死神シーソーゲーム
生きるor死ぬ 気持ちが揺れ動くには理由がある?
「私はもうすぐ死ぬ…後悔はない‼︎」
いつものように消灯後の病室の天井を見上げお決まりの覚悟を口にする。
枕元におかっぱの男の子が現れた。
「わっ?何?病室間違えてません?」
夢見「私は死神の夢見(ゆめみ)と申します。貴方の寿命に関する相談で来ました」
普通なら受け入れられない状況だが死が近づいている状況、毎日発している覚悟からか
第一声は…
「私は直ぐに死ねますか?」
自分でも意外な一言であった。
夢見「まぁまぁまぁ、今日はシーソーゲームを防ぐ為にやって来ました」
「シーソーゲーム?」
夢見「はい。人間は死の直前に心変わりをする事が多く『生きるor死ぬのようなシーソーゲーム』をされる事が多いのです。死神からすると本来の予定がズレて非常に面倒ですので事前に整理をさせて頂きたく伺いました。」
「それなら安心して下さい。余命も既に聞いてますから」
夢見「いえ、貴方は移植を受け入れれば余命以上に生きられるはずです。そうすると移植相手の寿命は減りますので更に私が面倒になる訳です。」
「大丈夫です。移植は受け入れません。」
夢見「しかし、貴方には優しそうな旦那さんがおりますよね?適合の可能性などあると思いますが私が来ている事で察して下さい」
面倒を回避したい為にグレーな発言をする夢見
「やっぱり…夫なら今回も私を助けてくれるのですね」
涙を流す女性
「あの人はずっと私のヒーローなんです」
思い出が頭に浮かぶ
『施設で育てられ小学校でいじめられてるのを助けてくれた
中学では事故で両親を亡くし辛いはずなのに自分ではなく私を気遣い元気をくれた
高校では手の届かない存在になったのに私を常にグループの輪に入れてくれた
大学では施設出身の私との付き合いを親族に反対されても戦ってくれた
社会人になり永遠の愛を誓ってくれた
ずっと支えていくと言ってくれた
これからは支えていくのは私の番
お願いしますと答えた』
目に涙を溜めながら
「夫には知らせません。夢であった海外勤務が始まったばかりで今が大事な時です」
夢見「移植は受けられないという事で良いですか?旦那さんは受け入れてくれますか?ここがシーソーゲームになる人間の1番面倒な所ですからね」
「旦那に病気を伝えたら仕事を辞めて移植にも協力してくれてしまうはずです。散々助けて貰って夢を奪って寿命まで貰うなんて出来る訳ありません。何か理由を付けて離婚します。もう二度と会わないようにします」
夢見「そんなに簡単に離婚や会わないなど出来ると思いますか?」
夢見に頭を深々下げ
「ここに夢見さんが来たのも縁だと思いますし私の気持ちは変わりません。旦那に浮気でもお金の使い込み何でも良いので上手く伝えて今後会わないようにして貰えませんか?…それに夢見さんなら出来るのでしょ?」
夢見「何で私が?」
「面倒は嫌ですよね?」
少し悩む夢見
夢見「仕方ない。分かりました。方法はこちらにお任せ下さい。全く人間は実に面倒臭い。」
1日後
夢見「こちらをどうぞ。」
差し出された離婚届けには旦那のサインがしっかりとされていた。
自然と溢れでる涙
「…え?いや…え?こんなに簡単に?何て伝えたのですか?旦那は何か言ってませんでした?」
夢見「伝えた内容は差し控えますが旦那さんは奥さんに言いたい事が多過ぎて落ち着くまでは会いたくない。次に会う機会があるならまず一言強く言いたいと仰ってました。」
涙が止まらない
「覚悟はしてたけど…こんなに簡単に終わっちゃうんだ…どこかで反対をして自分を助けてくれる期待があったみたいです。」
呆然としながら離婚届けにサインをして夢見に渡す。
夢見「確かに預かりました。ちなみにもう一つサインをお願いしても良いですか?奥さんの臓器で寿命が延びる方がいるので面倒回避の為に今度は私の為にご協力下さい。」
出された臓器移植の同意書
旦那の思いもよらないあっさりした対応から心有らずの奥さんはサインをする
「私で最後人助け出来るなら喜んで。これで私の寿命が確定ですね。ありがとうございました」
夢見「はい。今後は奇跡でも起こらない限り寿命が増減する事はありません。ありがとうございました」
夢見が去り放心状態の奥さん
その日から消灯後の病室で天井を見上げ
「私はもうすぐ死ぬ…後悔はない…」
いつもの覚悟を口にするも…
…何故だろう?自然と涙が溢れるようになった。
そして何日かが過ぎ
ようやく旦那への幸せを祈る事が少し多くなった頃に臓器移植をする事が決まる。
最後に他人の為に役に立て良かった。
そう思いながら麻酔が効いて目を閉じていく。
手術が始まる
次起きたらいつもの天井を見るのだろう
意識がなくなり夢を見る
旦那との何でもない日々が思い出される
他人の為に役に立てたからご褒美かな?
本当に幸せな人生だった。改めて感じられた。
手術は無事に終わりましたと声が聞こえる。
自然と流れる涙の共に目を少しずつ開けていく
少しずつ視界が開けていく。
いつもの天井のシミが見える。
再び覚悟を発する僅かな日々が待っている事を悟る。
ため息をつきながら少し横を向くと
一台のベッドが置かれている。
今回臓器移植した人か?
気になり顔を良く見る
…⁈
「嘘?」
涙が出てくる
涙が溢れ出る
もう止まらない
止まる訳がない
今まで覚悟しか発していなかった口から
泣き声と「嘘?何で?」困惑の声が出る
言いたい事は沢山ある。聞きたい事も沢山ある。
その時
臓器移植した男性も涙を流しながら目を開けた
夢を見ていたようだ。
色々考えながらゆっくりとこちらを見た
聞きたい事があるのだろう。沢山言いたい事があるのだろう。そんな表情をしていた。
私には表情でわかる
一呼吸置き
その男性は涙を流しながらもこちらに微笑む
そして…
『ありがとう』
と術後の弱々しい身体から
精一杯の強さで言った。
再び涙を流す
今度は困惑は混じっていない
ありがとう
一言で全て分かりました。
私も少しは支える事が出来たみたい。
死神界でその様子を見ていた夢見
夢見「今回のご夫婦はお互い臓器移植が必要でお互いを想い病気も知らせない。今までで1番シーソーが釣り合っていましたね。」
一枚の紙を破りながら
「難解なゲームにならず無事終わり良かったです。」
最後に夢見がボソッと一言
夢見「但し…
奇跡ってあるもんですね
奥さん寿命が伸びてます
全く人間は実に面倒です」