【短編小説】てうてう学童クラブ
Ⅰ.この小説について
本作はてうめっささんという方をモデルに、メタバースプラットフォームMyVket内部で開催したイベント中に、リアルタイムで執筆した即興小説です。
てうめっささんはリアル世界でも学童保育で働いていたキャリアがあります。
本小説を執筆する際には、現場の人間ならではのリアリティのある「子どもの様子」や「子どもとの接し方」をアドバイスいただき、協力しながら書き進めていきました。
てうめっささんは、今後メタバース内で「学童保育で働いていたときの成功体験、失敗談」や、「現場の人間ならではの子どもとの接し方講座」などを、イベントとして開いていく予定とのことです。
私の方からも、是非てうめっささんをよろしくお願い申し上げます!
てうめっささん:X(Twitter)
Ⅱ.【短編小説】てうてう学童クラブ
時刻は午後三時過ぎ。学童クラブで子どもたちが楽しそうにおやつを食べていた。
学童クラブ室のテーブルの上には、チョコレートやおせんべいがつまったお皿が並んでいた。子どもたちは、先生からおかしを配られるなり、かけ足で席につく。
もぐもぐ、パクパク。おいしそうにチョコレートを食べると、子どもたちは口の周りにチョコがついてまっ黒になる。「どろぼうみたいだよ」と、優しいお母さんみたいな先生が笑いながら言うと、子どもたちはキョトンと首を傾げるのであった。
そうして、「ごちそうさまでした!」と元気にあいさつをした子から、マットがしかれたプレイルームに一直線。ドッジボールを始めたり、つみ木でおしろを作ったりして、遊んでいる。
「うわ~ん!!」
ふと、大声で泣き始めた子どもがいた。その子はくずれたつみ木の前で、身体を丸めて顔を床に押し付けている。泣いている子のそばに、もう一人の子どもが立っていて、キョロキョロ辺りを見回していた。
だんだん、その二人の周りに三人目、四人目の子どもたちが集まってきた。「どうしたの?」「大丈夫?」と口々に声を出す。そのうちの一人が「てうてう先生呼んでくるー」といって、学童クラブ室に走っていった。
それからすぐに、てうてう先生はやってきた。
「えっ、どしたの?」
そう言いながら、てうてう先生こと、てうめっさは、泣いている子の所に近づく。彼は犬の耳を持っていて、背丈は10歳の子どもと同じくらい。子どもたちと同じくらいの目の高さだし、いつも可愛い表情だから、学童クラブの子どもたちに大人気。だけど、叱るときはしっかり叱る、真面目で優しいちょっとイジワルな先生。
てうてう先生は、ワンワン泣いている子のそばでしゃがみこむ。ちょっとだけ、くずれたつみ木と、キョロキョロしている子を見てから、よりそうように話しかけた。
「レンくん、何かあったの?」
丸まっている子ども、つまりレンくんは、息を大きく吸って一瞬だけ泣きやむと、大声で叫ぶ。
「タイガくん、ぼくのおしろこわしたぁ~!」
そうして、レンくんはまたまたワンワンと泣き始めた。タイガくんとは、レンくんの前でキョロキョロしている男の子だ。てうてう先生がなんとなく(そうだろうな)と心の中で思っていると、「てうてう先生、ごめんなさい」とタイガくんがすかさず言った。てうてう先生から目をそらしながら。
「レンくん、何があったの?」
てうてう先生は、もう一度レンくんにたずねた。
「何もしてないのに、タイガくん、つみ木こわした!」
レンくんが言うと、てうてう先生はタイガくんの顔を見た。プレイルームにいる他の子たちは、静かにてうてう先生の話を聞いている。
「タイガくん、そうなの?」
と、てうてう先生が言うと「レンくんがつみ木をかしてくれないから、とろうとした……」とタイガくんが、うつむきながらこたえた。
「そっか~。じゃあ、こわす気はなかったんだね」
てうてう先生は、優しい声でタイガくんに言い聞かせた。タイガくんは居心地わるそうにうなずいた。
「でも、こわしちゃったのは事実だよね」
次にてうてう先生は、丸い目を少しだけ細くした。タイガくんはモジモジと体をゆらしている。
