んで……その繰り返しの中で過ごしていたら、いつの間にか結果が出ていました。高校5冠も五輪金メダルも世界チャンピオンも、後から振り返ったら「いつの間にか夢が実現していた」というような感覚です。
ー村田さんの輝かしい経歴ももっと聞きたいところですが、今日のテーマはボクシングではありません。現在の村田さんが行っている、刑務所や少年院から出所した人たちのサポートという社会貢献活動です。
まわりからは「社会貢献活動」と言われますが、自分はこの呼び方は好きではありません。僕の活動によって、誰かが元気になったり勇気をもらったりするかどうかはわからないからです。ある人は元気になるかもしれないけど、ある人は逆に落ち込んでしまうかもしれない。だから、「何かのきっかけになったらいいけど、そうじゃなくてもせっかくの機会なので、自分が関わらせていただく」くらいのスタンスです。
よくスポーツ選手のコメントで「僕のプレーで見ている人に勇気を与える」という選手がいますよね。その方を否定するわけではないのですが、僕自身はそういった言葉は言えません。なぜなら、僕の試合を見て勇気をもらえるかどうかは見た人次第だからです。自分が頑張ることは大前提。僕は僕で精一杯試合で戦う。これが現実だと思います
先日、少年院で講演をする機会がありました。少年院に入っている子たちからすると、殴り合いの世界で頂点に立った男の講演ということで、どうやらドストライクの人間だったようです(笑)。みんな熱心に話を聞いてくれて、僕も嬉しかったんですけど、言ってしまえばそれだけです。僕の話が社会に貢献したかどうかはわかりません。必要とされてるからその場に行って、話をしたら僕も向こうも嬉しかった。その関係性だけで十分なのかなと。
ー少年院で講演をされて、村田さんが感じること、心がけていることはなんですか?
まず僕は何も決めずに講演に行くんですね。話の内容も「少年院」という先入観も、何も決めずに話に行きます。そうでないと相手に「自分たちのことを犯罪者だと思って見ているな」「心から話してないな」と伝わってしまいますから。
講演の終わりに生徒が挨拶してくれた時、挨拶文が書かれた紙を用意していたんですけど、彼は紙を見ずに自分の言葉で話してくれました。その姿を見た時に、「自分の話が通じたんだな」と思いましたね。
ー村田さんがこうした活動をするようになったきっかけは、村田さんの後輩が刑務所に入ったことだと聞いています。
僕が大学4年時に1年生だった後輩です。12年間の服役の末、先日出所してきました。彼が犯罪を犯したのは僕の卒業後ですし、僕も迷惑を被った側の人間でした。しかし僕がキャプテンの時に新入生として入ってきた後輩ですし、僕の指導やボクシング部の文化が少なからず影響して、彼が犯罪に走ってしまったのかもしれません。僕にも責任の一端があるのではないかと感じて、彼への面会やこの活動につながったのが事実です。
ー刑務所や少年院から出所してきた人にとって、社会に復帰する、社会の中で生きていくことは、非常に困難であるという印象があります。
難しい状況であることは間違いありません。後輩の場合は根っからの悪というわけでもないですし、出所した後はある程度社会的地位を築くことができました。しかし、すべての人が彼のように上手く振る舞える人ばかりではありませんし、彼も最初は『元犯罪者』ということで訝しがられました。はじめは日雇いのアルバイトのような形で働いていたようです。その状況の中で彼のようにうまく立ち振る舞えればいいですが、実際の出所者は彼のように器用な人ばかりではありません。
今の世の中はすべてが、何か一つ失敗してしまうと、村八分と成りなかなか挽回するのが難しい。失敗をした人に対して手を差し伸べることが、日本には必要だと思います
ー日本の犯罪者は、刑務所での刑期を終えて出所しても、再犯してしまうケースが多くあります。法務省によると、2020年の再犯率は49.1%にもなるようです。
僕は服役中の後輩に「出所したら犯罪グループが迎えに来るけど、絶対にまた仲間になったらダメだぞ」と言っていました。案の定、出所後にグループから連絡が来たようです。同じようなパターンで、結局また犯罪の道に戻ってしまう人もいました。
そうやって犯罪の道に戻ってしまう人たちを、僕は『報酬の先送りができない人たち』と表現しています。犯罪の道は短期的に金銭や居場所を与えられて、とても魅力的に見えるんです。でもその魅力を振り払って我慢することで、さらに後にもっと大きな報酬、居場所、社会的立場を獲得できるようになるはずなんです。それが『報酬の先送り』。でも、目の前の報酬を得るために、大切な人を裏切ったり傷つけたりしてしまうんです。僕はそういう人たちをたくさん見てきました。
ー元犯罪者を受け入れる環境が、日本社会にはないとも言えそうです。
出所しても働き先がない、住む場所もない、当然お金もない。でも食事をしなければ死んでしまう。となると再び犯罪を犯してでもご飯を食べようとする。犯罪は絶対によくないことですし、肯定もまったくできません。でも、心情的には理解できます。やはり再犯に走らないように、社会が出所者を受け入れる環境づくりが必要です。一方で、日本に住んでいる人すべてがマザーテレサのようにはなれませんから、受け入れてもらうための努力は元犯罪者に必要だと思います。
ーそしてやはり、こうした元犯罪者の出所後のハンデが世の中に認知されていないことも、根本的な問題ですね。
刑務所や少年院に服役して出所してきた人が社会復帰するためには、さまざまな課題があり、根本的な解決には至っていません。この問題を解決するためには、まず問題があること自体を世間に認知してもらう必要があります。こうした認知を広めるためにどんなことができるか、ぜひ皆さんも考えてみてください。