不遇キャラ再評価委員会 第2回 ギルバート(FF4)
ファイナルファンタジーシリーズ最弱のキャラは誰か。そんな問いが議論に発展することはない。なぜならこの男がいるからである。キャラクター、スキル、ステータス、その全てがヘタレを体現したFF史に燦然と輝くヘタレの一等星、ギルバート王子だ。その弱さは時に全く使える部分がないとまで酷評されるレベルのもので、一見前回のサマルトリアの王子以上に絶望的に見える。というかスペックだけ見ればまさにその通りというのが最弱の2文字を背負う彼の姿である。しかしそんな彼にも、むしろサマルトリアの王子より分かりやすいくらいの重要な強みと役割があるのだ。勿論、やり込みでレベルを上げればステータス期待値が最強だとか後日談にあたるTAでは恐ろしく有能に成長しているとかいう話ではない。通常プレイで果たす彼の役割と実力とはどんなものなのか見ていきたい。
概要
ギルバートは商業国家ダムシアンの王子である。ダムシアンの辺りは国家成立前から砂漠を渡るキャラバンの交易拠点で、王家の祖は代々吟遊詩人をやっている一族の商人だったらしい。彼がダムシアンを訪れた時は折しもサンドウォームによる襲撃の真っ最中で、これを歌の力で鎮めたところ、住民に請われてそこに住むようになった。やがてその商才を発揮して豪商に成り上がった彼が王国の基礎を築いたらしい。ギルバートもその血を受け継いで吟遊詩人としての才能とアイテム(ポーション)の扱いに関する知識を持っているということのようだ。明らかに戦闘向きの人材ではないが、そこは商業と芸術を重んじる国の王子なのでまあいい。しかしそれにしてもだ。
病弱設定でもないのに何かの病気としか思えない虚弱っぷりである。しかもそのスキルも1個のポーションを涙ぐましく分配して雀の涙ほどのHPを回復する「くすり」(まあ全体ケアルも大差ないが)、歌う曲目がランダムな「うたう」(そんなとこでライヴ感を出すな)、そしてピンチに陥るとビビって自動的に発動するヘタレの象徴「かくれる」である。思えばこいつ、初登場の時もこれで自分を庇って倒れた彼女を放って隠れていたに違いなく、現れるや否やジジイに棒で追い回され、泣いては情けないと罵られ、幼女に弱虫と詰られれば冒頭の名リアクションをかました挙げ句にセシルの鉄拳を喰らい、引き摺り起こされるようにして旅立っている。まさに心・技・体の全てを備えたヘタレの理想気体である。
そんな感じなので、防具も重たい重装備は望むべくもなく紙装甲。武器は弓矢と竪琴だが、前者は命中率の問題で実用レベルになく、竪琴はなんと近接武器である。過激なロッカーみたいに楽器で敵をぶん殴る訳ではなく音符を飛ばして攻撃しているのに近接攻撃とは、一体どうなっているんだ。しかも画像の通りこの程度の命中率で攻撃回数は1回である。要するに弓矢は使い物にならないので竪琴一択だがそれならこのヒョロガリを前衛に置かなければならないという訳だ(ついでに攻撃力もイマイチ)。まさに八方塞がりである。
しかし、彼だけが扱える竪琴には有用なステータス異常効果があり、しかもその発動率は非常に高いのである。これこそが彼の存在意義になっていく。
運用
どのみち必須のHPMP管理
さて、やっぱり今回もこの話になるかという感じだが、FFシリーズでも難易度が高い本作、特に軍人1人ですぐに転がる民間人を複数引率しなければならない序盤はこまめな(そして少年たちが大嫌いな)HP管理が必須である。それをしない限り女子供ジジイヒョロガリがホイホイ転んでしょっちゅう引き返す羽目になる。これに関してはギルバートを前衛に立たせないとならないから、とかではなくFF4の攻略上絶対必要になる要素だ。そして、これは同時にMP管理の問題でもある。ただし難しいことは特にない。
①うっかり2、3発くらい食らっても死なない程度のHPを保つ
