女剣士ミズキ改め、
春日部の観光のコンテンツをちりばめたストーリーを何度も書き直してきました。小説としては未熟。挿絵をつけたいけどイラストがうまく描けない。
それでも、この作品が春日部の魅力的なコンテンツとなるよう編集を重ねていきたい。
女剣士ミズキ改め、 一、
「ねえ、待って~!ねえ、あなた誰~?あたしのスイカ返して~!」
駅の改札を出てからミズキは必死に走って追いかけた。
しかし、ロータリーを回ってさらに走っていく男の子になぜか追いつけない。いつのまにか姿を見失い、ハアハア息を切らして交差点に立ち止まった。
(なんて早いの……もう……どこ行っちゃったの……)
膝に手をついてがっくりと肩を落とし背中で息するミズキに
「あの、どうかされましたか?大丈夫ですか?中で休みますか?」
真夏の日盛りに中学生くらいの制服の少女がただならぬ様子でゼイゼイ荒い息なのだ。何かあったのかと、一人の女性がミズキに声をかけた。
ミズキはハア~っと大きく息をついて
「今ここを走っていった男の子……あたしのスイカ持っていっちゃったんです。五歳くらいの……麦わら帽子かぶった男の子」
「え?西瓜?西瓜持って走ってる子は見ませんでしたけど」
「あの、その西瓜じゃなくて……」
ミズキはやっと体を起こし、その女性に目をやると、その女性は白いはっぴを着ている。
「あの……ここはどこですか?」
「春日部情報発信館、ぷらっとかすかべ。観光や名産品の案内をしているところです」
見ると、壁面にクレヨンしんちゃんの絵が大きく描かれている。
(ああ、そういえば春日部って、しんちゃんの……)
「そうなんですか……私、五歳くらいの男の子に私のスイカのカードをもっていかれて探してたんです」
「ああ、西瓜じゃなくて乗り物で使うスイカね。あはは……やだ。そうよね。でもあなた、今、手に持っているの、それスイカじゃないの?」
「え?あっ!どうして?さっき男の子に持っていかれたのに!」
ミズキは自分の右手にスイカが握られているのを見て、ぼうぜんとした。
そんなミズキの様子に、保護する必要があると感じたのか、女性スタッフは施設内の休憩スペースに招き入れて座らせ、冷たいお茶を出した。
「中学生さん?でも地元じゃないみたいね。どこから来たの?」
「青梅です」
「ええっ?青梅って、奥多摩の?遠くから来たのね。おまつりを見に来たの?親戚とか友達とかこっちにいるの?」
ミズキは出されたお茶を口元にもっていくと、さすがにそうとうのどが渇いていたのか、一気にゴクゴクと流し込んで、ふう~っと息をついた。
そこに家族らしい三人連れが入ってきて、何やらにぎやかになったのだが、言葉が日本語ではない。
(中国語?)
ミズキが目をやると先ほどのスタッフがその三人に英語で話しかけ、展示物について何か説明を始めた。十歳くらいの子どもはアニメの原画やグッズに顔を近づけてじっくり見ては両親に中国語で何か言っている。
続いて入ってきたもう一組の客は浴衣を着たカップル。窓際に展示してある大きなみこしを見て何か話している。そこにも別のスタッフがついて説明している。
「これは春日部夏まつりの発祥の八坂神社のみこしで、現在は担がれていないんですが、町内ごとのみこしが二十五基あって、今日と明日パレードなんですよ。とっても見ごたえがありますよ!」
そこに先の中国人家族の母親らしき人が近づき、
「キモノ~!」と声を上げた。子どもは外を走るしんちゃんのラッピングバスを目ざとく見つけて表に走って出ようとするのを父親に止められている。
「こちらは、中国から観光で来たお客様で、お子さんはクレヨンしんちゃんの大ファンなんだそうですよ。今日は宿泊するゲストハウスで浴衣を着せてもらって夜はまつり見物だそうです」
「へえ~、中国でもしんちゃん人気なんだ~。あはは、すごくない?」
カップルは中国人観光客に手を振って街へと出ていった。
スタッフが休憩スペースのテーブルにお茶を三つ運び、中国人に勧めながら
「ウエイタモメンプリーズ。ゲストハウスオーナーズカミングスーン」
そしてミズキには「ゆっくりしてくださいね」と声をかけた。
(あ、こうしてはいられない。あたし行くところがあるんだった)
ミズキは立ち上がった。
青梅の中学二年生、ミズキがどうして春日部に来たのか、これからどこに行こうとしているのか。
それは昨日のことだった。
続く
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