長所は決めるもの。
〜漫画家さんとのやりとりで気をつけていること。⑦〜
昨日、ようやく第1回スピカ賞(弊社の漫画新人賞)の応募作を読んだコメントを応募者の皆さんにお送りしました。数が多くて大変でしたが、一生懸命書きましたので少しでもお役に立てることを願ってます。
今回の「漫画家さんとのやりとりで気をつけていること。」は、そのコメントを書きながら考えていたことの中から「長所」ということにテーマを絞って書いてみます。
(※コメントを書きながら考えていたことですので、今回はコメントを書く時のこと、つまり相手が目の前にいない状態で何を伝えるか考える時のことだと思って読んでください。)
長所を見つけるために読む。
今回のスピカ賞でもそうですが、普段漫画家志望者の方や新人漫画家さん、まだ結果が出なくて悩んでいる漫画家さんの作品を読む時は、できるだけ長所を見つけることを心がけて読んでいます。
まだ良い結果が出ていない人はあちこちでダメ出しばかりされてきた経験が多いので、その人たちに同じように良くないところを挙げ連ねても、どんどん漫画を描くことが辛くなるばかりでしょう。
それに、漫画に正解はないので、短所を直しても間違いなく良くなってウケるかどうかは分かりません。
まだ自信がない人や、すでに自信を失っている人が、やっても良くなるのか分からない不確かなことを頑張るのはとても難しいことだと思います。
だから、なんとかして長所を見つけてあげたい。
もちろん長所を活かせばすぐウケるのかと言ったら、それも分かりません。でも、自分の長所を言ってもらえた方が励みになるでしょうし、そこを軸に頑張っていけば良いんだと思えることができて一つの支えになると思うからです。
長所はどうやって見つけるか。
そういうことを若い編集者に話すと「どうやって長所を見つけるんですか」と聞かれることが多いです。どんどん伸びてる人やすでに結果を出し始めてる人に比べて、見てすぐに分かる長所が少ないからでしょう。
人によっては「見てすぐ分かる長所がない人をなぜ拾うのか?」と言う人もいるし、パッと見の絵柄ですぐ判断しちゃう人もいます。
でも、僕は以前も書いた通りそれではもったいないと思うし、ある時から「色々知れば出来るようになる」人の強さを知ってしまったので、どうにかして最初の手がかりを見つけてあげたいと思うのです。
では長所はどうやって見つけるか。
一番気をつけて見ているのは、その人が一番エネルギーを注いでいるのはどこかです。エネルギーが注がれていて、他とは少しでも異なる熱量を感じる部分。そこには、描いてる人の「見てほしい」という気持ちがこもっている可能性が高いので、出来るだけ見逃さないように一生懸命読んで探します。
だって「見てほしい」と思って描いてるものを「いいね」と言われたいはずじゃないですか、きっと。全然どうでもいいところじゃなく、「見てほしい」と思って一生懸命に描いたところを拾ってあげたい。
そう思いながら読んで見つけた熱量を感じる部分の中で、最も目にとまりやすそうなもの、心を動かしそうなもの、好きなお客さんが多そうなものに長所を決めます。
そう。決めるんです。
決めるというのが肝です。
長所は決めるもの。
まだうまくいっていない人は、自分の長所がどこか分かっていない人がほとんどです。だからこそ、ハッキリと決めてあげることが大事だと思っています。
長所って、誰かに長所だとハッキリ言われないと分からないものです。特に自信がない人にとっては。だから曖昧なことは言わず、出来るだけハッキリ「どこがどう良いか」決めて言ってあげるのが大事です。
長所をこちらが決めるとなると、それで結果が出なかったらどうしようとか、自分が決めていいのかとか、怯んでしまう編集者が結構います。
僕だって、決めた長所が100万部売れるような武器になるかどうかなんてまったく分からないです。
だけど人間には「その気になる」ってことがあるんです。
どこかを凄く褒められたらとてもいい気分になるし、そこを磨けば突破口が開けるのかと思ったら前より俄然やる気が出て、描く姿勢そのものが変わったりする。すると自然に出来も良くなってくるし、またさらにいい部分が出てきたりする。
曖昧なことを言ってるよりも遥かにいいことが起こるのです。
長所は変化が分かりやすいものにする。
長所を決める時に大事にしていることがあります。
長所は「変化が分かりやすいものにする」ということです。
なぜかというと、目に見えて良くなったと、描いてる人も読んでる方も感じられないと頑張っていけないからです。
最初から「作品全体の雰囲気がいい」とか「人間の機微を描くのがうまい」とか漠然とした抽象的なことを長所にしてしまうと、次の作品でさらに良くなったのかどうかがとても分かりづらい。
読んでくれた人がどう受け取ってくれたかも、とても分かりづらい。
だから僕の場合は、「女の子の照れた顔がとても可愛い」とか「男の子の笑顔がとてもいい」とか、次にもっと一生懸命に描けばすぐに変化が見えそうなところを長所にすることが多いです。
長所は一つにする。
もう一つ大事にしていることがあります。
それは、長所は出来るだけ一つに決めるということです。なぜかというと、あれもこれも良いところだとしてしまうと、結局描く人が何を頑張ればいいのか分からなくなるし、もっと大きなことは読む人にとってどこが魅力な人か分からなくなってしまうからです。
経験を積んで何もかも凄いレベルで出来るようになったらそれは素晴らしいことです。
でも、結果が出てないうちは、まず読んでもらい覚えてもらわないといけない。あれもこれもと欲張ると、どんな人だったか、どんな作品だったかをなかなか覚えてもらいにくい(思い出してもらいにくい)のです。
なのでまずは長所を一つに決めて、それを本当の長所になるまで、覚えてもらうまでやりきることが重要です。
最後にとても大事なこと。
最後に一番重要なのは、長所がさらに伸びた時は精一杯褒めることです。もっと頑張ろうと思ってもらうためにも、本当の自信を身につけてもらうためにも。
以上、ちょっと長くなってしまいましたが、今日は「長所」をテーマに書いてみました。
本気で頑張っている人にいいアドバイスを送る、というのはとても難しいことです。だから、僕はせめて少し元気づけることだけでもできればと思って「長所」を見るようにしています。
ではでは。
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