「こわしたことは事実だから、ちゃんと本人にあやまろうね。レンくんも、タイガくんがあやまってくれるけど、きいてくれる?」
するとレンくんは、ずびっとはな水を引っこめながら、ゆっくりと立ちあがる。顔を真っ赤にして、ひくひくと泣くのをガマンして、うわ目づかいでタイガくんを見ている。
「レンくん、ごめんね」
タイガくんは、レンくんではなく、他の子の顔を見ながら言った。レンくんは、じーっとタイガくんを見ているばかり。
「タイガくん、それあやまってるって言わないよー」
タイガくんよりも年上の子が言った。
「タイガくんさ、ごめんなさいって言ってるってことは、ちゃんと反省してもう二度とやならいっていう意味をこめて言う言葉なんだよ」
てうてう先生は言いながら立ち上がった。子どもたちと同じ目の高さになると、タイガくんの方に二、三歩近づいた。
「だからあやまる時は、相手の目をしっかり見て、もう二度としませんっていう意味をふくめてあやまるんだよ?」
タイガくんは、ちょっとくちびるをとがらせながら、小さくうなずいた。納得はできないけれども、てうてう先生の言っていることは理解できた。
「納得はできないけど、理解できた?」
そんなタイガくんの心の中を見たかのように、てうてう先生が言う。
「じゃあちゃんと、もう一回ごめんなさい言える?」
そう言われたタイガくんは、ちゃんとレンくんの方を向きながら「ごめんなさい」とあやまった。
「レンくん、タイガくんがちゃんとあやまってるけど、ゆるしてあげられる?」
てうてう先生がたずねると、レンくんはうなずいて「いいよ」と言った。
「レンくん、イヤなことは言葉でちゃんとイヤだってつたえるのも大切だし、イヤだって言ってもやめてくれないなら、ちゃんと先生が近くにいるから、先生に言ってくれれば、先生が『じゃあ、お話ししてあげるから』ってなるから、ちゃんと先生にもたよるんだよ」
レンくんは「うん」とうなずいた。
「タイガくんも、つみ木をかしてほしいなら、ムリヤリじゃなくて言葉でレンくんに『かして』と言って、それでもかしてくれないんだったら、おたがいかわりばんこに使ったりとか、ちがうオモチャで遊んだりすることができるから、そこはもうちょっと頭を使ってほしいかな」
タイガくんが大きくうなずくと、「じゃあこれでひとつ、タイガくんも学んだね」と、てうてう先生はニコーっと笑ってみせた。
「じゃあ、先生近くで見守っているから、なんかあったら先生に言うんだよ」
てうてう先生が言うと、レンくんもタイガくんもくるりと回って、はなれていった。
てうてう先生の話を聞いていた周りの子も、さっきまで遊んでいたところに戻っていった。そのうち、自分のことを学童クラブ室に呼びに来てくれた子に対して、「呼んでくれてありがとね~」とてうてう先生は言った。「いいよ~!」とその子が答えたら、ドッジボールをはじめた。
てうてう先生は、心の中で(よし)とつぶやいた。本当はイスにすわってやすみたかったけれども、もう一度「てうてう先生!」とよばれたとき、すぐにそこに行けるように、立って子どもたちを見守ることにした。
プレイルームの子どもたちは、すっかりドッジボールやお人形あそびとかに夢中になっている。タイガくんは、プレイルームのあちこちをウロウロしていたが、やがてくずれたつみ木の前でポツンとすわっているレンくんのそばに行った。
「レンくん、つみ木二人でつくろう」
タイガくんは、自分で考えた言葉をレンくんに言った。
「いいよ」
レンくんが答えると、ちょっとだけてうてう先生の方によそ見してから、ゆうきを出して言ってみた。
「……なにつくるの?」
実はレンくん、あまりしゃべらない子だから、こうやってタイガくんにたずねるのは、めずらしいことだったりする。
「ロボットつくりたい!」
タイガくんはうれしくって、目をキラキラかがやかせながら、レンくんのとなりにすわった。
二人を見守っていたてうてう先生は、うでを組んで満足そうに何度もうなずいた。
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