古典派音楽の終結部によく使われるスカート構造について
この構造にすでに名前が付いているのかどうか分からなかったのでスカート(構造)と呼ぶことにします。名前をご存じの方いらっしゃったらぜひお教えいただけると幸いです。
スカート構造とは何か?
古典派音楽の終結部ではしばしば特徴的なフレーズ構造が見られます。
典型的には4,6の和音から始まるカデンツの、最後のトニックの出る小節から始まる、ウラを取る形やウラシャの連続によるフレーズ構造です。多くの場合ウラからドミナント→トニックの動きで繰り返し強拍あるいは強小節に入ります。
この構造は、ある部分の「最後のトニックに入った感じ」をエコーのように繰り返します。ですから通常は完全正格終止から、つまりバスが5度音から1度音へ跳躍し、メロディーが1度音を出したところから始まります。
「ウラを取る形」や「ウラシャ」については音楽のフレーズ構造の4つのパターンを御覧ください。
スカートの後に最後の和音だけウラを取る形の末尾に出したり、標準形のフレーズを使って最後の和音を出すことがよくありますのでその部分を足(foot)と呼ぶことにします。
スカート構造は極めて定型的なもので、いつもほとんど同じ形で用いられます。
典型的な例
次のハイドンの譜例を御覧ください。赤い長い線は4小節グループ(2+2)を囲んでいます。つまり高次の4拍子の存在を示しています。
スカート構造が始まるm.62は、メロディーだけを見ると弱い小節のように思えますが、m.62の4拍目から始まるメロディーはウラを取る形であると考えねばなりません。それは、すぐ後のm.66が最終的な終わりを作るグループの始まりとして強小節に感じられるので、たとえm.63でメロディーがそこを強小節であるように思わせたとしても、それは一時的なものとみなさざるを得なくなるからです。つまり、潜在的に2小節単位の強弱の交代が続いていて、従属的なものとして、メロディーだけがm.63を強い小節と感じさせているということです。これはウラを取る形の構造とまったく同じことになります。
これは、他の同様の例を多く聴くことによってより納得できるでしょう。ですからこの記事ではできるだけ多くの例を挙げるようにしています。
次のモーツァルトの例はm.26からスカート構造が始まります。古典派でよく見られるm.25のようなトリルはその次からスカート構造が始まることが多く、良い目安になります。ここではメロディーがウラシャの形をとっているので、m.26の2拍目から始まっています。先程のハイドンの例での2小節がモーツァルトの例での1小節に当たることに注意してください。
次の例はベートーヴェンの月光ソナタ(第14番)の第3楽章からの例です。スカート構造はほとんどの場合、同じ形をそれぞれ繰り返したペアの形を取ります。ここではm.57からとm.59からの2小節がペアで、次は短くなってm.61とm.62がペアになっています。
このページではその他の例をどんどん挙げていきます。
モーツァルトでの例
ピアノソナタ第1番K.279
3楽章ではウラシャを使ったスカート構造が出ています。ウラシャはウラを取る形を修飾したものです。
ピアノソナタ第2番K.280
2楽章の終結部のスカート構造は変則的に1.5小節単位になっています。
ピアノソナタ第3番 K.281
ピアノソナタ第7番K.309
注意を要する事例
次の例では、モーツァルトは慣例通りm.77からスカート構造を出していると判断できます。というのはm.77からm.84までがちょうど4+4小節となっており、前後の文脈から考えてもこの規則性の持つ力を無視できないからです。しかしこの例の場合、このmm.77–84の8小節は、伴奏がまったく8小節のグループをアピールしていません。そのため、メロディーだけ聴くと、m.78が強小節であるかのように感じられて、ウラを取る形にはほとんど聴こえないのです。
このような場合については、メロディーと伴奏のバランスが極端にメロディー側に寄っている例と考えましょう。結局の所、m.85から新たに4小節単位の動きが始まるので、mm.77–84は4+4という潜在的な枠組みの中で理解されるほかはないと考えられます。というのは、規則性が破られるとしてもすぐに復帰するために、それは一時的な逸脱と理解せざるを得ないからです。
次の例は同様の事例です。これも、mm.69–76の8小節グループをアピールする要素が乏しいために、m.70から新しい部分が開始するように感じられます。しかしスカート構造の一般的な特徴を知っていれば、この例をどのように分析すべきかが分かるのです。
ベートーヴェンでの例
ベートーヴェン ピアノソナタ第1番(Op.2-1)
ベートーヴェン ピアノソナタ第12番(Op.26)
事例は後でさらに追加する予定です。
カテゴリー:音楽理論