ヘラルボニーのアートを纏った「ニコン Z fc」。ユーザーが個性をより発揮できる一台に【ニコン&ヘラルボニー】
ヘラルボニーは「異彩を、放て。」をミッションに、企業様とさまざまなカタチでコラボレーションし、社会課題の解決を目指しています。
今回登場いただくニコンさんは、カメラボディを好みのカラーに変更できるミラーレスカメラ「ニコン Z fc」プレミアムエクステリアモデルに、ヘラルボニー契約作家4名4作品のアートを採用。さらに、「HERALBONY Art Prize 2024」への協賛もしていただきました。
ニコンとヘラルボニーのコラボレーションがスタートしたきっかけから取り組みや狙い、成果、今後の展開について、映像事業部のハウ・ネルソンさん、デザインセンターの鈴木舟さんにお話を伺いました。
今回のコラボレーションで起きたこと
個性が発揮されている異彩アートとのコラボレーションで、「Z fc」のコンセプトがより強化された
ワールドワイドな老舗メーカーのノウハウとスタートアップのスピード感、双方が融合し、シナジー効果を生み出した
両社のアイデアのキャッチボールが、ユニークな検討プロセスやアウトプットの創出に繋がった
すべての原動力は「異彩アート」と出会った感動
――今回、往年のフィルムカメラにインスパイアされたデザインや高い機能や操作性を誇るニコンのカメラ「Z fc」のボディデザインに、ヘラルボニー契約作家の4作品のアートを採用していただきました。まずはその経緯を教えてください。
ハウ・ネルソンさん(以下、ネルソン): きっかけは数年前、弊社の社員が青森県の三沢空港を訪れた時、空港内でヘラルボニーのアートをたまたま目にしたことでした。とても素敵だと感じたそのメンバーは出張後すぐ私のところに来て、ヘラルボニーについて教えてくれて。私が商品開発を担当していた「Z fc」とコラボレーションしてはどうかと提案してくれました。
――それは嬉しいです。しかも、「Z fc」とのコラボレーションを提案してくださったのですね。
ネルソン:はい、往年のカメラは、撮影した写真や動画の鮮明さや美しさを最重要としていました。しかし「Z fc」は、カメラをファッションアイテムとして持ち歩き、撮るプロセス自体も楽しんでもらいたい、撮る人には自分らしさや個性を自由に表現してもらいたいという狙いから、カメラボディの人工皮革を張り替えて好みのカラーにカスタマイズできる「プレミアムエクステリア」というサービスを採用しました。
そういう意味では、ヘラルボニーの「アーティストの個性を世の中に送りだす」という姿に共通する部分がありますし、私もコラボレーションするのにぴったりだと思いました。
――「Z fc」とヘラルボニーに共感する部分を見出していただいたのですね。
ネルソン:はい、さらに調べるとヘラルボニーのミッションが、「異彩を、放て。」だと知りまして、まさにこの部分にも共鳴・共感しましたね。
――ありがとうございます。その後はとんとん拍子でコラボレーションが実現できたのでしょうか?
ネルソン:いいえ、今回はいろいろな意味でまったく新しい挑戦で。通常の製品を開発する際に比べても企画が通るまでに非常に時間がかかりました。というのもまず、ニコンはメーカーなので、多くのお客様に製品を使ってもらって、価値を感じていただき、売り上げに繋げるのが通常のミッションです。
でも、今回のプロジェクトではそこをどう捉え直すのか、国内・海外にこの製品を展開していく意義を徹底的に話し合いました。
そして最終的に、従来の「Z fc」の認知度を若者層中心にさらに高めていくために、「Z fc」プレミアムエクステリアモデルではボディのカラーをカスタマイズできますが、その先の究極の選択肢としてヘラルボニーのアートでカスタマイズし、ユーザーがより個性を発揮できるカメラを目指す、というコンセプトに着地しました。
――商品製作のフェーズに入るまでに、じっくり時間をかけられたのですね。
鈴木舟(以下鈴木):はい、商品製作に着手する前にヘラルボニーの運営する岩手県の「るんびにい美術館」や工房を訪問させていただき、作家さんたちがどうやってアートを描いているのかを学びました。
この過程で、美術館などでヘラルボニーに教えてもらったこと、工房でアーティストたちと出会い、感じたことを、ただの学びで終わらせたくない。ちゃんと形にして世の中に出して、多くの人に伝えたいという気持ちが芽生えました。この気持ちは終始、新しい「Z fc」を生み出す原動力にもなったと思います。
――そう伺ってとても嬉しいです。
鈴木: 一方で、ヘラルボニーの皆さんにも弊社の「ニコンミュージアム」にお越しいただき、ニコンの歴史や大切にしてきたこと、コラボレーションする商品「Z fc」についても深く理解していただきましたね。
――はい、双方のことを理解した上で製作がスタートしました。そして、製作過程においても、アイデア出しからニコンとヘラルボニー間で密にコミュニケーションを取り、双方で意見を出し合う形で進められました。製作過程で心に残っていることはありますか?
