打ち合わせはオーダーメイドで。
〜漫画家さんとのやりとりで気をつけていること。⑤〜
G.W.中にもかかわらず、たくさんの方が読んでくれたり、フォローしてくれているみたいで嬉しいかぎりです。どうもありがとうございます。
10連休という稀有な長さの連休中ではありますが、前回からの流れでどうしても書いておきたかったので、連休などの話題はスルーして、今日は打ち合わせの仕方について書いてみます。
よく「どんな打ち合わせの仕方をしてるんですか?」と聞かれます。
特に若い漫画家さんや編集者から聞かれることが多い質問なので、本当はスパッと分かりやすく参考になることを言ってあげたいのですが、なかなかにこれも答えるのが難しい質問なんです。
なぜかというと、僕の場合は一つの決まった打ち合わせのやり方というのはないからです。
前回の記事でも書いたように、漫画家さん皆さんそれぞれで、タイプも違えば性格も違うし、まして描こうとしているものもすべて違うからです。
昔、自分の打ち合わせの仕方ってなんだろうなと思って説明しあぐねている時に、とある漫画家さんから「鈴木さんの打ち合わせはオーダーメイドですよね。」と言ってもらったことがあります。
そう言ってもらえたのが嬉しかったのもあって、以来、打ち合わせの仕方を聞かれた時は「オーダーメイドです」と答えています。
基本は同じ。違うのは?
とはいえ、見たこともないようなもの凄い打ち合わせをしているわけではありません。
基本はたぶん、他の人と同じはずです。
漫画家さんと編集者の打ち合わせって基本的には何をしているか。
簡単に書くと、漫画の打ち合わせは「何を描いてほしいか」「何を見たいか」をお伝えして相談し、漫画家さんに最終的に「これなら描ける」「これは描きたい」と思ってもらうことです。
僕も日々その基本通りに打ち合わせをしています。
では何が違うのか。何から「オーダーメイド」と言われる違いが生まれてくるのか。
まず、他の人と僕で違う点があるとしたら「打ち合わせが長い」ことです。
単純に1回の打ち合わせ時間が長いという時もありますが、1話のために何度もやることも多いです。
以前インタビューを受けて話したことがありますが、極端な場合だと1話作るのに延べ200時間くらい使ったこともあります。
別に長話が好きなわけではありませんよ(笑)。それに毎回100時間も200時間も使ってたら全然漫画が載らなくなるので、そういうのは例外中の例外です。
ただ、漫画家さんが心から納得して次の段階に進めるかどうかを大事にしていると、自然と長くなってしまうんです。
漫画は漫画家さんが描いてくれないと何も始まらないので、漫画家さんが「納得」して前向きになれているかどうかが打ち合わせで一番大事です。
とはいえこちらも日々プロの編集者として読者のことを考え続けているので、僕が納得して作品を読者に提供できるかどうかも大事にしたい。
僕の納得も譲れないけど、そのせいで漫画家さんが納得できないものになっては面白いものにはならない。でも我慢して譲っても最終的に面白いものにならない。。。。
漫画の打ち合わせで難しいのはこの部分で、お互いの「納得」を一致させることに相当時間とエネルギーを使います。
雑談とオーダーと質問。
お互いの納得を一致させることが重要とはいえ、あまりにも打ち合わせにエネルギーを使いすぎると、あとの作業が嫌になってしまいます。
そこで大事にしているのが、雑談とオーダーと質問です。
まず打ち合わせに入る前に雑談をします。雑談には概ね3種類あります。
①アイスブレイク。言葉としては最近知ったのですが、お互いの緊張や不安をほぐすためのものです。漫画家さんは原稿中はずっと仕事場で根を詰めて原稿に集中している毎日なので、こちらがその間何をしていたのかや、何を考えていたのかを話したり、原稿の感想を伝えたりして、漫画家さんの緊張やストレスが解けるようにと意識して話すことが多いです。
②アイドリング。いきなり最初から頭を働かせるのは難しいので、軽い予備運動から始めます。その時話題になっていることなどを取り上げて、「どう思うか」「自分ならどうするか」など、打ち合わせに使うのと同じ頭の体操をするイメージです。予備運動をしながら、さりげなく漫画家さんが今何に興味関心が強いか探ったりもしてます。
③共通言語作り。相手も同じイメージでいるだろうという思い込みは、あとあとで大事故につながってしまいます。例えば「かわいい」や「かっこいい」なら、何が「かわいい」「かっこいい」か、できるだけたわいもない所からイメージをすり合わせておきます。
そんな感じで雑談をしつつ温まってきたら、次に、「今度は何を描いてほしいか」のオーダーになるわけですが、その前に、今がどんな状況で、作品がどんな段階にあるのかの確認をします。
いざ本題へと進む前に、一緒に地図を見直すようなイメージですね。
その確認が済んだら、ようやく打ち合わせの始まりです。
「今度は何を描いてほしいか」というオーダーについて話をし、それについての感想や意見を聞き、聞いたらまたこちらの感想や意見を伝えるという繰り返しをしながら、どういう話、どういう回にするのがベストかを探っていきます。
打ち合わせにもタイプがある。
打ち合わせが「長い」ということ以外、まだ何も特徴的なことを書いていません。それは、まず基本的にどんな話をしているのかを先に知ってもらいたかったからです。
基本があったうえで、一体何がオーダーメイドなのか。
前回の記事で、漫画家さんのタイプについて書いてみました。そちらは漫画の作り方の傾向についてでしたが、打ち合わせについても同じように、人それぞれ色々なタイプがあると思っています。
実際に感じることの多いタイプの違いは以下の5つです。
①早く話を終わらせたい人と、じっくり話したい人。
