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RO昔話 ピクミンたちの殺し屋稼業

今回は少し昔話をしたい。
皆さんはラグナロクオンラインをご存知だろうか。2024年時点で22年目を迎える国内最古クラスのMMORPGだ。驚いた人もいるだろう。あのゲームはまだ続いているのだ。筆者も驚いた。
お察しの通り、筆者は元RO廃人である。あのゲームとの出会いは唐突だった。大学進学を期に、小学校以来のゲーム中毒から脱却すべく賢明にもゲームから距離を置いていた俺に地元の旧友からやらないかと誘いが来たのがきっかけだ。何となくオチが見えていた俺は当初暫く渋っていたが、再三の勧誘に折れてまあ先っちょだけならええやろと応じた挙句がこのザマである。あの野郎、ようやく真人間への道を歩もうとしていた俺をよくも泥沼に引きずり込みやがって、忘れてねえぞこの(放送禁止用語)
……とまあ、こんな話はどうでもいいとして、ともかくこうして俺はラグナロクオンラインの世界に降り立ったわけだ。時はβ1時代、今や拡張4次職まであるという職業もただのノービスと一般1次職6種しかなく、最強の雑魚はナイトメア、最強のボスと言えば当時は迷いの森に出たバフォメットで、グラストヘイムもアルデバランも存在しなかった。俺はその頃ソロ最強の呼び声も高かったシーフを選び、やがてオシリスやバフォメットを狙ってうろつく廃人の仲間入りをした。俺を誘った当人はドン引きである。そんな目で俺を見るな。
やがて、β1が終わりβ2が始まるという話が流れてきた。目玉は2次職の実装。シーフの上級職はアサシンだ。クリティカル2倍の連撃を繰り出すカタールや最大3連撃の短剣二刀流の使い手で、必殺技は高速8連撃のソニックブロー。隠れたまま移動や攻撃ができる技もあるという。イメージイラストには眼光鋭い銀髪の暗殺者が描かれ、「Shadow of Death…」と厨ニマインドをくすぐる一文が添えられていた。

――これは強い。シーフも強かったがアサシンも強いに違いない。

俺は胸を躍らせた。結果は皆さん知っての通りである。今も古老に語り継がれているであろう、「悲しい時代」の幕開けだ。
……皆までは言うまい。あの有名な「あるアサシンの物語」の頃には既にピクミン、略してピクの蔑称を欲しいままにしており、その代わりトリプルクリティカルジュルさえ入手すれば、全体に不遇だった前衛職のさらに底辺から、たちまちソロ最強職の一角に躍り出るという極端な性能であった(なお、拡張1次職が存在しなかった当時の「忍者」という名乗りは、TCJがないアサシンなど暗殺者未満のパチモンという意味が由来である)。しかし仕様変更と新要素の実装が進み、やがてVit前衛の時代がやってくるとその一握りの輝きも褪せてゆく。

247 名前:(^ー^*)ノ~さん 投稿日:02/11/24 22:01 ID:d9f5c2jr公平組まずにアサシンをPTのお供に30人。             深淵騎士が沸いたらアサシン3人一歩前へ。             3人のアサシンが死ぬ前に魔法なり矢なりで深淵騎士を倒す。     アノリアン湧いたらアサシン2人が一歩前へ。              アサシン切れたら帰還。                     赤ぽ切れた感覚で帰還。                   近い将来こうなると思うよ。                 249 名前:(^ー^*)ノ~さん 投稿日:02/11/24 22:02 ID:7EUVPMRw>>247                            なんかピクミンみたいだな・・・

