ミニチュアのパッケージあれこれ
日本で売っている製品のパッケージは、本当に素晴らしい。見栄えもいいし、丈夫だし、あとなんか「買った」という実感がハンパなく高い。お菓子のパッケージにすら、アップル製品かと思うレベルでコストをかける国だ。包装紙を取り、箱を開け、緩衝材を取り、中箱のフィルムを剥がして、ようやくお菓子にたどり着く。ここまで来ると、モノによっては、製品本体と同じくらいにコストをかけているような気もする。
日本に住む人の多くにとって、パッケージのカド一つ潰れていないのは当然で、キズなどついていれば買う気にもならない。まるで宝物を扱うように商品を扱い、キズ一つない状態であり続けること。それは売り手にとっても買い手にとっても同じ基準で、多くの日本人に刷り込まれた「当たり前」の感覚にすら思える。
だが、こんなにも美麗さにこだわる日本人の感覚は、世界的に見たら相当アレなようだ。俺自身、日本人の感覚がいかに極端でナイーブであるかを、イギリスに住んで否応なく味わった。イギリスのスーパーなんぞ、箱が潰れているのは当たり前で、日本人の感覚で考えたら、商品の半分以上がキズものである。
しかし、かの地ではそんな事を気にするアスホール(小)野郎は俺くらいのもの。「箱が潰れていようが、中身が大丈夫なら問題ねえべ」と、売る側も買う側も考えていやがる。それどころか「箱が潰れてないのはアリマスカ」などと店員さんに聞いたら、こちらがアホ扱いされ「は? 自分で探せば? 忙しいからもう行くね?HAHA」とか言われておしまい。やれやれだぜ。
前置きが長くなった。今日は、ミニチュアのパッケージについて話そう。
◆ 大手メーカーのミニチュアパッケージ
ミニチュアメーカーの中でも、大型店舗との取引を大々的にやったり、パッケージからしてブランディングにこだわる大手メーカー各社は、商品だけでなく、パッケージにも様々な工夫を凝らしている。例えばウォーハンマーやシタデルブランドで名高いゲームズワークショップは、全ての製品に個性的なボックスパッケージを施し、その時その時の方針にそって新たな挑戦を続けてきた。ウォーマシンやホーズを展開するプライベティア・プレスも、それぞれの製品ブランドを象徴する魅力的なパッケージを作っているし、マリフォーを擁するウィルドも同じだ。
これらのメーカーはどれもが素晴らしい製品展開をしているが、彼らがオールドスクール・ファンタジーミニチュアを出さない限り、ハーミットインで扱うことはない。他店で購入してくれ。
◆ スモールビジネスのミニチュアパッケージ
では、オールドスクール・ファンタジーミニチュアを展開する我らがスモールビジネスはどうかというと、多くの場合、これがまあ清々しいレベルでパッケージが簡素というか、日本人が持つパッケージという概念そのものを否定してくるわけだ。ミニチュアの出来は凄まじく良いし、ディティールの抜けもありえないレベルで精密なんだけど、パッケージがまさにオオラカ越前。日本では考えられないかもしれないけど、コレ普通ね。
なんかラベルが貼ってあったり、名前とか書いてくれてる場合もあるけど、大抵はミニチュアが入ってるだけ。「オラ早く出して作れよコノヤロウ。お前が買ったのはミニチュアだろ?しまい込んでんじゃねえよコノヤロウ」なアティチュード。そもそも「積む」という感覚を理解してくださらない。しかも、袋の番号や製品名と中身がたまに違うとか、品質管理という概念自体に哲学的な問いかけをしてくる。だがここで、かつてのゲームズワークショップのシタデルミニチュアパッケージと見比べれば、彼らは古の伝統に従っていることに気づくだろう。
80年代初期のシタデルミニチュアパッケージ。ホチキス留めかよ!
とはいえ、全部がこの「ジッパー付きプラバッグにそのままイン」なわけでもない。メーカーによっては、フルカラー印刷のインサートが入っていたり、ブリスターパックに入っていたりもするのだ。フック用の穴がついており、店頭での販売も視野に入れているのがよくわかる。
だいぶ見てくれが良いね
◆ ラルパーサ・ヨーロッパの熱意が嬉しい
ハーミットインのビジネスパートナーを探すにあたり、特に強い熱意で応えてくれたのがラルパーサ・ヨーロッパ。見ての通り、日本用にパッケージを作ってくれた。ガキの頃に集めたラルパーサのミニチュアに日本語で製品名が入るなんて、熱いものがあるね!
これは個人的にも熱くなる
ただ、この専用パッケージだとミニチュアの破損がけっこう出ることが判明したので、2021年現在は廃止した。熱意は嬉しいが、その結果ミニチュアの品質に問題が出るんじゃ本末転倒だからね!
