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知的障害のある人のルーティンがつくりだす新しい音楽
「ん~」「さんね」「な~い」「し~んかんせ~ん」。
4歳上、重度の知的障害を伴う自閉症の兄・翔太は今日も、岩手の自宅で謎の言葉を延々と唱え続けている。
響き自体が心地いいのだろうか、意味や意図はあるのだろうか。
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自宅で延々と鳴り響いている謎で愛おしいBGMでもある。しかし外出先でその声が発せられると、車両から人が消えていく。
スーパーで奇異の目に晒される。小学校時代の登下校中には、不思議な言動として同級生にモノマネされたりもする。
ふと家族の視点を離れると、愛おしいBGMは「ふつうじゃない」と認知され、怪奇音へ変貌を遂げてしまうのだ。
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このような謎の言葉を繰り返す言動は、兄だけに限ったことではない。知的障害のある人や自閉症のある人が、手をパンパンと叩いたり、体をずっと揺らしていたり、同じ言葉を叫び続けるなど、常同行動を繰り返すことは多い。
安心したい、刺激がほしいなど、行動が生まれる要因はさまざまだが、福祉関係者にとっては特別なことではなく「あたりまえのこと」として認知されている。
そんな、とても不思議で謎に満ちた彼等の繰り返す常同行動の数々について友人に力説したとき、ある企画が誕生した。
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それが、現在「金沢21世紀美術館」を舞台に展示発表している作品『ROUTINE RECORDS(ルーティンレコーズ)』である。
“知的障害のある人のルーティンがつくりだす新しい音楽”と題して、特別支援学校や福祉施設に通う知的障害のある人が習慣的に繰り返す、日常の行動(ルーティン)から生まれる音を採取し、プロの音楽家と協働することでリミックスとして昇華するのだ。
例えば、金沢大学附属特別支援学校に通っている橋谷律希さんは、音楽の楽譜のお気に入りのページを持ってバタバタと揺らす。地域支援センターポレポレの高野圭悟さんは、指を規則的な順番で動かし壁や机にタッチする。彼らだからこそ、繰り返し発することのできるオリジナル音である。
そんなルーティン音は美しい音色となり、プロの音楽家が実験的に生成する楽曲となった。金沢21世紀美術館では、聴取した音が音楽となる創造的なプロセスを多角的に体験することができる。
その内容や受ける感動は筆舌に尽くしがたい、ぜひ2023年3月21日までに金沢に足を運んでいただきたい。
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「ROUTINE RECORDS」展覧会初日、金沢21世紀美術館のホールで開催されたトークイベント最後の質問、手が上がった。私はその女性のコメントを聞いて、不覚にも涙してしまったのだ。
「私、週3回ほどバスに乗るんです。いつもバスの中で変なことを何回も呟いたり、ワーって叫んでいる人がいるんです。これからバスでお会いしたら、私も心の中で一緒につぶやく(歌う)ことができる気がしました。」
あのとき、女性がバスで見たような、小学校時代の学校で見たような、通勤中の電車で見たような・・・。あの風景や音を思い返して欲しい。
知的障害のある人のルーティンがつくりだす、新しい音楽「ROUTINE RECORDS」は、実験的音楽を耳で感じながら、あなたの心の記憶を“繰り返し”再生させるプロジェクトである。
本記事は、社会をたのしくする障害者メディア「コトノネ」VOL.45 にヘラルボニー代表・松田崇弥の寄稿文です。許可を得て転載しています。