ウィンストン・チャーチル~ヒトラーから世界を救った男
“夢を捨てる時、この世は存在しなくなる。”
ウィンストン・チャーチルさんの名言の1つです。
Darkest Hour
ジョー・ライト監督の2017年の作品です。
脚本は『博士と彼女のセオリー』で有名なアンソニー・マッカーテンさん、クラシカルな印象的な音楽はダリオ・マリアネッリさんです。
主演はゲイリー・オールドマンさんで、ウィンストン・チャーチルさんを演じて、アカデミー主演男優賞を受賞しました。
共演はクリスティン・スコット・トーマスさん、リリー・ジェームズさん、ベン・メンデルソーンさんなどです。
ゲイリー・オールドマンさんの特殊メイクを担当したメイクアップアーティストの辻一弘さんがアカデミー賞のメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞したことは、日本で大きなニュースになりました。
ストーリーは…、
1939年に第二次世界大戦が勃発し、ナチス・ドイツが勢力を拡大しました。
翌年にはフランスが陥落寸前になり、イギリスにも危機が迫っていました。
ナチスとの宥和政策をとる首相のネヴィル・チェンバレンさん(ロナルド・ピックアップさん)は退陣に追い込まれて、ウィンストン・チャーチルさん(ゲイリー・オールドマンさん)に政権は委ねられました。
連合軍が北フランスの港町ダンケルクの浜辺で窮地に陥る中で、就任したばかりの英国首相ウィンストン・チャーチルさんの手にヨーロッパ中の運命が委ねられる形になりました。
ヒトラーさんとの和平交渉か徹底抗戦か…、究極の選択を迫られるチャーチルさんです。
組閣後も内閣の面々は揃って現実的な宥和政策を主張しますが、チャーチルさんは一貫してナチスに屈しない道を主張しました。
国民に向けて、誇り高く戦い続けることを訴えます。
ナチス・ドイツが勢力を拡大する中、国の存続危機の真っ只中に、チャーチルさんが首相に就任した日からナチスと戦うことを宣言する有名な演説をするまでの27日間を描いた映画です。
チャーチルさんのトレードマークと言えば、キューバ葉巻です。
1日中、火をつけては消し…消してはまたつける…というほどの愛好家でした。
また、朝から酒を嗜むほどの大酒飲みでした。
更には、国王との用事よりも昼寝を優先したり、バスルームでミーテイングをする…といった変人ぶりでも知られています。
表向き“強い人”、“毅然とした人”みたいなイメージのあるチャーチルさんですが、普通に弱い面もあり、悩み、葛藤します。
弱気になる時期ももちろんあります。
映画の中で、妻のクレメンティーンさん(クリスティン・スコット・トーマスさん)に励まされるシーンがあります。
“欠点があるから強くなれる。迷いがあるから賢くなれる。”
…夫を優しく励ます。
その際にもう一言添えます。
“全世界があなたの肩にかかってる。”
…とエールを添えます。
映画の中で特に感動的なシーンでした。
また、自宅に訪ねてきた国王ジョージ6世さんからは…、
“君の首相就任を誰よりも恐れたのはヒトラーだ。あのケダモノを怯えさせる男を私は信用する。戦おう。”
…と言葉をかけられました。
胸熱です。
“いかなる犠牲を払っても祖国を守り抜く。断じて降伏はしない。”と力強い言葉とスタンスはどれだけの国民に勇気を与えたことでしょうか。
“どんなことでも、大きいことでも、小さいことでも、名誉と良識とが命ずる時以外は断じてゆずるな。
力に対して、ことに敵の圧倒的優勢な力に対しては、断固として絶対にゆずってはいけない。”
“誠実でなければ、人を動かすことはできない。
人を感動させるには、自分が心の底から感動しなければならない。
自分が涙を流さなければ、人の涙を誘うことはできない。
自分が信じなければ、人を信じさせることはできない。”
これらもまた、チャーチルさんの名言です。
映画の時のチャーチルさんは65歳でした。
原題の『Darkest Hour』は、チャーチルさん自身が最も困難な挑戦をしたその時期を表現した言葉に由来しています。
チャーチルさんにとっては、生き地獄のような日々だったのかなぁと想像してしまいます。
