【超短編小説】Barに住む小説家の猫
Ⅰ.この小説について
本作は伊藤乃蒼さんという方をモデルに、限定イベントコミュニティ「プレミアムミート」内部の企画で即興執筆しました。
プレミアムミートは、様々なプレミアムスタッフによる有料イベントが開催されています。
私自身は「したため勉強会プレミアム」として、出張執筆(リアルタイムで小説を書くイベント)としてお金を稼ぐときに気を付けることなど、普段は語らないようなことを講義として説明などしております。
小説にも書きましたが、伊藤乃蒼さんはMOSHにてワンコイン(500円)で1,000字ほどの短い小説執筆を募集している小説家です。
古典文学を嗜まれ、軽妙な文体からの教養溢れる世界が魅力的なので、私の方からも是非ご依頼をお願い申し上げたく存じます!
伊藤乃蒼さん:X(Twitter) note MOSH
Ⅱ.【超短編小説】Barに住む小説家の猫
伊藤乃蒼はBarルパンのカウンターに座って執筆していた。甘ったるいスクリュードライバーを飲みながら、カウンターの上にある原稿用紙に万年筆で小説を書いていた。昨今はテンプレート化されて書き方も改行が過剰に感じる小説が流行っている。だが自分は行間を詰めた、びっしりと文字が詰まった本の世界の方が好きだ。
「今回はファンタジー小説を書いてみようかな」
そう言って乃蒼は、カウンターの脇にあった、自分のお気に入りのファンタジー本に手を伸ばす。スクリュードライバーによる心地良い酩酊が、自分を空想の世界へと誘う。
「剣と魔法か~」
続いて乃蒼は、カウンターの反対側に置かれていた、依頼主の写真を引き寄せる。無限想起と記名された写真には、片目隠れの優しそうな目をした青年が映っていた。乃蒼は500円で1,000文字程の小説を書く仕事を募集しているが、「乃蒼さんは忖度せずにハッキリと書いてくれそうだから」という理由で無限想起は依頼をした。
「僕が書くんだったら――では、あなたを占いますね。数分お時間を頂きます。そうやって書き始めようか」
なんて一瞬、乃蒼は天井を見上げた後に言うと、頭の中にある空想の世界を一気に原稿に書き出した。
「主人公に助言する占い師の役とか面白そうだよね」
独り言ちたことを、SNSでも発信しようかと思ったが、それはまず小説を完成させてからだ。自分は裏話をあれこれ語るよりも、文字を読んだり書いたりするのが好きだ。
そもそも乃蒼が小説の依頼を募集しているのは、お金が目的というよりは、依頼主の小説を書くのが楽しいからだ。そうやって色んな人と出会うのが、とても楽しいことだと信じている。
「できた~」
嬉しそうな少年声がBarルパンに響く。店には誰もいなかったのに、沢山の人と遊んだかのような充実感だった。
それからすぐに原稿用紙をスマホで撮影して、SNSにアップロードした。「主人公に助言する占い師の役とか面白そうだよね」と、ようやく呟くことができたのである。
――そうして、余韻に浸りながらスクリュードライバーを味わうこと十数分後。カラン、と出入口のドアベルが鳴って、乃蒼は背後を振り返った。
「あっいらっしゃいませ~」
新たなお客様が、Barルパンに入店する。インターネットに巣立った、乃蒼の新作を見てくれたのだろうか。初めて会う人だ。きっと素敵な冒険が、また始まる。
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