また、普通はブリスター入りのリーパー・ミニチュア製品も、2021年現在、商店ではブリスターのままでは販売していない。それは、パックに入ったままだと見えない部分のチェックができず、ミニチュアの品質管理が行き届かないことがわかったからである。なので商店で販売するリーパーは、全て検品された上で、別途プラパックに入れ、ハーミットイン商店のパッケージに入って発送される。
◆ ボックスセット
ハーミットイン商店では、しばしば「ボックスセット」と呼ばれるものも販売する。アザーワールドの冒険者ボックスセットなどはこの好例。こちらは、厚紙製のルッキングッドなパッケージ仕様で、箱の中はスポンジで仕分けがされているタイプ。往年のグレナディアやラルパーサのボックスを思わせる、独特の良さがある。
こりゃ豪華なパッケージである。作った後に持ち運ぶケースにもなるね
◆ オールドスクールファンタジーをクールに魅せたい
ハーミットインでは、我が友人たちから託されたオールドスクール・ファンタジーミニチュアを日本に紹介するにあたり、専用パッケージを新たに用意することにした。ミニチュア自体に注力するあまり、パッケージを二の次にしてしまう彼らの職人気質には敬服するが、日本という場所でこのまま販売することで輸送中に壊れたり、簡素パッケージのせいでナメられたら嫌だからだ。
ミニチュアパッケージの形状やデザイン選定についての会議はモメた。どのくらいモメたかというと、ビッグバン・ベイダーvsアントニオ猪木か、スタン・ハンセンvs長州力ぐらいモメた。会議中にも関わらず、「ザク強行偵察型の首は動かない!だから僕も動かない」と叫びながらペヤングソース焼きそばを食い出す奴とか、「オーナーが決めればいいんじゃないですか? 私ちょっと抜けますね」と服を買いに行っちゃう奴が出たり、実にひどいものだった。
結局俺が選んだのは「ピローケース」とよばれる形状でパッケージを作ること。強度も高く、各社のミニチュアを丁寧に、かつルッキングッドにパッキングできる。積み上げることに全く適していない形を選んだのはワザとだ。「買ったら開けて作って欲しい」という想いを伝えたかった。明細はもちろん発行するし、発送前の検品は二人体制で行う。でも、どのパッケージに何が入っているかのラベルは貼らない。ドキドキワクワクしながら開けて欲しいからだ。
ハーミットインの誇る最新型マイコンを駆使したマイト&マジックで完成。
上は、パッケージの展開図である。フタのところには扉があり、ツメの部分には鍵。ツメを引き上げてフタ(扉)を開けたら「汝の冒険はここから始まる」と英語で書いてある。そう、このパッケージを開けるたびに、オールドスクール・ファンタジー世界での冒険が始まるのだ。
ボックスセット、ブリスター入り製品、一部の大型製品を除き、ハーミットインで買えるミニチュアには、この共通パッケージが使用される。注文を受けるたび、運営スタッフであるインスタがファビュラスにパッキングする手はずだ。緩衝材も十分に入れてシッカリ梱包するから、ミニチュア自体にダメージが入るようなことはないはずである。
「是が非でもキズのないパッケージが欲しい」という人が多いようなら、パッケージのバラ売りさえ考えているところだ。パッケージは中のミニチュアを守るために作っているが、そのパッケージにすらキズ一つない美品を求めてやまない人ならば、ミニチュア1個につき3個は持っておいて損はなかろう。
ちなみに、このパッケージは折りたたんで、スペースを取らずに保管できる。ピャッと捨ててしまうのが惜しいなら、ダイスやマーカー、チット、ビッツパーツ入れに使ってくれ。それに将来、このパッケージを沢山持っているとイイ事があるかもしれないな。
◆ おわりに
パッケージの話、し足りないからもうちょっと書いていい?
いや、コーンフロスティの話ね。
店員にパカにされた俺は「ここはイギリスなんだ。Goに入りてはGoに従えだ」と自分に言い聞かせた。そして「俺は日本人だぞコノヤロウ、箱が潰れてないコーンフロスティを出せコノヤロウ」と言いたいのをグッとこらえつつ、カドのひしゃげたトニー・ザ・タイガーの箱を抱えて「あのう、これください…」と会計を済ませ、トボトボ家に帰る訓練を重ねたのだ。
結果、俺は「グローバル・マインド:箱潰れOK」スキルを体得する。つまりカドの潰れたコーンフロスティでも、楽しく買い物できるようになったのだ。そうでもしなければ、俺はコーンフロスティ欠乏症にかかり、ついには餓死していたことであろう。帰国してから? そりゃアナタ、ここは日本なんだから、カド潰れの箱なんて買いたくないですよ。グローバルなんかクソ食らえだ。
とはいえ、最近はエコ志向の助けもあり、日本でも過剰包装は敬遠されるようになってきたし、製品の箱が潰れているとわめくアホな潔癖オバサンを店で見ることも減ってきた。過剰包装と潔癖の狂乱時代に比べると、日本もずいぶん落ち着いたというか、優しくなったというか、誤解を恐れず言えば、少しマトモになったように思う。
確かに、同じ買うならベコベコの箱よりキレイな箱のコーンフロスティの方がいい。でも、それをカンペキに求めるあまり、心の余裕とか色々と失っているような気もする。食べるのは箱ではなく中身のコーンフロスティで、パッケージも中袋も、中身を食ったらどうせポイッと捨ててしまうのだ。カドの立った箱を求めるあまり、カドの立つ人生を送るのもどうかな、とは思う。
ともあれハーミットインで出した答えは、コストをかけてでも、日本で梱包するという事だった。それがビジネスとして正しい決断かどうかはわからない。現時点では得られるかどうかも不明なソフトメジャーを担保するためにコストを上乗せするのだから。でも、ハーミットインでミニチュアを購入してくれた人が、ドキドキワクワクしながら扉(フタ)を開けてくれるのだとしたら、それはホビービジネスとして正しい決断に違いない。俺ならドキドキワクワクしつつパッケージを開けるだろうし、目をランランと輝かせて明細と中身を付き合わせるだろうし、パッケージも後生大事に取って置くことだろう。
君にもぜひ、ドキドキワクワクしてもらいたい。創業をお楽しみに!
ハーミットイン商店(ストア)と冒険の記録(ブログ)、4/19公開!