そんな中で“勇敢に戦って敗れた国はまた起き上がれるが、逃げ出した国に未来はない。”と当時弱気だったジョージ6世さんに言います。
この映画は、真のリーダーシップとはどんなものかを教えてくれる側面も持ち合わせています。
チャーチルさんは“自分たちのありたい姿”を明確に描いていました。
目先の損得や可能性を計算して、“とりあえずできそうなこと”で国民に訴えようとはしなかったところが凄いです。
チャーチルさんは理想を描くだけではなく、それを伝えることに心血を注ぎました。
一連のスピーチでは、情景が目に浮かぶような言語表現が巧みに駆使されています。
有名な…
“私が差し出せるのは、血と労苦と涙、そして汗だけだ”
…という一節もその1つです。
作品中では適切な言葉を丹念に探りながら、口に出した内容を秘書にタイプさせるシーンが描かれています。
しかし、スピーチライティングに時間と労力をかけているにも関わらず、チャーチルさんは演説では原稿を読みません。
聴衆を見据えて、力強い言葉でボディランゲージを交えながら伝えます。
チャーチルさんが人の心を動かすのは熱意と技術によって、共感(感情が動く)→納得(損得を考える)→理解(理屈がわかる)…というステップを踏んでいたからと考えられます。
多くのリーダーは、わかりやすく理屈から入って“理解→納得→共感”という逆のステップを踏む場合が多いと思います。
しかし、損得勘定の後では、人の純粋な感情は動きません。
映画の終盤で、チャーチルさんは閣外大臣たちを集めて、“(ナチスとの宥和政策をとれば)その空には鉤十字がはためくことになる。バッキンガム宮殿にも、ウィンザー城にも、そしてこの国会議事堂にもだ。”と、屈辱的な情景が目に浮かぶと言葉で鼓舞します。
大臣たちは損得や理屈以前に強く感情を揺さぶられて、ナチスに徹底抗戦するというチャーチルさんの提案に賛成します。
地下鉄に乗車したチャーチルさんが大勢の市民たちと語り合うシーンはこの映画のハイライトの1つです。
“もしイギリスがドイツと和平協定を結んだら君たちはどう思う?”というチャーチルさんの問いに、市民たちは“ダメです”と強い意志を示しながら次々に声を上げます。
イギリス国民としての誇りに働きかけてきたチャーチルさんの言葉が市民に届いていたことを本人が直に気付かされるシーンです。
“演説の名手”、“言葉の天才”として知られたチャーチルさんは、イギリスのありたい姿を明確に示す言葉の力で国民の心を動かしました。
そんな英雄として語り継がれるチャーチルさんですが、プライベートでは朝から酒を飲み、秘書に横柄に怒鳴り散らしては妻に嗜められる“ダメ人間”ぶりを発揮します。
これは西洋流のリーダーシップの特徴です。
西洋流のリーダーシップでは、リーダーは人として立派であることは特に求められません。
リーダーも組織の中の1つの機能に過ぎないからです。
日本はそうではない場合が多々あります。
リーダーには、日常生活でも人格者であることを求めます。
リーダーには、機能に徹する方法と役職とともに人間性を高めていく方法があります。
この異なる2つのリーダーシップに共通して求められる重要な要素があります。
それは、裏表がないことです。
目先の損得で態度を変えて、表面を取り繕うリーダーの言葉は軽薄です。
この人は本気でそう思っている…と思わせることができなければ、人の心は動かないと思います。
そういったリーダーシップの在り方という観点で観ても、この映画はおもしろいです。
あとは、同年に公開したクリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』を添えて観ると、もっとおもしろくなると思います。
リーダーシップや…もっと視野を広げて、人生も学べる映画…あぁ~、ステキ♪
“成功があがりでもなければ、失敗が終わりでもない。
肝心なのは、続ける勇気である。”
これもまたチャーチルさんの名言の1つです。
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