フィンランドの森と「ホテル・メドゥーサ」
こんにちは!
フィンランド食器ショップ「ヘルネ」店長の友人、YUKIです。
今日は、フィンランドの森を舞台にした小説をご紹介します。
「ホテル・メドゥーサ」
(角川文庫) 文庫
尾崎 英子 (著)
年齢も性別もばらばらな日本人4人が出てきます。
40才の占いカフェオーナーの男性、自分嫌いでなにもかもがうまくいかない女性、妻を亡くして悲嘆の淵にいる男性、子育てを終えた女性。
4人はある同じキーワードに導かれて、フィンランドの田舎にひっそりと佇む「ホテル・メドゥーサ」にやってきます。
そのキーワードとは「異次元」です。
この森には重力が違っているポイントがあり「異次元」に繋がるドアがある、という情報を聞き、それぞれの事情を抱えながら集まった人々。
異次元に求めるものも各々違っていて、この地球での人生を捨てて新たな世界に行きたいと願っている人もいれば、亡くなった妻に会うために目指す人もいる。
今までを振り返り、自分なりの総括をして、いざ、異次元の世界に旅立てるとなった時、果たして4人はどんな選択をするのか、そんなお話です。
この小説が不思議なのは、登場人物には出てこないんだけど、終始、優しい眼差しでずっと見守っている透明の存在を感じるところ。
「どんな選択をしてもいいんだよ」
「どんな過去を持っていてもいいんだよ」
「大丈夫、大丈夫」
そう、どっしりと温かく包んでくれて、自由意志を尊重してくれるエネルギーが4人に注がれていて、そのおかげで読んでいる側も優しい気持ちになれるんです。
その優しい気配はなんなんだろう……と思っていましたが、再読してみて、フィンランドの森がその役割を果たしてくれているんじゃないかと気付きました。
フィンランドが舞台でなかったら、物語の感じ方がちょっと違っていたかもしれません。
もっとも、それは私の記憶の中にあるフィンランドの森を投影しているからなのですが。
フィンランドを旅した時、なんて人々と自然が近いのだろうと思いました。
都会からでも、ちょっと車を走らせれば、すぐに森や湖があるんです。
国土面積の約8割が森林で、湖の数は18万8000個。
国土の約1割が水面なんだそうです。
まさに、森と湖の国、ですよね。
ヘルシンキ近くのヌークシオ国立公園を訪れた時、私の知っている森となにかが違う、と思いました。
森に入る時の敷居の低さというのかな。
フィンランド人は、駐車場に車を止めると、まるでスーパーマーケットに入るように、日常の延長みたいな雰囲気で、軽装備でひょいと歩き始めるんですよね。
日本の森では、うっそうとした樹々と傾斜の激しい道を覚悟して慎重に歩くことをイメージしていましたが、そういえばフィンランドの森にはアップダウンがなくて、低木が多くて見晴らしがよい明るい場所がたくさんありました。
体力や装備もそれほど気にする必要がなくて気軽に歩くことができるし、森にあるベリーなどの果実は誰が食べても良いことになっていて、安らぎとワクワクの中で散策を楽しめたんです。
それでいて、神秘的でどこか現実離れしている。
あちらこちらに精霊が宿っていて、見えない存在に操られているような気がしてくるのです。
焚き火の煙が特定の人ばかりに向いて、まるで何かを言いたそうだったのを覚えています。
私は、フィンランドの森に対して、「自分の内側に意識が向いて静けさを味わえる場所」そして「自然と人が友情が結べる場所」という印象を持っているのですが、この本を読んでいるとまさにそれと同じ空気を感じることができるのです。
「あぁ、またフィンランドの森に遊びに行きたいな。
もしかしたら、異次元のドアを見つけちゃうかもしれないな。
そしたら私はどうするかな?
やっぱり、好奇心に負けて異次元に飛び込んじゃうかな」
なんて、妄想をしながらの読書でした。
今はなかなか旅行ができないけれど、フィンランドを舞台にした小説を読みながら、アラビアのマグカップでコーヒーを飲む。
それだけでも、最高のリフレッシュになりますよ。