
【出張執筆】お人形の極彩遊び
本作について
本作は2025年2月16日(日)21:00~22:00に実施した、ソーシャルノバ様協賛のclusterイベント、およびYouTube配信でリアルタイムで執筆した小説です。
ゲストはニム・吟毒屋(ぎんどくや)様で、ファッションや西洋の文化に詳しい点を活かし、普段の彼女とは違ったシチュエーションで主人公にしました。
イベント中はニム様からヒアリングいただき、また観客からコメントでアイディアを募集しながら執筆しました。
後日、ニム様のチャンネルで本作を朗読していただく予定ですので、是非お待ちいただければ幸いです!
◆ニム・吟毒屋 様
X(旧Twitter) YouTube
小説本編:お人形の極彩遊び
その享楽的なバロックの街は、誰もが仮面で素顔を隠している。いつも同じ仮面を付け続けている者もいれば、日によって異なる仮面を付ける者もいる。全員に共通して言えるのは、誰もがお互いの素顔を知らないことだ。
剣の腕よりも、読んだ本の数よりも、作る料理の美味しさよりも。如何に着飾るかが、住人にとって何よりも優先されている。収入も社会的地位も婚姻相手も、塗り固めた美しさの度合いで決まる。似たような仮面やウィッグを被り、露出した肌には石灰を塗りたくる。彼女たちはそれを、『肉体を捨てる』『人間として昇華する』と賛美するらしい。
今宵も花火師たちが、湖上に絶えず花火が咲き散らかす。まるでパニエの大きさを競い比べているように。湖の桟橋で撮影すれば、褒めそやす人間の奪い合いで有利になれるだろう。故に真夜中にも関わらず、人通りが絶えない。
熱狂する人混みの中、一人の女性が闊歩する。スウィングジャズのリズムに合わせるように、楽しそうにスキップしながら。真夜中なのに日傘を差す奇天烈さから、たまに擦れ違う競争相手は目を合わせようとしない。
彼女はこの街で最も小さな仮面を身に着けている。繊細な蝶を模した仮面で、故に肌や唇の生気を感じられない程の蒼白さや、顔ののっぺりとした造形が露になっている。
服装は中性的で――だから本当は『彼女』という表現も不適切化もしれない――深遠な宇宙を映したような星々が衣装に施されている。絶え間ない花火で星の光が消された頭上の闇とは違い、彼女の服の方が余程夜空らしい。街の住人に言わせるならば、彼女は『野良犬のような旅人』に好まれるようなミニスカートで、ベルトには『冒涜的な錬金術師』に好まれるような人工的な染色の薬瓶が収められている。
「まあ、『お人形』がやって来た」
桟橋で写真の被写体になっていた貴族の女性が侮蔑した。気に喰わないのだ。嘲笑をものともせず、大手を振って街を歩けるお人形が。『肉体を捨てる』という崇高な使命を放棄して、自由気ままに衣装を選べる彼女が。
「『お人形』さん、怖いねぇ~」
彼女は全部他人事であるかのように宣った。こき、こきと、球体関節人形が手首を鳴らすような音がした。生地が薄くなっている箇所から、わずかに人ならざるパーツが透けて見える。
「透けているなんて下品な手袋」
また別の女性が侮蔑する。この街では厚手の手袋が流行っている。故にレースのように透けて見える手袋は下品である。地肌の白さは、幾重にも重なった装飾から垣間見えてこそ。玉の肌を見せびらかすのは、美学に対する冒涜である。
「いいでしょこれ。いずれ流行ることになるんだよ」
彼女はさも預言者であるかのように、両手を広げながら闇を見上げてピルエットした。大衆の面前で虚言を流布するなど、異端者極まりない。
桟橋に集う紳士淑女は、隣に居合わせた物同士で耳打ちに勤しむ。密かな糾弾を、あえて見せつけている。たまにお人形の耳に入ってくるのは、「不躾」「不潔だ」「肌が白くない」「年甲斐もなく御転婆」といった言葉の数々。
「プロプルテなんて知ったことか」
お人形は再度高らかに宣った。プロプルテ、あえて訳すならば『清潔』。街の住人たちにとって、プロプルテは石灰を肌に塗りたくる行為らしいが、彼女にとっては違う。自由奔放で、動きやすい服であることだ。
ふいに、今宵で最も盛大な花火の種が立ち昇る。見計らったように、お人形は日傘で自分自身を隠すと、日傘の先から炎が生まれた。大衆が呆然と眺めているうちに、お人形の腰にぶら下げられていた薬瓶から、毳々しい液体が飛び散る。
そうして花火が咲き誇り、爆発音が上空で高鳴ると同時に、日傘から発せられる炎が液体に引火した。お人形の周囲に、この世のものとは思えない光が飛び散る。数百年後にそれは、『ネオン』と形容されることとなる。
大衆が思わず目を瞑り、数秒後に目を開いた次の瞬間。お人形は忽然と消え去っていた。その場には日傘だけが転がっていた。
――あるいはお人形は、人々を置き去りにしたのかもしれない。日傘は微かに、あのペンキのような液体と同じ光を帯びていた。
スタッフクレジット(敬称略)
・sun(主催、ライティング)
X(Twitter):https://x.com/Hermit_Heaven
・ニム・吟毒屋(ゲスト)
X(Twitter):https://x.com/26_0114
・ポリゴン(カメラマン)
X(Twitter):https://x.com/PolygonVR
・LuAr(サムネイル作成)
X(Twitter):https://x.com/hosiyousagi
協賛:ソーシャルノバ 様
公式サイト:https://socialnoba.work/
sun@メタバース小説家のプロフィール

メタバースの人物・ワールド・VTuberの執筆に特化したメタバース小説家。
VTuber配信やメタバース上で、リアルタイムに小説を執筆する『出張執筆』というサービスで活動しています。
また、Skebや直接依頼による通常の小説執筆、メタバースイベントの統括、メタバース人材派遣サービスなども承っております。
・X(Twitter)
・Skeb
・依頼受付フォーム
お買い物リストから食料など送っていただけると、とても励みになります!