その起源

そして、それを差し置いてもお笑いだったのが「暗殺者」のくせに対人戦では支援職のプリーストにすら及ばない最弱で、一次職にすら簡単に殺される始末だったことだ。さすがに一次職ならクローキングで行けるやろと思われるかも知れないが、クローキングが壁際以外でも使えるようになったのは二次職実装から何年も経った後だった。しかも最初の頃はルアフサイトの効果範囲も全画面である。バックステップすらないとなれば警戒されたらどうしようもない。
そんな訳で後衛火力職には遠距離から高火力で、それ以外にはお手軽な必中スタン攻撃で完封される防御能力、そして自慢の秒間火力は対人盾と白ポ連打の前には無力というのがアサシンの対人性能であった。さすがに数々のテコ入れやバランス調整はあったが決め手に欠け、基本的にこの構図が解消することはなかった。
さらに、遅れて実装されたもうひとつの二次職であるローグの性能が、アサシンより隠密行動に長け、装備ストリップによる無力化に加えて一撃必殺のひと刺しを持ち、タイマン最強の名を欲しいままにする、まさに「俺たちが欲しかった暗殺者」であったという強烈な皮肉が追い打ちをかける。後に大幅な弱体化を受けることになるとは言え、その時まさに暗殺者を名乗るパチモンの前に悪漢を名乗る本物の殺し屋が現れたのだった。
ところがまあ、こうなると何としても全職ブチ殺してピクミン如きに殺される屈辱というものを味わわせてやりたくなるのが人情というものだ。この頃になると手段はなくもなかった。ウィザードやハンターなら盾を持って出来るだけ近くまで忍び寄ってからバックステップで飛び掛かり、対応する二刀(左はスタンとブラッディの換装)で襲撃すれば殺るか殺られるかには持ち込めたし、Vit100でないプリーストなら鎧でスタンインベを防いで毒と呪いでハメ殺せば削り切ることもできた。ステ異常インベナムバックステップで騎士やブラックスミスのスタンコンボをいなしながら毒と呪いと睡眠で削ることもできたし、後述するがストリップにも対抗手段はあったので、方向転換をショートカットに入れてスタブを躱せば勝負はできた。しかし、あくまで勝負はできるというレベルであって勝率は低い。劣勢は覆しようもなく、バックステップを駆使して跳び回りミスなく長期戦を戦った末に勝てるか勝てないか、という世界だ。戦い慣れていないか未完成の格下ならともかく、レベルや装備が同格の相手にはこれら全てを駆使しても勝ち切るのは簡単ではなかった。俺は攻略法の研究にはそこそこ自信があるがプレイヤーとしては大して上手くはない。結局本格的な騎士やクルセイダーには遂に勝てなかったし、そもそもVit100勢はお手上げだ。さらに言えばPvPは常時過疎で、そうでない時は対人廃がパーティ戦で暴れていて全く手が出せないなど戦う機会も少ない。結局PvPの研究は頓挫して、これをもとにGvGの研究に傾倒していくことになる。
ゲーム的には何も旨みがなく金がかかるばかりのPvPと違い、GvGにはアジトダンジョンという利権もあるので大量のプレイヤーが参加している。そしてメインイベント的な大規模戦闘という位置づけだけに一応全ての二次職に何らかの役どころがあるデザインにはなっていた。アサシンのそれはエンペルームの入口にロキの叫びを敷設した防衛網の中で敵の突破を阻止するヒットストップ役と、スキル攻撃を受け付けないエンペリウムの破壊(なお実装当初のGvGはルーンミッドガッツ王国内のみ)。いずれもアクティブスキル抜きでの攻撃速度と秒間火力が光る場面という訳だ。
ところが前者にしてもメイン火力は崖上からの弾幕である以上、多少秒間火力が高かろうがオンリーワンの強みとまでは言えず、後者は結局2HQのある騎士やARがあるブラックスミスに軍配が上がる。結局、ただ公式で想定されたポジションをこなすだけではアサシンとしてそこに居る意味は薄い。そこで、改めてアサシンの持つ強みを洗い出してみることにした。

①多段ヒットストップ
間違いなく一番認知されている強み。純粋な攻撃速度と秒間火力ではアクティブスキルでブーストされた騎士やブラックスミスに敵わないが、カタールなら2段、二刀なら2・3段ヒットするのでヒットストップ性能は高い。

②多彩&高確率なステータス異常
二刀で最大でカード8枚分のステータス異常を、自在に武器を換装して敵に付与することができる。機動力を完全に殺しATKを25%減少させる呪い、視界を潰す暗闇、頻度は少ないが後衛狩りに使えるスタンなどデバフによる妨害に長ける。さらに唯一有用なスキルとの呼び声も高いベノムダストで100%毒化地帯を敷設することも可能。毒は食らうとDEFが25%減少し、自然回復が止まるほかHPの減少速度も案外速く、地味に視界も悪化するなど中・後衛には意外と馬鹿にならない遅効性を持つ。

③石投げ
ローグにも使えるのでアサシンならではの強みとは言えないが、連打可能な中距離必中攻撃で低確率ながらスタンつき、石はそこらへんでどこでも拾えるという有用な妨害スキル。なお後に実装されたベノムナイフは同じく連打可能でより射程が長くナイフもかさばらない優れものではあるが、Agi系には避けられるので妨害スキルとしてはやはり石投げに軍配が上がる。

