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【出張執筆】恐怖の猫テント(VirtualCampers様)

2024年12月10日(火)22:00~23:30にVRChat内で、VirtualCampers様やバーチャル朗読家の海崎マノンさんとコラボして出張執筆を行いました。

現時点(イベント終了直後)は本文の掲載のみに留めますが、後ほど様々な情報を追記させていただきます!

小説本文:恐怖の猫テント

 豊かな森林に拓かれたキャンプ場は賑わっていた。

 時刻は夜21時。寒さが本格的になる12月だが、穏やかな風は冷たさよりも澄み切った空気の心地よさを届けてくれる。広場の中央にある焚火と共に、それを囲む人々の笑い声や話し声が、着込んだアウターレイヤー以上の温かさを提供していた。

 キャンパーたちはキャンプチェアや丸太の椅子に座りながら、澄んだ星空を見上げて寛いでいる。瑞々しい木々の香りと共に味わう、甘いマシュマロは格別だ。時折、フクロウが「ホーホー」と低く鳴いては、「あ、フクロウ鳴いた」と呟くなど、ゆっくりと流れる贅沢な時間を享受する。

 さて、マシュマロを食べ尽くした頃合いに、ホットココアができあがった。全員が焚火の周りに集合して、今から各々のタンブラーで乾杯をする寸前のこと。

「あれ、なんか一人足りなくない~?」

 主催サポートのミィが言うと、その場にいる全員が周囲を見回した。チェアや丸太椅子は人数分用意したはずだが、一つだけ空席になったチェアがある。

「BOTじゃないよさんがいなくなりましたね」

 と、誰よりも先に主催のお茶が述べる。可憐な大正浪漫に身を包んだ小柄な少女が、確かにいなくなっている。「本当だ」「先に寝た?」「酔っ払ってどっか行った?」「何も聞いてないけど……」などと、キャンパーたちは口々に言った。

「念のため安全確認した方が良いかな?」

 ミィはまばたきしながらお茶を見上げる。

「そうですね。皆様も一応手伝っていただければ幸いです」

 お茶が僅かに頭を下げながら言うと、キャンパーたちはタンブラーを地面や椅子に置いて四方に散る。テントの中を覗きながら「BOTちゃんいる?」と声を掛けたり、森林に向かって「BOTちゃーん?」と呼び掛けたり。5分が経ち、粗方キャンプ場を調べ終えたキャンパーたちは、再び焚火の周りに集合した。空席は二つに増えていた。

「あれ、TAKArimanさんもいなくなった?」

 ミィが言うと、キャンプ場に微かな騒めきが広がった。「えっ、なんで?」「事件?」「落とし穴?」「誘拐された!?」「サイトBから二人も!?」などと不穏な単語が飛び出るたびに、キャンプ場はたちどころに騒然となった。

「皆さん、落ち着いてください。もう一度よく探してみましょう」

 お茶が低く、ゆっくりした声で宥める。キャンパーたちは押し黙り、焚火のパチパチとした音が焦燥感を煽る。ふいに聞こえた甲高いキツネの鳴き声は、悲鳴にも似ていて凄惨な光景を想起させた。

「やっぱりテントに戻っちゃったんじゃないかな?」

 と、naccyoは優男のボイスを響かせ、片っ端からテントの中を確認する。

「やっぱりサイトBが怪しいんじゃない?」

 赤髪のNANAIは、サッ……サッ……とテントの入口を手早く開く。

 さて、キャンプ場にはいくつかのサイトに分かれてグループが組まれているが、そのうちの『サイトしぃ』は一丸となって捜索していた。

「しぃさん、誰か見つかった?」

 もちという、黒い猫耳のような球体のかわいい存在が、そのグループのリーダーに呼びかける。「しぃさん?」と再度呼びかけてみるが、返事はない。

「しぃさんいない?」

 猫の白い帽子を被った雅にゃこは不思議がった。今の今まで隣にいたしぃが、忽然と消えていたからだ。

「しぃさーん?」

 天使の羽が生えた、キャンディのように甘い容姿をしたのこむらが、ファミリーテントの中にある猫のテントに入ろうとする。と、猫のテントの内部から、何やら細長く赤いものが伸びてきて、のこむらに巻きつく。「えっ……?」と驚く間もなく、のこむらは中に飲まれてしまった。

「えっ……!?」

 たまたま遠くから、その瞬間を眺めていたフウロンは、慌てて周囲を見渡した。持っていた焼きそばを取り落としそうになり、黒い帽子も吹き飛びそうになる。

「の、のこむらさんが猫のテントに食べられた!?」

 そういうと、キャンプ場の全員がサイトCのファミリーテントの前に駆け付けた。ファミリーテントの中に鎮座する、可愛らしい猫のテント。そこから微かに、猫の鳴き声や誰かの「誰か助けて!」という声が聞こえてくる。

「BOTちゃーん!? 生きてるー!?」

 片目隠れのMitasuは、左目を真剣に細めて叫ぶ。すると中から「生きてる! にゃ、にゃ、にゃんこが舐めてくるけど!」と返答が帰ってきた。たしかに、何かを舐めている声と、喜ぶような猫の鳴き声が聞こえてくる。

「これ、どうにかして中からキャンパーたちを出す方法ないかな?」

 誰かが言うと、一、二分の間キャンパーたちが考え込む。猫のテントの中からは、相変わらず「にゃ、にゃ、にゃんこ~!?」という悲鳴が聞こえてくる。

「ひょっとしたら、猫のテントはお腹が減っているから、美味しい食べ物をあげたら満足してくれるんじゃないでしょうか?」

 童話の王子さまのような、上品な衣装に身を包んだマノンが言うや否や、ポトフ鍋を持っていたウロが心配そうに鍋を猫のテントに近づける。

「えーこれですか? 熱いので気を付けてください。猫舌かもしれないので」

 すると、猫テントはペロリと舌を伸ばして鍋を食べる。「あっ、鍋食べてる」と、テントの中にいる誰かが言った。「今なら逃げられるかも?」とテントの外にいる誰かが答える。

「猫が好きなものといったら、マタタビでしょ」

 アネポポは言いながら、丁度このキャンプ場に自生しているマタタビを採取して、猫テントに近づける。元々このキャンプ場には、猫人間やその他様々な人種が集まるから、そういう方々にも好まれるような創意工夫がある。

 マタタビを舐めとった猫テントは、とても嬉しそうな鳴き声をあげた。「今だ、みんな! 出てきて!」とミィが言うと、失踪者たちは猫テントの中から続々と出てきた。外傷は見当たらず、無事のようだ。それどころか猫と戯れて幸せそうな表情のキャンパーもいる。一部ベタベタになるまで舐められた人もいるようだが。

  ◆  ◆  ◆

「さて……なんやかんやありましたが、乾杯をしましょう!」

 全員無事だったことに安堵しつつ、お茶は今度こそタンブラーを手に取り「乾杯!」と宣言した。「かんぱい!」とミィがやわらかい声で、「かんぱ~い!」とマノンが恭しいお辞儀と共に。

「乾杯!」

 それからキャンパーたちも、思い思いに飲み物を味わい、再びキャンプ場には笑い声や楽しそうな談笑が戻る。

 猫テントはというと、焚火の周囲に再設置されて、キャンパーたちと一緒に過ごすことになった。お腹が減っている猫だったら、ちゃんと餌を分け与えれば害はない。

「猫テントさんも乾杯!」

 ダマスカスが猫テントの前でビールを差し出すと、猫テントも舌で掴んだジョッキを打ち合わせて「にゃあ!」と返すのであった。

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