ヘラルボニーが盛岡で紡ぎたい、新しい暮らしの物語とは
盛岡の川沿いを歩くと、水の音、風に揺れる柳の枝が、日々の慌ただしさを忘れさせてくれます。一方、真冬の盛岡はしびれる寒さの日も。そんな豊かで厳しい自然のなか、この地に本社を構える私たちが紡ぎたいのは「新しい暮らしの物語」です。
2025年1月31日。この日は「異彩の日」がヘラルボニーが設定した記念日として登録されて、初めて迎えた「1月31日」でした。
「盛岡くらし物語賞」受賞について詳細はこちら
今回は受賞を機に「私たちが盛岡から発信したい未来の姿」ついて少しお話しさせてください。
盛岡にすべての人が受け入れられる場所を
わたしたちは2018年から障害のある作家が生み出すアートを軸に、障害の価値観の変容を目指し、盛岡の地から異彩を放ち続けてきました。
そして2025年3月29日。盛岡の老舗百貨店カワトク1階に、初の旗艦店「HERALBONY ISAI PARK」がオープンします。
HERALBONY ISAI PARKが目指すもの
目指すのは「ただそこにいていい」と感じられる空間です。誰もが当たり前に存在できる場所。それは、バリアフリーという設備的な意味だけではありません。「テーマパークでカチューシャをつけて歩くのが自然」であるように、ISAI PARKでは障害の有無に関わらず、個々の存在が自然である世界を目指したいと考えています。
このメッセージを、店舗での実体験や出会いを通じて伝えていきたい。そう思っています。
抽象的な言い方になりますが、ヘラルボニーは「ハードは変えられなくても、ソフトを変えていける会社」だと思っています。例えば、関西の百貨店で、全館コラボレーションをした際、障害のあるお子さんを持つ親御さんが、息子さんや娘さんを連れて、あたりまえのようにお店に足を運んでくれたことがあります。「走ってしまう」「騒いでしまう」といった行動が一般的な店舗では少し迷惑がられてしまうかもしれません。しかし、ヘラルボニーのつくる世界の中では、それが自然で、当たり前に受け入れられる空間がこれまでにも存在していました。
本当の意味で、誰にでも開かれた場所をつくるというのは、バリアフリーにすればOKという話ではないと思います。
そんな帰属意識作ることが重要なのではないかと考えます。これまでも、私たちヘラルボニーが空間の設計などに携わることで「そこに流れる空気感、訪れた人の行動を変えられる」可能性を感じてきました。これが「ソフトを変える」ということだと思っています。
多様性を包み込む公園
ISAI PARKには絵を楽しみにいらっしゃる人もいれば、コーヒーを飲みにいらっしゃる人もいるでしょう。目的の異なる人々が、偶然出会い、異なる価値観や文化を受け入れ、共感する。そんな多様な価値観が行き交う公園のような場所になればと思っています。
地元の方々にとっては「一度は行ったことがある」場所に。日本、世界各地の人にとっては「ここに行くために盛岡に行きたい」と旅の目的となる場所にしたいと考えています。
未来へ向けた挑戦
今回のプロジェクトは、私たちにとっても大きな挑戦です。比較的小さな店舗では、小さな世界にとどまってしまうかもしれません。しかし、大きな店舗で施工を担うからこそ作れる世界観があります。私たちが店を構えさせていただく場所は、これまで20年以上地元の方々に愛された喫茶店があった場所です。今回、このような大きな場所を任せていただけることは、とても光栄ですが、背筋が伸びる思いです。
盛岡から世界へ
私たちは盛岡から世界へと挑戦していきます。目指すのは『障害のイメージを変え誰もがありのままに生きられる社会の実現』です。このビジョンを形にするため、本社を置く盛岡という場所で、アイデンティティを深めながら「ヘラルボニーの世界観」を体現する空間を創ることが必要だと考えています。
この場所は、一過性の流行ではなく、人々に根ざした文化を創り出す拠点にしたいと思っています。そして、誰もが「そこにいていいんだ」と感じられる価値観をここから発信し、新しい物語を紡ぎたい。盛岡から始まる物語がやがて全国へ、そして世界へ広がる波となり、すべての人が自分らしく生きる「少し先の未来」を体現する場所になると信じています。
この場を訪れた人々が新しい価値観に触れ、日常に持ち帰っていただけるような場所にできたらと思っています。
みなさんもぜひ、盛岡で紡がれる新しい物語の主人公としてISAIPARKにいらしてください。
誰もが異彩を放つ公園で、お待ちしています。
執筆:矢野智美
撮影:伊藤隆宗