④HP係数
どうしても一定以上Agi型の育成にならざるを得ない上基本盾なしで戦うため脆い印象があるが、実はHP係数そのものはクルセイダーとさほど変わらない水準で、当時は全職業中第3位を誇った。そのため多少Vitに振る程度でもHPは案外高くなり、しっかりHP管理をしてスタン時も盾を構えていればイメージほど生存率は悪くない。

⑤ウェポンストリップ耐性
あまり知られていないが、ウェポンストリップは左手に武器が装備されていても右手が素手なら発動しない。これは恐らくスキルの発動条件が「武器が装備された右手」であるため。勿論左手だからと言って「シールド」ストリップは効かない。このため左手に呪い武器を持ち、サイトを焚いてEmCローグに延々と粘着することができた。

⑥影の薄さ
身も蓋もない話だが、アサシンは積極的に排除しなければならないような重要な敵ではない。突っかかってきて邪魔なら始末すればいいし、取り逃がしてもどうということはない。しかもルアフサイトが回っていなければ姿を晦ます技もある。このため引き際さえ誤らなければしぶとく逃げ延びられるし、体勢を立て直して再襲撃するのも容易いと言える。

以上、まとめるとアサシンの強みは多彩で高確率なデバフと行動の阻害、神出鬼没の動きだということが言える。この強みを生かして果たすべき役割は敵の特性に合わせた行動阻害と武器に執拗につけ狙ってスタックさせ、味方に殺させることだ。ならば、これはGvGにおいては立派な殺し屋だと言っていい。
そう言われても「どこが?」と思う人の方が多いだろう。転生2次職の実装より前、当時のGvGを知る人の大半にとってアサシンはピク以外の何者でもなく「殺し屋」ではあり得ないはずだ。そもそも「アサシンに殺されたことはない」と思っている人が少なくないのではないか。それはそうだろう。アサシンが自前の火力で殺し切れる敵は限られるし、それらにしても「サシならば」返り討ちにあう可能性は高い。
しかしGvGは大規模な集団戦なので、別に自分の手で敵を殺す必要はない。ちょうど呪われた魔の踏切に棲む悪霊が列車の前で犠牲者の脚に絡みつくように、機動力を潰して致死量の火力を持つ味方に呑み込ませればいいのだ。後衛火力職の接近拒否能力も、Vit前衛の突撃力も、機動力や視界が潰れていれば機能しない。それだけで死ぬはずのなかった敵の戦力を死に追いやることができる。
それでも、やられた方は事故みたいなものだと思うか、せいぜい「邪魔なピクのせいで◯◯に殺られた」くらいにしか思わないだろう。しかしそれでいい。殺し屋というのは本来そういうもののはずだ。決して目立つことなく、標的が「殺された」ことにすら気づかせない。そして魔の踏切を魔の踏切たらしめるのは、犠牲者を直接マグロにした列車ではなく、そこに潜む悪霊なのだ。
最後に、この当時アサシンテンプレに掲げられていた格言を紹介しよう。時代が変わって役目を終え、もう検索しても原文は見つけられず思い出しながら書いているので細かい言い回しは違うかもしれないが、大意に間違いはない。それは騎士の視点でどこかのスレに書かれたものを、誰かがシフアサスレに転載したものだった。

アサシンは暗殺者じゃない。アサシンはセロテープだ。
火力は低いし攻撃速度も一番ではないくせに高速2連打または中速2〜3連打とヒットストップだけはある辺り粘着セロテープってとこか。
RO界の粘着セロテープ、それがアサシン。
スタンバッシュであっさり剥がされ、丸めて捨てられるのはただのセロテープだ。
粘着力が低めに見えて案外剥がれないのがVitのあるセロテープだ。
そして、剥がしにかかるとひらりと剥がれ、見当たらなくなるのが訓練されたセロテープだ。
こいつらはまた後でどさくさに紛れて貼り付いているから腹が立つ。
それもセロテープなんぞ剥がしてる暇のない忙しい時に限ってだ。ああ鬱陶しい。

煽ってるんだか褒めてるんだか分からんが、この文に妙に納得してしまった。

集中攻撃を受けている忙しい奴に貼り付いて粘着し、剥がしにかかられれば一旦引いて姿を消し、また粘着する鬱陶しい動き。まさにアサシンの持てる能力をGvGで活かすために必要な基本動作だった。個人的にも納得感のあるアサシン評であったし、この格言は転生二次職が実装される前の長い間トップページに掲げられていた。
不遇の時代、敢えてアサシンでGvGに参戦していたプレイヤーは、ピクの汚名の陰でこれを念頭に暗躍していたのである。それは後に明らかな脅威として存在感を放つことになるアサシンクロスとは対照的な、人知れず忍び寄る「死の影」だった。

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