かすかべ思春期食堂~おむすびの隠し味~【Page15】
三、奥多摩で ③
いつもより少し遅めの4人揃っての夕食は、昼に陽子とありさが作っておいたカレーでした。食べながら陽子は
「ありさちゃんね、手際がいいのよ。助かっちゃった。それだけでなくね、今日は午前中も午後も患者さんたくさんだったから待合室が混んでいたんだけど、ありさちゃんが小さい子の相手やお年寄りのお世話をしてくれて、ほんと助かったの。ありさちゃん子どもあやすのも上手。保育士さんになったらいいんじゃない?」
「あたし、子ども好きなんです。でも保育士って資格取らないといけないんですよね。高校ちゃんと行けないとまずいですよね……」
それを聞いたミズキは、いいこと思いついたとばかりに
「それなら、転校しちゃえば?ここから通えるところに。うちに住んでここから通えばいい!」
「まあ、そんなこと簡単に決めることはない。もう少し様子を見ればいいじゃないか。家に一人でいるのはよくなさそうだから、昼間は待合室ですごしてみたら?手洗いをしっかり、マスクもして。それから木曜日に総合病院の八木原先生にお会いするからありさちゃんもいっしょに行くといい」
そういう父の言葉にミズキは
(あっ、八木原先生って、心療内科の……。私が通院してた時に何回か話した先生……。お父さん、ありさちゃんを診てもらうつもりなんだ)
「そうね、八木原先生なら若い人の相談にもよくのってくださる人だから、何かアドバイスくれるかもしれない。ありさちゃん、ぜひ会ってみて。優しい人よ」と陽子。
「はい、わかりました」
部屋に戻るとミズキが
「ねえ、ありさちゃん、心療内科っていっても精神科とは違うから、別に心を病んでるなんて思わなくていいの。なんなら断っても大丈夫。私は2~3回ちょっとお話ししただけ。診断なんてされてないし」
「え?ミズキちゃんもそういう時あったの?さすが家出先輩!」
「やだー、家出先輩って、やめてくださいよ。だって家出じゃないし、迷子だし」
「それじゃ迷子先輩!あはは」
「もう!どーしても先輩なんですか!でも迷子になったおかげでありささんやハルさんに会えて、それから亡くなったママの実家にも行って、おばあちゃんのこと知って、ママのリアルがわかってちょっとショックなことあったけど、ずっとモヤってたことがすっきりして……、ほんとよかった。その時からなんです。また絵を描き始めたの。それまで3年近く描いてなかったから。今は描くのがすっごく楽しくて……」
「へえ~、あの時いろいろあったんだね、やっぱり先輩だわ」
「こらー!先輩ゆーなー!」
「あはは」「あはは」
「ミズキちゃんは絵が得意だから、目標があっていいね。あたしは何となく高校へ行ったけど何になるってあんまり考えてなかった。お姉ちゃんは栄養士になるって決めて勉強してちゃんと資格も取ってるのにあたしは何にもない……」
「でも、お母さんが言ってたじゃないですか、保育士さんに向いてるって。うちから高校に通ってほしいなー」