特にMPが減っているとケチりがちだが基本中の基本。これをやっておかないと特に最初の頃は本当に簡単に死ぬ。
②弱すぎて①が不可能なら少しレベルが上がるまで防御に徹し、主力は殲滅効率優先
加入直後のリディアとギルバートが該当する。2レベルくらいならすぐ上がるので、暫く黙って防御待機しておけば良い。ただし隠れると的が減ってリディアがヤバいので隠れるのはナシ。
③暗黒自重
これはMP管理の一環だが、暗黒は戦闘あたりのHP効率が悪い。みんなつい使いたくなる技だが、セシルは強くて硬くて速いので、序盤の雑魚なら動き出す前に2、3匹斬り倒せる上に攻撃されても大したダメージを食らわないので、暗黒が必要な場面は殆どないというか大抵は使わない方がいい。必要なのは②のために殲滅効率最優先の場合か後列にいる厄介な敵(アスピル使いなど)を素早く片付ける時、その他全体攻撃で一気に敵を片付けなければならないが有効な全体攻撃手段が他にない場合くらいだ。そうすると民間人が四苦八苦している間もセシルはまるで目減りしないという状況になり、殆ど回復コストを割く必要がなくなる。
④魔法キャラの通常攻撃はロッド類を道具使用
バロン城下町のトレーニングルームでさらっと触れられているが、道具使用できる武器は意外に多い。ロッドや杖はみな道具として使用でき、ただのロッドでさえ単体に30程度の無属性ダメージを与えることができる。これによって普通の雑魚戦では魔法使いキャラもほぼほぼMPを使わずに攻撃参加できるようになる。
以上をこなしていれば、脆い後衛部隊が安定して戦闘は快適になるし、ついでにギルバートも問題なく稼働し続けられるようになる。では、実際どう使えば役に立つのだろうか。
指輪を外せ
HP管理を行った上で紙装甲は少しでも改善する必要がある。初期装備を見ると魔法防御に優れるが物理防御は0のルビーの指輪を装備しているので、これは鉄の腕輪に変えておこう。大して魔法も飛んでこないのにこんなものを持っていても仕方ない。他には手がないので戦闘準備は以上。では実際にどう戦えば役に立つのか見ていこう。
凶悪なデバッファー
最初に触れたように、ギルバートが奏でる竪琴は高確率でステータス異常を発生させる。竪琴は2種類あり、初期装備の夢の竪琴は眠りを、アントリオンの洞窟でいきなり手に入る最強装備のラミアの竪琴は混乱を付与する。つまり、決まれば戦力としては0かマイナスになるデバフが高確率で入るということになる。セシルにせよリディアにせよ一撃で敵を倒せることはあまりないため、こと敵を無力化することに関しては(雑魚戦では)主力の2人より優れていると言える。
前列の敵のうち、そのターンで火力担当が確殺しない方を狙えば効率的に敵の戦力を減らし、自分も味方も守ることができる。
しかもギルバートは素早さだけはセシルと同等程度まで成長し、割と最初に行動する傾向が強い。先制攻撃で敵1体を高確率で実質消せるというのは印象は地味ながらなかなか凶悪な特性である。
地味に事故に強い
これは一長一短だが、瀕死になると勝手に隠れるギルバートの特性はヒョロガリのくせに前衛を張らなければならないポジションとは相性が良い。うっかり連打を食らっても大方次の致命的な一発を食らう前にフェードアウトできるので、少なくとも雑魚戦なら、その素早さで最初の仕事はしているし然程ターン数も重ねないので途中で引きこもっても悪影響は少ない。ただしボス戦やファブール城の連戦でこうなると回復させるのが難しく、結局勝負がつくまで戦線復帰しないパターンも発生する。
ボス戦での立ち回り
しかしデバッファーというポジションはデバフが効かないボス相手だと成立しない。その場合は素早さを生かしてアイテム担当になる。
また、「くすり」があるのでサブ回復役としても問題ない。普通にプレイしていればケアルが単体100強、全体20強程度なので単体80程度全体15前後出せるならばそう悪くない。また、火力もラミアの竪琴の攻撃力が18と案外高めなので火力はローザより若干高め程度でこれも案外悪くない。
