死神カップラーメン
人生最後の3分間で人間が取る行動とは?
大学の夏休み。初めての一人暮らし。ぼーっとしながらゲームばかりしている僕のもとに覚えのない荷物が届く。
品名はモニター当選のカップラーメンとの事だ。
封を開けると見た事ない真っ黒な容器のカップラーメンが一つ入っている。
横には小さな紙が添えられており
「おめでとうございます。貴方は選ばれました。貴方の意見を皆様に届けさせて下さい。四二神堂の自信の商品になります。作り方は一般的なカップラーメンと同じでお湯を入れて3分間で完成となります。待っている3分間を楽しめる製品となっております。感想を担当者にお伝えください。」
四二神堂?聞いた事ないな。
昨今こんな感じで食料品送る会社珍しいよな。手をつけない人沢山いるんじゃないか?アンケート用紙も入ってないし。
その時ぐぅーっとお腹が鳴る。
そういえばここ何日かご飯食べてないな。
早速お湯を沸かす。蓋を開けると通常と変わらない見た目…香りはいまいち分からないが美味しそうだ。
3分間で完成だったよな。待っている間の3分間でどんな変化があるのだろうか?
お湯を注ぐと尋常じゃないほどの煙が上がる。周りの家具が見えないほどだ。
少し煙が落ち着くとそこに一人のおかっぱの子供が立っていた。
「早く蓋をしめて‼︎早く‼︎早く‼︎‼︎」
あまりの声の大きさに言われるがまま蓋を閉める。蓋を閉めながらも現況が飲み込めない。
そこへおかっぱの子供が話しかけてきた。
「どうも四二神堂(しにがみどう)開発担当の夢見(ゆめみ)です。5秒だけ貰います。今から3分後に貴方は死にます。好きに3分間お使い下さい。ちなみに残り2分50秒です。これが死神タイマー。デジタルです。定番の砂時計じゃなくてごめん」
「は?いや誰?死ぬって?これテレビ番組とか何か?」
夢見は問いには答えず黙々と死神ノートに状況を書き込む。
死神ノート:状況説明後混乱。事態が飲み込めず10秒ロス。
夢見「そのまま3分経っても面白くないのであと一回だけ説明します。3分後貴方は死にます。有意義にお使い下さい。前のモニターの方は身内の方に連絡してましたよ。早くも残り2分30秒です。」
死神ノート:場合よっては二度説明必要か。もしくは商品に添えるメモ書きを丁寧にするか要検討。
「いきなり死ぬって言われても信じられないでしょ?連絡?家族?彼女?友達?てか本当に何なの?」残り2分20秒
死神ノート:言われたままの行動を取る人間が多い。ここで突拍子も無い行動を取る人間はいないのだろうか?
「てか携帯、携帯どこだ?」必死に探すもなかなか見つからない。残り2分15秒
死神ノート:物探しに時間を掛けるなんて滑稽だ。
「あった!実家に電話を!」残り2分5秒
死神ノート:今回の対象者は家族に電話。やはり家族と恋人が多く友人は稀のようだ。
電話が繋がる。
「母さん?母さん‼︎‼︎」
「あっごめん。大丈夫。声大きかった?事故とかではないよ‼︎ちょっと色々あって慌ててごめん。いや、あの、えっと…」残り1分50秒
死神ノート:状況を説明出来ず。また母親への言葉が出てこない様子。
「あの…ごめん。本当にごめん。…ごめんなさい。身体には気をつけて」残り1分30秒
死神ノート:結局シンプルな言葉のみ。時間も余る。
「後は何すれば良い?あと何秒だ?」残り1分20秒
死神ノート:振り出しに戻る。また混乱。
彼女に電話するも繋がらない。残り60秒
「何で繋がらないんだよ?俺のこと嫌いなのか?こんな大事な時に!役に立たない!いつもそうだ!」残り50秒
死神ノート:混乱からか彼女の状況を把握しておらず。またパニックから彼女を疑い始める。
「もう45秒しかないじゃないか」
死神ノート:再度混乱
「普通は死ぬ前に何をするんだ?最後の晩餐?
…部屋の片づけ?あっ‼︎」残り30秒
死神ノート:最後の晩餐を思い出す事が多いが食べたい物までは浮かんで来ない様子。
ベッドの下を漁り始める。残り20秒
「これ残して死ねない」残り15秒
何かを抱えて外に走り始める。
死神ノート:抱えてたのはまさか?面白そうなデータが取れそうだ。
アパート横の川に抱えていた物を捨てる。残り5秒
5、4、3とカウントダウンをする夢見
「死にたくない!死にたくない‼︎本当に死ぬの?嫌だ!嫌だ‼︎‼︎まだしたい事は沢山あるんだーーー」
絶叫と共にタイマーが0になりアラーム音が鳴る。
死神ノート:外で終了の場合もあり。最後は絶叫する人間が多い。これ以上まだしたい事があるのか?
「え?死んでない…」
夢見「はい。モニターの人は死なないですよ。まだ商品開発中なので」
「え?え?」
夢見「どうでした?3分間?いつもと比べて有意義な3分間では無かったですか?」
「いや、無我夢中で何がなんやら…」
夢見「このカップラーメンは人間が死んだ後にやりたい事があったとか、言い遺した事があるなど暴れて面倒なので死神達への新商品アイテムとして四二神堂が開発してます。人間に最後の時間を与えスッキリ死んでもらう為です。尚且つ美味しいラーメンを死神が食べれる画期的商品です」
「全く訳が分からないんだけど…」
夢見「分からなくても良いですよ。ヒアリングだけさせて下さい。3分間という時間はどうでしたか?」
「いつもより全然長く感じた。電話して外にも出れたし」
夢見「有意義な時間になったみたいですね。ちなみに貴方は外に出ましたが何故ですか?」
「死んだ後に見てほしくない物を捨てました」
夢見「ほう。人間はそういう所も気にするのですね?」
死神ノート:3分間は問題無しだが遺品も気にする人間。面倒。
「残したら恥ずかしい物です。もう触れないで下さい。大学生くらいの男には良くある話ですよ」
夢見「最後の問いになります。まだしたい事があると言ってましたがそれは何ですか?」
「3分間では混乱してろくに出来なかった母親への謝罪や彼女への対応。また未来には結婚や子供が出来るなど楽しみがまだあると思います」
夢見「なるほど。貴重なご意見ありがとうございます。未来を夢見るのですね。これだから人間は面倒です。では今日は非常に良いデータが取れましたので貴方の記憶は消して私は死神界へ帰ります」
指を鳴らす夢見。
モニターの大学生男子はもとのアパートに戻りゲームを始める。
カップラーメンを食べながら死神ノートをまとめる夢見。
夢見「最後に説明する時間で麺が伸びますね。味は良いのに残念です。まだまだ改良が必要ですね。しかし…面倒はこりごりです。」
死神ノート:『まとめ』
※本日の対象者は今までと違う行動が多く興味が湧いた。
何故痩せこけ食事を取っていなかったのだろう?部屋の悪臭は何だろうか?
風呂場が赤く染まっていたのは何故?
大抵の人間は家族にはありがとうと言っていたが…ごめんなさいとは?
彼女は電話に出なかった?いや出れなかった?
思春期の人間の男は生ゴミと刃物を捨てるのだろうか?
人間の行動観察は出来たのでこれ以上の詮索は無用か…。
しかし寿命が残り僅かでも夢を見ているとは不思議である。
人間とは面倒だが実に面白い生き物である。
夢見