女剣士ミズキ改め、
春日部の観光のコンテンツをちりばめたストーリーを何度も書き直してきました。小説としては未熟。挿絵をつけたいけどイラストがうまく描けない。
それでも、この作品が春日部の魅力的なコンテンツとなるよう編集を重ねていきたい。
女剣士ミズキ改め、三
(あー、なんだかやだ。法事も移動教室も、意味不明の声も)
部屋の中までムシムシと暑くなって、ミズキは頭を掻きむしった。
「ミズキちゃーん、お父さんお帰りですよー。お夕飯食べましょう!」と下から呼ばれた。
「今度遠足があるんだって?どこに行くんだい?」と父の豊に聞かれ
「遠足じゃなくて、移動教室。修学旅行の練習のスカイツリー周辺の見学。でも行けるかどうかわからない。なんだか風邪っぽくて熱が出そう……」
ミズキは法事にも移動教室にも行けないという予防線を張ったのだった。
そこに陽子が
「スカイツリーっていうと、浅草の近くでしょ?浅草といえば、豊さんとミズキちゃんのお母さんの由香里さんが出会った場所ですよね。なんでも、由香里さんが浅草のサンバカーニバルを見に行った時に具合が悪くなって、電柱にもたれかかって休んでいたところに豊さんが通りかかって、声をかけられて、危ない男だと思って振り払おうとしたら『私、医者です』って。それを聞いてほっとして力が抜けて豊さんの腕に倒れこんだって……由香里さん、笑いながら私に話してくれたんですよ」
にこやかに話すのだが、豊は首を振って話をさえぎって、ミズキに
「風邪気味なら早く寝たほうがいい」と一言。
ミズキには母がサンバカーニバルで父と出会ったことは初耳だったが、サンバには思い当たることがあった。二年前の六月、ミズキの十二歳の誕生日を前に母が言っていたこと。
「ミズキの十二歳のお誕生日にはね、ママ、サンバ踊っちゃうよ!」
「何言ってるの?ママ。サンバってブラジルのダンスでしょ?踊れるの?ほんとに踊る?それならね、あたし、ママがサンバ踊ってる絵を描くね!」
けれど、母親がサンバを踊るお誕生日会は実現しなかった。由香里はその前に体調が悪くなり、豊の診療所ではなく、大きな総合病院に入院してしまったのだ。
自分の部屋に上がっていくミズキに下のリビングから陽子と豊が小声で話しているのが聞こえてきた。
(なに?また二人のヒソヒソ話?いっつもあたしに内緒で何か話して。だいたい、看護師だった陽子さんがいつの間にかお父さんと一緒になってて……あたしは何も聞かされてないのに……)
ミズキは階段の踊り場に屈んで聞き耳を立てた。
「思い出させる話はかえってよくないんじゃないか?折を見てあのことは話してやれば……」
「ええ……でもミズキちゃん、傷ついたままの心に蓋しているように思うんです。前回検診に行った時に心療内科の先生にお会いしたので少し相談してみたんですよ。本人が望めばカウンセリングもするけれども、おうちでもお母さんのことを口に出せる機会を作ってみては?って言われたんです」
(あのことって……何?カウンセリング?あたし病んでるの?)
そのときにまたあの声が聞こえてきた。
「……ィキナサィ……スミダガワ……ナリヒラバシ……ウメワカヅカ……」
ミズキは本当に自分がおかしくなってしまったような気がして部屋に入るなり、ベッドに身を投げ出した。
遠くから聞こえていた雷の音が徐々に近づき、大きくなっていた。そしてビカビカーッ!と稲光。その直後にドドーン!と地響きとともに大きな落雷。
ミズキはびっくりして飛び起き、床にへたり込んだ。
近くに落ちたらしく、部屋の電気が消え、真っ暗に。そして叩きつけるような雨音。ザーザーと窓にも吹き付ける雨音の中、また、あの声が。
「……イキナサイ……」
雷と雨の音にさえぎられながらも聞こえてくるのは
「……フル……スミダ……ウメワカ……カス……」
ピカピカっと電気がつき、あたりを見回すと、床に投げ出されている移動教室のプリント。それを拾い上げ、ぼんやり眺めていたミズキが、ハッ!と何かを思いついたように顔をあげた。
(そうだ、それしかない……)