要するに素早いが脆く回復量がややショボいローザ、みたいなポジションだ。反撃の角がうるさいアントリオンではセシルと違って攻撃すると赤字なので後列に置いて防御で肉壁待機しながら必要に応じて回復役をやればいいし、マザーボムの大爆発をやり過ごしてからの緊急回復では全体がけにしろ単体にしろローザと手分けして対処すれば他の3人は攻撃に専念できるので、特段役に立たないということはない。
総評
全体として見ればギルバートの評価は以下の通りである。
①雑魚戦では先制攻撃で敵1体を高確率で無力化する強力なデバッファー
②一番脆いくせに前衛に立たねばならないため耐久性は最低(ただし後述のバグで後列でも竪琴を実用化できる)だが、普通の後衛にも必要なHP管理をしておけば瀕死で勝手に隠れる分事故死は少なく、雑魚戦ならそれによる悪影響も軽微
③回復役としては確かにショボいが同時期のケアル役との回復量の差は然程でもなく、行動が早いのは利点
④最大の役割が消えるボス戦ではスピードこそ生きるが影が薄く、役に立たない訳ではないがローザの下位交換に近い
⑤ボス戦やイベント戦でうっかり連撃を食らって引きこもるとうまく回復のタイミングが合わない限り出てこなくなり役立たずと化すが、マザーボムでは④の事情から、ファブールは実質主力2人で問題ない雑魚戦であることから、わざわざそのためだけに1回分の行動順を使うこともない
ステータス、スキルともに最弱と言えるがオンリーワンの仕事をするための道具(竪琴)とステータス(素早さ)だけは持ち合わせており、最大のネックである脆さも攻略上全てのキャラに必要なHPMP管理と自身の能力(先制攻撃での無力化と自動の「かくれる」)で相当程度カバーできるため雑魚戦では間違いなく重要な一翼。本格的な前衛が1人しかいない中、敵の手数を高確率で予め1つ減らせるのは大きい。反面ボス戦やイベント戦では大きな強みが削られて雑魚戦では一長一短だった逃げ足の早さが悪い方向に出てしまう。ただし強くはないだけで役割はある、といったところ。
なお、余談だがSFC版では一度後列に下げてから弓矢を装備させ、再び竪琴に持ち替えるとバグで竪琴が遠距離攻撃扱いになり、ギルバートを後衛に置けるようになるため最大のネックであった脆さがカバーされて普通に強くなる。
さて、同じ不遇キャラとしてサマルトリアの王子と見比べると、共通するところが浮かび上がってくる。箸にも棒にもかからない役立たずというイメージは、①脳筋なキッズが苦手とする慎重なゲーム運びがないとすぐ死ぬキャラの1人であること②その真価がステータス、ダメージ、回復量といった数値に表れない種類のものであること③物語上のキャラクター性――から来ているのではないだろうか。
まずFF4が割とみんなのトラウマになっているのは①の影響が色濃いゲームだからで、これはもう仕方ない。そして②微妙な威力の武器の特殊能力と最弱としか言いようのないステータスの唯一の取り柄で成立しているとなれば少年の心を打つことはなく、「強いのは武器」「結局確率だから外すこともあるだろ」「ボスには無意味」と言う感じで正当には評価されづらい。そして③に関してはもはや説明不要である。しかし実際のところ、敵の攻撃が激しい本作で、高確率で敵を「死んだも同然」以上にする先制攻撃ができるというのはかなり優秀な能力ではないだろうか。不当とまでは言えなくとも過剰なイメージは、概ね環境と印象から来ていると言っていい。
このアンナの言葉は、スタッフからプレイヤーへの言葉だったのかもしれない。尤も、ステータス異常が威力を発揮するでもない状況でサハギンごときをタイマンで倒してみたところでプレイヤーとしては「だから何だよ」でしかないので、アンナの霊に託した想いが届くことはなかったのだが。