まじめな話はさっさと集中して終わらせたいという、会ったら30分から1時間で打ち合わせしちゃいたいというタイプ。終わったあとの雑談が長いのは平気なのですが、打ち合わせはとにかく早く本題に入って早く結論を出したい。どうするか相談するよりも、何を頼まれてるのか理解したらそれでOKという人が多い。漫画は自分が1人で描くものという意識が強い人という印象です。
じっくり話したい人は、本題に入るまでの時間もゆっくり使うし、一つ一つの質問にもじっくり考えて答える人が多い。逆に質問してくることが多いのもこのタイプ。自分の中でイメージが固まってくるのをじっくり待っている印象がするのと、イメージを湧かせるためなら何でも利用したいという人という印象がしています。
②話してるのが好きな人と、聞いてるのが好きな人。
意外かもしれませんが、原稿中あまり人と話す機会がないからか、話すことが好きな漫画家さんは結構います。また、最初から最後までずっと話し続ける人も結構います。そういう人は自分からアイディアを出してくることも多い。話してみて相手の反応の良し悪しでどうするか考えるタイプなのだと思います。
一方で、聞いている方が好きで、ずっと編集者の側がする話を聞いているタイプの人も結構います。色々な情報を摂取したいという人や、色々な案や考えを全部聞いてみたいという人、聞いたうえで取捨選択したいというタイプなのかなと思います。打ち合わせで話すよりもネームで絵にしてみて本領発揮する、漫画家さんらしいタイプでもあります。
③予習をしておきたい人と、予断を持ちたくない人。
何事もちゃんと準備をしておきたい人。打ち合わせにも、次はどんな話をするのかちゃんと考えて臨みたいという人。そういう人は必ず何かしら書いて持ってきてくれたり、こちらがオーダーする前に「次何を描きたいか」を話し始めたりします。時間を無駄にしたくないという意識が強い人に多い印象です。
逆に、打ち合わせの瞬間まで予断を持ちたくない人。その時その時の感覚や状況を優先したい人。打ち合わせで編集者の話を聞いて何を感じるかによって考えていきたい人、というタイプもいます。思い込みや予定調和が嫌な人が多い印象です。
どちらも徒労を避けるための行動とも言えますが、人によってはっきりスタンスが分かれるのが面白いです。
④自分が思いつきたい人と、他人の思いつきを活用したい人。
「漫画はあくまで漫画家のもの」というプライドや矜持を持っている漫画家さんが多いです。(とてもいいことだし、その通りだと思っています。)
だからか、作品を作る時に、最初から最後まで全部自分で考え思いつきたいという人が結構います。あまり編集者からの注文やアドバイス、意見を必要としない人で、それは漫画に対する責任感の表れでもあり、自分で全部考えられてこそ漫画家だという強さも感じます。
一方で、漫画を面白くするためならどんなこともあり、という志向のタイプもいます。面白くするためなら自分の意見や考えかはどうでもいい。誰のどんな思いつきにも、何かしらヒントがあるはず。そう考える人。何をどれだけ取り入れても、最後に面白く仕上げるのは自分だというタイプで、こちらはこちらで強さを感じます。
どっちも凄いなと思うのですが、これも人によってはっきりスタンスが違うのが面白いです。
⑤目から入る人と、耳から入る人。
何かで読んだのですが情報が目から入りやすい人と、耳から入りやすい人がいるそうです。仕事相手や友達の中に、「メールしても見ないか見ても忘れるから口で言わないと」という人と、「口で言うと忘れちゃうからメールもしておかないと」という人がいますよね。そんなイメージでしょうか。
打ち合わせでも、あまり色々言われると分からなくなるからメモでまとめてほしいという漫画家さんと、メモやメールだとニュアンスが理解できないから話して聞かせてほしいという漫画家さんとがいます。
どういうところでその違いが生まれてくるのか分かりませんが、これも非常に分かりやすく人によって違うので面白いです。
面白くなるまで諦めない。
漫画の作り方と同様に、打ち合わせのタイプについてもどのタイプがより良いか優劣はありません。ただ人それぞれ色々なタイプがいるということです。
先に書いた通り、打ち合わせは漫画家さんの納得が第一だと思っているので、僕はできるだけ、人それぞれ一番やりやすいやり方に合わせて打ち合わせをします。
基本的な内容は書いた通りですが、人によって順番やタイミング、相手と自分の意見を出す比率などを全部変えるのです。それが「オーダーメイド」ということなのかと思います。
例えば、打ち合わせの前にオーダーを伝えてしまい打ち合わせは確認だけという人もいれば、1回目の打ち合わせは雑談だけで終わり2回目の打ち合わせでようやく本題に入る、という人もいます。
相手の案をひたすら聞いて、その案ごとに全部、採用するとどんな行く末にたどり着きそうか僕がシミュレーションしてみるという人もいれば。逆に、ひたすら僕が案を出しまくって、どこに一番当たりがありそうかイメージしてもらうという人もいます。
こちらがずっと質問している時もあれば、ずっと質問されている時もあります。
本当に人それぞれであり、また、時と場合によって同じ人でも違うやり方を取るケースもあります。
この、打ち合わせの仕方のタイプと、前回の漫画の作り方のタイプを掛け合わせていくと、その人その人にあった全然違う打ち合わせになっていくのですが僕はそのやり方が楽しくて合っているのです。
漫画に正解はないので、どんなやり方でもいい。
どんなやり方であれ「面白くなるまで諦めない」ことが最重要だと思っています。
だから長くなるんですが(笑)。
漫画の作り方のタイプの話がとても反響よかったので、今回は打ち合わせの仕方のタイプについても書いてみました。
ではでは。
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