【掌編・出張執筆】壇上の精霊
Ⅰ.この小説について
本作はメタバースプラットフォームclusterにて、リアルタイムで執筆(出張執筆)されました。
日時:11/17(金)22:00~23:00(プライベートサーバー)
モチーフはヒナミィさん、clusterイベント提供チームMETAドルチェのメンバーです。
私が事前にある程度執筆した下書きをもとに、無限想起さんがイベント中に小説を完成させました。
イベント中、ヒナミィさんや来場いただいたMETAドルチェのメンバーや他のお客様から、ご意見などをいただきながら書き進めました。
Ⅱ.【掌編】壇上の精霊
昔々、あるところに、風の精霊がいました。
彼女の名前はヒナミィ。衣装の仕立て屋さんです。困っている人間に、まるで夢を見ているような美しい衣装を着せることで、助ける仕事をしています。
今日も一人の人間を助けていました。ランウェイを歩く人間に、煌びやかな装いを仕立てあげたのです。真っ白な足で優雅に歩くモデルを、ヒナミィは遠くから見守っていました。
実を言うと、このモデルは元人魚でした。元人魚の女性は、夢だった人間の姿に近づいた証として、人魚にある尾ひれの代わりに、二本の足を獲得しています。それは、風の精霊ヒナミィがかけた魔法により、生まれ変わった活発な姿。だけど内心は、歩き方が変に見えないかと心配しながら、ランウェイを泳ぐように歩いています。
ヒナミィは昔に学んだ事から、彼女にはこの装いがもっとも相応しいと、信じています。装いのレースには、深海を思わせるような青と、キラキラ輝くような泡の光。それは、地上でのキラキラと輝く、希望に満ち溢れた心を表現しています。
モデルの元人魚が精一杯のポーズをランウェイ上で決めました。するとランウェイを見物していた観客の人間からたくさんの歓声が上がります。元人魚は嬉しくなり、観客の中からひと際大きな歓声を上げている小さな少年を見つけると、弾けるような笑顔を向けて、キスを一つ投げました。少年は驚き、照れ笑いを隠すように、少し下を向いてしまいました。
「なんか、すみません……」
少年が小さな声で呟きました。すると元人魚はランウェイから降りて、少年に駆けよっていきました。
「君が一番大きく、元気の出る歓声をくれた!」
「...そのお礼です。」
人間に憧れる元人魚はポンと優しく少年の頭へ手を添えた。そしてまた、少年の憧れとなったのです。
それを見ていたヒナミィは、「人間はこんなに優しいんだ」と呟くと、優しく微笑みました。すると、また一つ、爽やかな風が吹き、花の香りが撒かれます。それは、彼女の魂がまた少し、天国に近づいた証。
いつの日か、誰もが主人公になれる天国が、やって来ると信じて。風の精霊は、次の主人公を探しに、旅に出るのでした。