鈴木:例えば、コラボレーションモデルのネーミングを決める時。ニコンでは、グローバル展開する上で「英語で発音した時に違和感がないか」「日本語以外の言語の方にとっても覚えやすいか」など多様な観点で検討をしていますが、ヘラルボニーには、作家のアートを採用する以上、必ず作家名をフルネームでつけたいというこだわりがありました。
そうやって双方の譲れない部分を遠慮なく出し合い、そこから最善の策を話し合うことができたのは、相互理解とそれに基づく信頼関係があってこそだったと思います。
また、その集大成ともいえるのがキービジュアルの製作でした。
パッケージデザインを検討する上で、パッケージには1種類のデザインしか展開できないといった制約があり、4つのアートを一つのパッケージで扱うことが難しく、どのようなパッケージが適切か、なかなか前に進みませんでした。
ある会議の後、ヘラルボニー側のデザイナーさんからグラデーションを使うアイデアが出たんです。当時、ニコン側でも別の検討でグラデーションを使ったビジュアルが検討されていたこともあり、そこから4つのアートを並べ、ぼかしを加えてグラデ―ションにするアイデアへと繋がり、今までにないユニークなビジュアルが完成しました。最終的にはパッケージ用のデザインだけでなく、商品の世界観を伝える共通のキービジュアルとして使用することになりました。
まさに、それまで築いてきた関係性に基づく、ボールの投げ合いがあったからこそ。本当に、共創のあるべき形だと思いました。
採用するアート作品は、マーケティング視点で選ばなかった
――「Z fc」のボディに印刷したアート4種類はどのように選ばれたのでしょうか?
鈴木:以前「プレミアムエクステリア」の革のカラーを決めた時は、どちらかというとマーケティングの側面も意識しながら、特にこういうカラーはこういう年代や性別に受けいれられやすいといった観点を踏まえ検討をしていました。今回はより一層、ユーザーが個性を発揮できるというコンセプトを尖らせたいと考えました。
社内アンケートを実施したのですが、特に意識したのは「選び方」です。あくまで休日に訪れた美術館にアートが並んでいて、そこから自分のお気に入りの作品を見つけるような感覚で選んでもらい、自由に意見を募ったんです。
例えば年齢が高めの層からの「プレゼントに使いたい」という意見をはじめ、若い層からの「自分のファッションに合わせたい」「かわいい」「大好き」といった感覚的な意見も参考にしながら、より多くの人が自分個人の好きという感情で選びやすいように、タイプの異なる4種類のアートを選びました。
――カメラの側面にアートをプリントするという点で苦労はありましたか?
鈴木:カメラのボディに合わせた作品のトリミングが必要になってくるので、切り取られた際にオリジナルのアートの印象が損なわれないよう細心の注意を払いました。あとは、トリミングする箇所によって、製造工程の仕上げの検査場で細い線などが汚れやゴミと認識されてしまう恐れがあるので、何パターンも作って試行錯誤しました。
――とても緻密で大変な作業だったのですね。
鈴木:大変でしたが、とても楽しい作業でした。アートを選定する過程から、この作品が実際「Z fc」と合わさったらどうなるんだろうというワクワク感で一杯でしたから。もちろん少々の不安もありました。
――実際サンプルができ上がった時の感想はいかがでしたか?
鈴木:当初構想していた通り、まさに手に取る人の個性を発揮するものになっている!と直感しましたね。パンチ力と言いますか、人の心に訴えかける力はすさまじいと思いました。いろんな人に見せるたびに「いいね!」と言ってもらい、本当に発売後の反響が楽しみですね。
大企業のノウハウと、スタートアップのスピード感が融合
――今回ヘラルボニーとコラボレーションして、いかがでしたか?
ネルソン: ニコンはカメラをはじめ精密機器メーカーなので、カメラ関連のアクセサリーやレンズのコラボレーションは前例がたくさんあります。しかし、ヘラルボニーは業種や業態も違いますし、まったく初めてのことで、売上目標、リリースの時期など、どう判断すればいいのだろう?と迷う場面がたくさんありました。
ただ、それだけに新しく学ぶことが非常に多かったですし、特にヘラルボニーのスピード感には驚きました。判断も行動もとにかく速い。たくさん刺激を受けましたね。
鈴木:プロジェクトを進めながら、新しいアイデアがどんどん生まれて、その都度柔軟に形にしていく過程はとても刺激的でした。また、ヘラルボニー側はデザインチームが少人数であるのに対し、僕たちは多くのデザイナーで組織が構成されています。人数が多い分、多様な意見が出る点がヘラルボニーにとっては勉強になるとコメントをいただいたこともあります。
大手メーカーだからこそ持っているノウハウと、ヘラルボニーのように若いメンバーが集まるベンチャーだからこそ可能なスピード感。両者をうまく融合させることができましたし、お互いにとって良い学びがあったと思います。
――そういっていただけると嬉しいです。ニコンには、国際アートアワード「HERALBONY Art Prize 2024」にもシルバースポンサーとして参画いただきました。
鈴木:製品のコラボレーションと同時にスポンサーとして参画するケースは今までなかったので、これも新しいチャレンジでした。でも、だからこそ実現したことがありまして。「HERALBONY Art Prize 2024」の授賞式会場でヘラルボニーのメンバーに「Z fc」のコラボモデル機を貸し出し、実際使っていただきました。
授賞式会場で皆さんがアートをまとった「Z fc」を手にしている姿を見て、改めて異彩アートの力が感じられましたし、ファッションアイテムとしても素敵だと思いました。「素晴らしいコラボレーションモデルが完成した!」と確信できた瞬間です。
――実際に「Z fc」が使われている姿がイメージできたのですね。今後のヘラルボニーとの取り組みや期待することがあれば、教えてください。
鈴木:もともとは少人数で関わる部門も少ないスタートでのプロジェクトでしたが、HERALBONY Art Prizeへの協賛によって、製作メンバーに加え、コーポレートブランディングやサステナビリティ戦略の部署もヘラルボニーのプロジェクトに参加。社内ワークショップを企画するなどの新しい動きも生まれています。今後もこのパートナーシップをもっと広めて、進められたらいいですね。
――ニコンの中でもヘラルボニーの輪が広がり、新たな活動も始まりつつあるのですね。今後もユーザーの個性の発揮を支えるというミッションの達成に向けて、いろいろな形でご一緒できたら嬉しいです。
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